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第1話『鬼の面を継ぐ者』

夕暮れの神社に、太鼓と笛の音が響く。

境内の舞台で、若宮拓真はひとり、鬼の面をかぶって舞っていた。


手にした木剣を振りかざし、跳ね、回り、腰を落として構える。

神楽特有の静と動が交差する、激しくも凛とした舞。

額から汗が垂れ、呼吸は荒いが、拓真の動きに迷いはなかった。


舞い終えた瞬間、舞台の下から拍手が一つ。

祖父の真一が、腕を組んでうなずいていた。


「……悪くない。だがまだ“神”には届いとらん」


拓真は頷くと、鬼の面を外した。

火照った顔にかかる前髪を払うと、そこには無口な少年の素顔があった。


帰り道、近くのコンビニの前で、同じ高校のクラスメイトたちが集まっていた。

誰かがスマホで音楽を流しながら、動画を見せている。


「見た?これ、ヤバくね? 東京の高校のダンス部らしいよ」


「うちの文化祭で神楽とかやるくらいなら、これ流してたほうが盛り上がるよなー」


「マジそれ。鬼の面とか、時代遅れすぎ。なんか笑えるし」


笑い声が響いた。

その中に、自分の名前が出ているのを聞いた拓真は、足を止める。


「てか、若宮ってガチであれやってんだろ?鬼になって踊るやつ。ヤバくね?」


「妖怪かっての。てか、あいつ友達いるん?」


拓真は何も言わず、その場を通り過ぎた。

彼らに怒るでも、悲しむでもなく。ただ、舞台の上で自分が感じた“何か”だけを信じていた。



翌朝、クラスに一人の転校生がやってきた。


「真堂レオです。東京から来ました。よろしく」


軽い口調と整った顔立ちに、女子たちはざわめいた。

だが、その直後だった。


「先生、ちょっとスペース借りていいですか? 自己紹介がてら、やります」


レオはリュックからポータブルスピーカーを取り出し、スマホを接続。

ビートが鳴る。

レオは教室の中央に立ち、軽やかにステップを踏み始めた。


そこから始まったのは、まるで重力を無視するようなダンス。

床に手をつき、片足を高速回転させ、ジャンプして逆立ちし、回転する。


——ブレイクダンス。


教室が一気に沸いた。


「すげえ!」


「なにあれ!?」


「やば、レベル違う!」


拓真は、目を見開いたまま、その動きを見つめていた。

鬼の面をつけた自分の動きと、どこか似ている気がしたのだ。


「重心の移動、腕の支え、踏み込み方……神楽と通じるものが……?」


興奮とも、混乱ともつかぬ気持ちが、胸を騒がせていた。

そして、レオの目がふと拓真と合った。


一瞬——だが、なぜか深くえぐられるような視線。


レオがニッと笑った。


「君、なんかおもしろそうな動き、しそうだね」


拓真の中で、何かが音を立てて動き出した瞬間だった。

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