第9話 お泊り②
夕食は瞳が作ってくれた料理に舌鼓を打ちながら、お互いの前世とその後の身の上について語り合った。
「私が賊に殺された後、ルシスはどうなったの?」
「……執事の任が解かれ、辺境の地へ飛ばされました。そこで魔物の大群に遭遇し、為す術もなくやられてしまい、今の世界へ転生しました」
「そうだったの……ごめんなさい、私のせいでルシスを殺してしまったようなものね」
「謝るのは私の方です! 不覚にも、姫様を守れなかった私の落ち度が原因。こうして、また姫様と巡り合えたのは本当に奇跡。今度は必ず姫様を守り抜く覚悟です」
「馬鹿ね。前世は私が姫って立場だから命を狙われたけど、今は普通の女子高生。気持ち有難く受け取っておくわ」
前世は賊の待ち伏せに遭い、不幸にも私の人生はそこで幕を下ろした。
別にその件でルシスを責め立てるつもりはないし、私のせいで辺境へ左遷させられてしまった上に魔物に殺されてしまったことに申し訳がないぐらいだ。
その事をはっきり伝えると、瞳は俯いたまま泣いてしまった。
「よしよし、ルシスは頑張ったんだ。もう前世は忘れて、今をしっかり生きていこうよ」
「はい……姫様」
「私は雪。咲田雪って立派な名前があるんだから、これからは雪って呼んで。私も瞳先輩って呼んであげるから」
「うう、瞳と呼んでください」
「じゃあ、二人っきりではそう呼ぶことにするけど、学校では瞳先輩で通すわよ」
「分かりました。それでは私は雪様と……」
「様はいらん。雪でいいからね」
私は念押しして瞳を説得すると、困惑しながらも了承してくれた。
「ほら、私の名前を言ってごらんなさい。恋人同士なら当たり前のことよ」
「ゆ……き」
名前を呼び捨てにするのに抵抗感があるようだ。
(やれやれ……)
しょうがないので、私は瞳の背中を後押しするような形で耳元に彼女をその気にさせる魔法の言葉を囁く。
「瞳が好きよ。貴女も私に想いを伝えて?」
「ひゃっ! 勿論、私も大好きです」
「それじゃあ及第点をあげられないわ。もう一度、文武両道のお嬢様には相応しい台詞を頂戴」
改めて瞳に問うと、彼女の顎に手を添えてその気にさせる。
すると――。
「私は……雪ちゃんをこの世の誰よりも一番愛しています!」
瞳は思い切った言葉を私にぶつけると、その勢いに任せて私を押し倒してしまった。
「雪ちゃんが大好きです」
私の顔に瞳の胸が覆い被さるように当たると、世話の焼ける先輩だと苦笑してしまった。