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22歳の大学4年生だった頃、わたしは周りの友達よりも少し早めに内定をもらった。就職先も決まり、後は卒論のみとなる。それなら残りの大学生活をエンジョイしてやろうじゃないかと、友達が大阪の心斎橋で主催するカラオケパーティーに参加してみた。そこでボスニア人のドラと恋に落ちる。
ドラはわたしより9歳上の31歳だった。目がくりくりしたベビーフェイスでとてもではないけれど31歳には見えなかった。24歳から26歳くらいと言われても通用するほどだったのだ。ドラは子どもがいないものの、日本人の元奥さんと離婚したことがある。それも11ヶ月弱でスピード離婚したけれど、離婚して半年後にわたしと出会ったのだ。
ドラに離婚理由を訊いてみると、元奥さんからの束縛やDVがあったとのことだった。わたしはその離婚理由を信用しきっていたし、わたしなら絶対にそんな想いはさせないと思っていた。嘘かもしれない可能性だってあるのにも関わらず。
ドラと付き合い始めてからは毎日が幸せだった。ドラはまるでわたしをお姫様みたいに可愛がってくれた。わたしのアルバイト先まで迎えに来てくれたこともあれば、一緒に四条河原町のタリーズで勉強したこともある。わたしは鳩が得意ではないけれど、ドラが鳩を追い払ってくれたこともあった。
そんなドラはわたしと結婚して家庭を築きたい、子どもがほしいとよく言っていた。わたしもドラと結婚したいと思っていた。就職先も決まっていたけれど、ドラと一緒なら日本でもボスニアでもアメリカでもドイツでもオーストラリアでもイギリスでもオーストリアでもどこでもついていくつもりでいたのだ。
わたしたちの会話は英語だったので会話には不自由せず、ボスニアに住むことになったらわたしの仕事はなんとかするとドラが言ってくれていたこともあり、愛さえあれば何もかもどうにかなると思っていたのだ。住む場所も、わたしの仕事も、ボスニア語が話せない問題も、ドラの離婚歴のことも、お金のことも、出身地のことも、何もかもだ。国際結婚は苦労するよと言われたけれど、別にわたしたちには関係ないしと思っていた。
日本では再婚で結婚式をするとなると反感を買うことが多いけれど、ボスニアでは必ず結婚式をしなければならない(結婚式をする場所は、市役所か教会になる)ので再婚だからといって制限されることはなかったのだ。わたしにとっては初めてのことでも、ドラにとっては2回目なので温度差が出るかもしれないと気になっていた。けれどわたしはドラと結婚できればそれで良いと思っていたので、さほど深くは考えていなかったのだ。