第7話 試される二人
「それで、私が好きだから一緒にいたいと?」
「えっと……はい、そういうことです」
お互い昂った感情が落ち着きを取り戻すと、瞳は顔を俯いたまま答えて見せる。
勢いに任せて本音をぶちまけた瞳に、気持ちの整理が追いつかないでいる。
「その好きって、リンゴやミカンが好きってやつじゃなくて?」
私の問いに瞳は小さく首を横に振って答えて見せる。
「友人って選択もあったでしょうに」
恋人ではなく、その他大勢の友人として関係を保つこともできただろう。
私としては、過去の関係を断ち切って瞳のこれからの人生を遠くから見守ることでいいいと思っていた。
安易に今まで通りの関係や新たに友人関係を続けても、この子の人生を私が邪魔してしまうような気がした。
だが、恋人ならどうだろうか。
残念ながら、前世を含めて恋人を作った経験がないので反応に困ってしまう。
「私と恋人はダメですか?」
「駄目っていうか、その前に私達は女同士よ」
相手が女の子の恋人。
その界隈では百合と位置付けられている。
「ええ、承知しております。初めて姫様の執事を任された時から……王族の身分でいらっしゃった姫様と恋仲になるのは叶う筈もなく、心の中で諦めていました。でも、身分に縛られない転生した今なら勇気を持って告白もできました」
「あんたって人は……身分がどうだろうと前世で告白しなさいよ。こんな転生後のカラオケルームで、しかも学校で人気者のお嬢様から告白されるなんて夢にも思わなかったわよ」
前世から私のことを想ってくれていたのは素直に嬉しい。
そんな想いに気付かなかった私の鈍感さは悔やまれるが、こうして勇気を振り絞って告白してくれた瞳のためにも私も応えないといけない。
「恋人同士って……しかも女同士の恋人ってよく分からないし、あんたには来栖瞳として相応しい人生を過ごしてほしいの。あんたが無理して私の傍にいようと恋人を装っているのなら、恋人の話はお断りよ。でも、あんたが本気なら話は別」
私は瞳と向き合いながら、傍によって彼女の両手を握って唇にキスをする。
先程の悪戯心で頬にキスをしたのとは違い、本当に恋人を望んでいるなら、キスを受け入れる筈だと思う。
拒否するようなら、それまでの話だ。
しかし、瞳は拒否するどころか興奮気味に私の唇に小さな舌を入れて答えを示してくれた。
「ハァハァ……これでよろしいですか?」
濃密な時間は数十秒、それ以上続いたかもしれない。
自信満々な笑みを浮かべる瞳は不満なら何度でも受け入れるつもりだ。
(こんなの凄いよ……)
試していた立場の私が最終的に瞳の熱量に当てられてしまった。