第2話 再会
いつもは取り巻きの女子高生達で遠目からしか拝見できなかったが、こうして間近で見ると女の私でも惚れてしまいそうな包容力に圧倒されてしまう。
整った黒の長髪に綺麗な瞳を宿している彼女の顔を見ていると、何故だか私は彼女のことをずっと昔から知っているような奇妙な感覚に陥ってしまう。
「君は……いや、貴女様は!」
来栖瞳は私を抱き抱えたまま、突然驚いた様子で声にする。
それで我に返った私は胸の鼓動が高まるのを感じながら、彼女にお礼の一言も述べず、すぐ近くの階段を上って屋上へ出る。
「ハァハァ、噂には聞いていたけど女子達を虜にするのも納得だわ。でも、あれは一体何だったんだろ?」
来栖瞳とは初めて出会ったのに、やはり他人のような感じがしないのだ。
彼女の色香にあてられて、勝手に私が運命の相手と勘違いしているだけかもしれない。
そういえば、彼女へ告白した女子生徒は何人もいたらしいが、全て断られたらしい。
「まあ、お礼も言わないで逃げ出すような形になっちゃったし、心象は最悪だろうなぁ」
不本意とはいえ、お近づきになるチャンスを逃して、もったいないことをしたと後悔したが、そもそも今の私と彼女では釣り合わないだろうとすぐに諦めがついた。
(前世の私ならワンチャン脈アリだったかも)
一国のお姫様だった頃の私なら、十分に釣り合うだけの関係を築けたかもと思いを寄せるが、想像するだけ虚しいので早くトイレに行って教室に戻ろうと現実を受け入れる。
引き返そうと屋上の扉に手を掛けようとした時、私は予想もしていなかった展開に驚かされてしまう。
勢いよく屋上の扉が開いて、私の前に息を切らした来栖瞳が現れたのだ。
私の思考は一瞬途切れてしまい、何が起こっているのか把握できずに立ち尽くすことしかできなかった。
「やっと見つけた……」
一言呟くと、彼女は私を愛おしそうに抱いて涙を浮かべる。
無礼な私を叱りに来たのなら理解できるが、イマイチ状況が掴めない私は戸惑いを隠せずにはいられない。
「その……いきなり逃げ出したのは悪かったですけど、一旦落ち着いて話し合いませんか?」
情緒不安定な彼女に、また逃げ出したい気持ちが募っていた。
でも、逃げ出したところでまた追いかけて来るような感じがしたので根本的な解決には至らないと判断した私はとりあえず話を聞くだけ聞いて対応することにした。
「ああ、感激のあまり我を忘れてしまいました。ご無礼をお許しください」
来栖瞳は私の心情を察して距離を取ると、叱るどころか丁寧に頭を下げて私に詫びを入れる。
(あれ?)
私は改めて彼女を見ると、普段は女子生徒達に囲まれて凛とした表情を浮かべている彼女とは様相が違い、純真な子供のような顔を覗かせている。
そんな彼女に私は本能的に両手を差し出して、ゆっくりと赤く染めた彼女の頬に触れる。
すると、まるで雷に打たれたかのような衝撃が私の脳裏を直撃し、一人の青年が私の頭を過った。
「ルシス……」
一人の名前を呟くと、私に尽くしてくれた執事の青年が目に浮かんだ。
子犬のように従順で、泣き虫で頑固な性格だったその青年と眼前に立っている来栖瞳がまるで重なり合うかのように一致するのだ。
「ええ、前世で姫様の執事を務めていたルシスです」
来栖瞳は改めて片膝をついて自身をルシスと名乗る。
この瞬間、私の退屈な日々は終わりを告げようとしていた。