第20話 想い
「ねぇ……雪は私のこと嫌い?」
トロンとした目でこちらを窺う南は私を抱き締める。
「好きだけど……こんな好きじゃないよ」
幼馴染の彼女はあくまで親友としての枠組みで好きであり、恋愛対象とは違う。
しかし、南は違っていた。
「私は雪が好き。幼馴染で初めて出会った時からずっと、雪のことを意識していた。ガサツで宿題とか私が面倒を見てあげないと危なっかしいけど、雪は優しくて頼りになるんだよ。そんな雪を誰かに取られたりするのは嫌なの!」
南は激しく旨の内を告白すると、彼女の意思は本物だ。
私を好きでいてくれる気持ちは素直に嬉しいが、ここで彼女を突き放すようなことをすれば今までの関係が壊れてしまいそうな予感がする。
南の暴走を止めて欲しいと外野で見守る女神に視線を送るが、二人の様子に満足しながら応援する始末だ。
「昨晩は皆川先輩と一緒だったようだけど、正直生きた心地がしなかった。だって、先輩が雪を誘惑して濃密な時間を過ごしていると考えたら、夜もロクに眠れなかったから」
「南が想像しているようなことはなかったし……」
「本当に?」
「何もないわよ。先輩の家に寝泊まりしただけよ」
嘘はついていない。
一緒のベッドで寝たことぐらいで、それ以上のことは何もない。
何かを確かめるように南はじっと私を覗き込むと、軽食のポテトフライを一本取って私の口に運んだ。
「ふふっ、雪の言葉を信じるわ。急にキスしたりしてごめんね」
満足そうに私から離れると、南はトイレに行って来ると言い残して部屋を抜け出してしまった。
「モテモテで羨ましい限りですね」
「やかましいわ! どうして助けてくれなかったのよ」
「大事な告白シーンを邪魔するのは無粋ですよ。それにカラオケ代も浮いてよかったではありませんか」
「よくないわよ! 南に突然キスされて……あんなことを言われても困っちゃうわよ」
「しかし、長年の想いを伝えることはできましたよ。今まで悶々としていた彼女の気持ちを考えたら結果的によかったと思います」
そんな風に言われたら、私が悪いような気がしてならなかった。
たしかに、私の知らない南の一面を覗けたことには驚かされてしまったが、その想いにどうやって応えたらいいのか分からない。
「南さんと瞳さん、恋人としてお二人と付き合ったらいかがです?」
「何でそうなるのよ!」
「私の個人的な見解ですが、お二人は相当貴女に惚れ込んでいますよ。ここは冷静になって二人と付き合って最終的に貴女の想いを伝えればよろしいかと」
「それは女神の倫理的にアリなの?」
「そんなことで咎めていたら地球上の人間達は今頃、咎人の楽園になっていますよ」
女神に後押しされる形となり、困惑が押し寄せて頭が痛くなってくる。




