そいつ
「暑い…暑すぎる!」
そういい飛び起きた、私、神下正信、高校2年生で友達からは良く「のっぶ」や「まさ」なんて言われている家族構成は両親+犬1匹の計4人?家族だーー
高2なら部活などに打ち込む奴も多いと思うが私はそんな努力家などてはないため、帰宅部だ、だがそんな帰宅部でも今年は良かったと思える、今年の夏は例年とは違い気温が2℃も高いらしく、運動部のやつらは「外にクーラー付けろ!」なんて言っている…多分猛暑で頭がやられたのだろう…そんな奴らを私は嘲笑いながら見ていたが、その猛威が私にも来た、暑すぎて2度寝しようにも寝れないのだ、私は唸りながら起きた。
「起きたー?叫び声聞こえたけどー?」
母の声が聞こえた。
「起きたー」
そう私は返事をして、自室を後にした。
下に降りると、父が身支度を終えた後らしく朝食を食べていた、
母はもう朝食を食べ終えたのか皿洗いをしている、犬はというとこの暑さなのに…いやクーラーが効いているからか、私の叫び声も無視してぐっすり眠っている、羨ましい…
犬を横目に私は机の上に置かれた朝食を食べ始めると同時に父が先に仕事場へ行くようだ、その数十分後に母も仕事へ行ったーー
今日は午後から授業なので午前中はゆっくりできる、テレビを付けてみても、どのニュース番組もこの異常気象についてばっかりだ、ボーッとしながら見ていると犬がようやく起きたようだ、尻尾を振りながら餌のある方向へ向かって行った、
そうこうしている内にそろそろ家を出る時間だ、身支度をし、忘れ物がないかの最終確認をしてから私は家を出たーー
「明日から夏休みだがハメを外しすぎないように、それと…」
学校の先生が在り来りな言葉を言っているーー
「なぁ!明日どっか遊びに行かね?」
こいつは友人の一宮初、陸上部で外向的な性格をしていてとにかく声がデカく煩いやつだ
「どこってどこだよ」
「それを今から決めるんだよ!」
「分かった、分かったから、叫ぶのはやめてくれ…耳がキーンってなる」
「ははは!すまねぇ、すまねぇ笑」
ぶっ飛ばすぞこいつ…
「でもこんな暑い時にわざわざ外で遊ぶのか?死ぬぞ?」
「おいおい、縁起でもねぇこと言うなよ、そうだなー…祭りは再来週だし、海入るには少し早いし…」
「いや全然早くないだろ、寧ろ今だろ」
「いや!そうだけど!早くないけど!ほら…どうせなら水着のボインな姉ちゃん見たいじゃん?」
多分こいつの脳内は真っピンクだ
「んー…そうだなー、あ!そうだ!」
何か閃いたようだ、次変なこと言ったら蹴り飛ばしてやる
「肝試しとか行かね?!」
「…………は?」
「だから!肝試し!」
「いや、聞こえてるよ、そうじゃなくて夏休み初日からか?これこそ早すぎる気がするんだが、それにここ都心だぞ?そんな場所ないだろ」
「肝試しに早いも遅いもねぇーだろ!それに肝試しならのっぶの別荘の近くに山あるって言ってたまろ?そこに行きゃーいいじゃねーか!」
「あれは別荘じゃなくて死んだじいちゃんの家だ!」
そう12年前の春じちゃんが死んだ、小さかったという事もありじいちゃんの事はあまり覚えていない、ただうる覚えだがよく「あの山にはーーがいる、そのーーは山ん中にあるーーにおるんじゃが、近づいてはならんーー」もっと言っていたかもだが当時4歳という事もあってよく覚えていない、ただあの山に何かがいるのは確かだ…
「肝試しって聞こえたんだけど?!私達も行っていい?!」
「ね!楽しそう!」
そう目をキラキラさせながらこちらに向かってくるのは、月草香純と藤山花だ、こいつらとは高一の時から一緒で香純はモデルみたいにスラッとしているが初と一緒の陸上部で、なんと県2位だ、この見た目からは想像出来ないほど運動神経抜群だ、性格は松岡修造を5割くらい薄めた感じだ、一方花は華奢な見た目をしていて、その見た目通り美術部に入っており、とても絵が上手だ、性格は少し内向的だが仲良くなれればよく話す明るい子だ
「香純と花じゃねーか、お前らも一緒に行くか?」
「当たり前でしょー?そんな楽しそうな事行かない訳ないじゃん!」
「うんうん!夏休みっぽくていいね!」
「よし!そうと決まれば後は集合時間だな!時間はそうだなー…」
「ねぇ!集合は朝にしてさ!朝から遊ばない?それで夜肝試しに行けば!それにさっきチョロっと聞こえてきたけど山ん中の別荘でしょー?近くに川とかあるんだったらさ!釣りとかどうよ!」
「いいけど…私、釣りした事ないんだ…」
「え?!花釣りしたことないの?!」
「う、うん…」
「釣りってのはなー!…」
「ちょっと待った!釣りを語るのもいいけどお前ら親はそんな危なっかしい事許可してくれるのか?」
「おいおい、のっぶ、そんなの当たり前だろ?許可してくれるわけねーだろ!」
「はぁ?じゃあ決めたって意味ないだろ」
「お前分かってないなー…」
「は?」
「親にはのっぶの別荘に泊まるって言えばいいだろー?」
こいつは変な所で頭が回る…そのまま何も言い返せずに、予定が決まってしまった…
~~~~~~~~次の日~~~~~~~~
「のっぶ!こっちぃー!」
そう手を振っているのは私より先に付いていた香純だった、遅れたと思ったのに見渡す限り香純しかいないのに違和感を覚えた、
「初と花はまだ来てないのか?」
「うん、少し遅れるみたいで…」
「そうか…」
何かあったのだろうか…その時
「ワッ!!!!」
「うわぁぁぁ!!!」
突然の後ろで声がしたので脊髄反射的につい大声が出てしまった…周りの目が痛い…後ろを振り向くと、初と少しビックリした表情を浮かべている花が立っていた
「おいおい、のっぶ、驚き過ぎだろー笑」
そういい初は腹を抱えて笑っていた、平手打ちしてやりたい…
「花と初来たんだ、遅かったね?なんかあった?」
「うん、人身事故があったみたいで、遅れたの」
「えぇー…マジか、それで遅れたのか…それじゃあ花と初が何か事故にあったって訳じゃないんだね?良かったぁー…遅いからもしかしたら事故ったんじゃないかって心配してたんだよ…」
「あはは、ごめんごめん、連絡の1つくらい入れれば良かったね」
「まぁ、とりあえず全員揃ったことやし、行くか!のっぶの別荘に!」
「だから!じいちゃんの家だって!」
「あ、わりぃ笑」
こいつーー
じいちゃんの家は少し距離があり、電車に1時間ほど揺られ、そこから電車の乗り換えをして30分、それからバスに乗り30分程度なので、香純が言っていた朝から遊ぶ、というのは少しキツそうだ…
ー電車にてー
「平日の9時って言っても案外人いるなー」
「そうだね、でも行く場所は山の近くだし、これから人が少なくなってくるんじゃない?」
「そうだろうなー」
「…」
「流石に暇になるなぁ…」
「そうだ!のっぶ!肝試しする山の事とかって何か分かる?」
「山の事?か…」
ちょっと言葉に詰まる、実は私自身も山は入った事が無いのだ、いや…無かったと思う…
「それが何も分からないんだよな…俺自身じいちゃんに山は危ないから入るなって言われてたし…」
「そうなんだ、じゃあ未知の領域って事か…ワクワクするね!」
多分こいつは単細胞生物なんだと思う…
それからは何事もなく、ただたわいない話をしながら電車を乗り換えて、バスに乗り込んだ
「ここ海見えるけど、もしかしてお爺さんの家からも海見えたりするの?」
「見えるね、じいちゃん海好きだったから…」
「もしかして砂浜あったり?」
「う、うん」
「ええええええええ?!嘘でしょー?!」
そう言いながら私の事をバンバン叩いてくる…痛い…
「あ、そうだった、伝えるの忘れとったな、海あったな」
「そうだな、なんで忘れてたんだろ…」
「ちょっとのっぶも初も酷いー!言ってくれたら私水着持ってきてたのにぃー…もぉ…」
この瞬間私は見逃さなかった初の鼻の下が伸びることを…
「まぁ、まぁ、でも入ることは出来なくても足くらいなら付かれるんじゃない?」
「そうだけどさぁー…」
「ね、正信君も初君も行くのは久々なんでしょ?それなら忘れててもしょうがないよ」
目の前にいるのは天使だろうか…いつも以上に彼女が眩しく見える…
そうこうしているうちにバスが着いた
「つ!い!たー!」
「つ!い!たー!」
そう初と香純が叫んだ。
「ホントに海が見えるんだね、素敵な所〜」
チリーン
「ん?なんか鈴の音聞こえなかったか?」
「え?聞こえた?」
「うん、チリーンって鈴の音が…」
「あ!見て!猫だ!」
そう言い香純は猫に向かって走り出した
「えー!何この子可愛すぎるんですけどー!」
「首輪付いてるしどこかこ家猫かな?」
「いや、この辺に家なんてここしかないぞ?それに隣の家までは結構距離あったと思うし…」
「それじゃあ家出猫?」
「なにそれ笑」
皆笑っているが、私はこの猫に違和感を覚えた、初の言う通り隣の家までは結構距離があり、それも20km近くだ、その距離を猫が汚れもせず、これ程までに綺麗に毛並みを揃えているのは、にわかに信じ難い…
「猫も良いが、まずは家に行こう、ここから10分くらい歩くんだ」
「のっぶの爺ちゃんの家話には聞いてたけど、ホントに遠いなー、あ、花大丈夫?」
「大丈夫だよー笑、初君流石に私を舐めすぎ笑」
「なにー?初、花ちゃん気遣っちゃって、もしかして意中の…」
「ち、違うびゃぁい!!」
「あはは!噛んじゃって笑」
「うぅ…余計に暑くさせんなよ…」
「おっかしー笑」
「はいはい、口動かす前に足を動かせ」
「はーい」
「はーい」
「はい…」
家についた、久々にくる家は想像より綺麗だった、親戚の人が綺麗にしてくれているのだろうか…
「案外綺麗だねー」
「もっとオンボロを想像してたけど、そうだな」
「おい、お前ら他人の家だぞ、とりあえず荷物はそこの通路を右に言ったら和室があるからそこに置いておいてくれ」
「おっけー」
「ねぇ、正信君」
「うん?」
「さっきこんなの拾ったんだけど…」
何かのカギ…?か?錆び付いてしまっていてよく分からない
「なんだ?これ?」
「カギ…だと思うんだけど、もしかして大事なカギとかじゃないのかな?」
「いや、大事な鍵とかこの家の鍵とかは親が保管してるし、多分誰かの落し物でしょ」
「うーん…そうだといいけど…」
花は何か言いたげな表情をしていたが、私もこの家にきたの久々だから少し中をみたい気持ちがあった
「まぁ、気になるようなら、家に置いておく?」
「うん、そうする」
「キャァァァァァァァァァ」
「うぉぉぉぉぁぁ」
香純と初の悲鳴だ
「どうした?!」
「あ、ごめん、後ろ向いたら猫がいたから、それにビックリして…」
「俺はこいつ(香純)の声にビックリして…」
そこにはさっきバス停で見た猫がいた
「こいつ、あそこで見た猫じゃね?」
「え、でも来る途中見かけなかったけど?」
「抜け道でもあるのかな?」
「ある…のか?」
「私達に着いてきたって事?!ますます可愛いんだけど?!」
花は抜け道があるのかなと言っていたが、そんなのあるはずがない、ほぼ1本道だし、抜けれたとしても大きな川があり橋を渡らないといけないが…この猫はいったい…
猫に触ろうとした瞬間
バン
「?!」
「え!?なに?!」
「なんか落ちた?!」
「みんな…外…」
そこには空から落ちてきたのであろう、動物の死骸がそこにあった。
「え…なにあの動物…?」
「動物…なの?」
「動物にしては少しおかしくないか?」
その動物は異様に口が大きく裂けていて、大きさからして4足歩行だと思うが足が1本多い5足になっていた…そして毛のない犬に人間が加わった感じの見た目をしていた
「なになになに?!怖いんですけど?!」
「ど、どうする?見に行ってみるか?」
「え?!やだやだやだ!急に動き出したりしたらどうすんの?!」
パニック状態だ
モゾ
ガタガタ
「∝‘∵∢...」
多分…あれは動物なんかじゃない…化け物だ、普通の動物があれほど大きな音がするほどの高さから落ちて助かるわけが無いし…何を言っているかは分からないが確実に何か喋っていた…
急にその化け物は首を90°こちらに向けて…
「あははははははははははははははははは「あははははははは「あはは「あは「あはははははははははははははははは「あははははははははははははははははははははは「あははははははは「あはははは「あははははははははは「あははははははははははははははははははははははは「あはははははははは「ははははは「はははははははははははは「あはは「はは「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは「あははははははは「あははははははははははははははははははははは「あははははははははははははははははは「あはははは「ははははははははははは「はははははははははははははは「あはははは…
そこらじゅうから笑い声が聞こえた、そいつも笑っていた、だがそいつ以外も笑っていた、何匹もいた「そいつ」が目には見えてないが何匹もいるのだろう…
一頻り笑った「そいつ」はどこからか取り出した羽を羽ばたつかさせてどこかへ行ってしまった、初めはトンビが誤って落としてしまったのだと思ったが違った、そいつは飛ぶ練習をしていた、毛が無かったのは「そいつ」がまだ幼児だからだ、多分これからも「そいつ」は増え続けるのだろう…そしてこれからあの家に近づくことは無いだろう…
みんな無言で帰った、いつの間にか猫は消えていて、置いておいたはずのカギもなくなっていた、今ならわかる気がする多分あのカギは爺ちゃんがよく言っていた所の物だと、そして爺ちゃんが死に、管理する人間が居なくなってしまったが為に「そいつ」は出てきたのだ…
それからは、ただ暑い暑い夏が過ぎていった、初、香純、花はあの事件から部活にも出ず、家からも出てないようだ、それもそのはずだ、「そいつ」の笑い声が頭から離れないのだ、音楽を聞いても、耳栓をしても、ましてや寝ていてもだ…そして、親が話しているのを聞いたのだが、「あの家」の近くに観光ホテルの建設を予定していたらしいが、そこに向かった従業員数名が、首から上がなく、「なにか」から逃げるようになって死んでいたようで、その近くには扉が空いた小さな祠があったみたいだ、
あぁ…僕達はなんて運が良いのだろう、ただの声が聞こえるだけで済んだのだから…
「あは」