第4話 待ち合わせ
「雪、どこか寄り道して一緒に帰ろっか」
「ごめん、今日はちょっとパス」
「えー、つれないなぁ。じゃあ、明日の休みにどこか行こうよ」
「そうだなぁ……今日の宿題の件もあったし、明日は南の好きな甘いお菓子を奢るわ」
「OK、約束だよ。それじゃあ、詳しいことは後で連絡するね」
幼馴染の南に引き止められて、彼女と遊ぶ約束を交わす。
元々、明日は南と日頃のストレス発散で遊びに誘おうとしていたので、今日の宿題で世話になった彼女を労う意味でも良い機会だった。
南は仕方なくそのまま他の女子生徒達と合流し、私は急いで瞳と約束した場所へ移動を始めた。
隣駅に降りて、商店街の裏路地に差し掛かると約束しているカラオケ屋が見えてきた。
ここはあまり人目につかないおかげで、並ばずにすぐ部屋へ通されるし、南とはたまに訪れて歌声を披露する場となっている。
今日はその南も他の子達と一緒だし、この場所を知っている生徒はおそらく少数だと思っている。
「まだ来てないわね」
待ち合わせ場所に、まだ瞳の姿はない。
本当は学校から一緒に連れて行きたかったが、才色兼備のお嬢様である瞳と並んで歩くのはどうしても目立ってしまう。
それで変な噂が立ってしまうのは避けたかったし、不本意だがお互いにこうして忍んで会うことが最善策な訳だ。
「何だかドキドキするわね」
待ち人はかつての執事であり、今は女子生徒達が憧れるお嬢様。
どんな表情で待ち構えていたらいいのか不安が募ると同時に、胸の高鳴りが止まらない。
ここは前世のようにお姫様っぽく出迎えればいいのか、それとも上級生の先輩を敬うように出迎えればいいのか。
「姫様! お待たせして申し訳ありません」
正面から澄んだ大きな声が聞こえると、そこには鞄を片手に学校の制服に身を包んだ瞳の姿があった。
職員室の前でぶつかった時や屋上で話した時にも、この目で見ていたのだが、抜群のスタイルで可憐な女子高生である瞳を改めて目にすると、その人気に納得してしまう。
「キャ!?」
今度は小さな悲鳴のようなものが聞こえると、瞳は勢いよく走り出してこちらへ向かおうとしたが、途中の道端に躓いて転んでしまった。
「大変!」
私はすぐに駆け付けると、瞳の肩を抱えて怪我の具合を心配する。
幸いにも、膝を少々擦り剥いた程度で、私は鞄から絆創膏を取り出して応急処置を施す。
「これでよし」
瞳の足元やスカートの部分を軽く手で払ってあげると、地面に落ちていた彼女の鞄を拾い上げて持ち主に手渡す。
「あ……ありがとうございます。このような失態をお見せして申し訳ありません」
「いいのよ。でも、そのドジっぷりは昔と変わってなくて安心したっていうか、ルシスっぽくて私は好きよ」
姿形は変わっても、内面の部分は変わってなくて何故だか自然と笑みがこぼれてしまった。