第17話 何者?
「あんた……一体何者なの?」
私は恐る恐る女性店員に訪ねる。
得体の知れない恐怖が私を支配していくと、こんな感情を抱くのは前世で死を遂げた時以来だろうか。
「さて、私は何者でしょうか? ①カラオケ店の店員、②咲田雪のストーカー、③哀れな女神様」
私の問いに答えるどころか、女性店員は真顔で謎の三択を迫って来る。
(何なの、こいつ……)
正体を明かす気がないことに苛立ちが募ると同時に彼女が普通ではないことに恐怖感が増していく。
謎の三択から正解を導き出すとしたら、①が無難だろうか。
②を選んだら、このサイコパスな女性店員がどんな行動に出るのか分からない危うさを感じる。
③に至っては意味不明だ。
「①よ」
私はマシな選択を選んで答えて見せる。
「貴女は①を選びましたか。その理由は?」
「それは……ここのカラオケ店の制服を着ているからよ!」
理由を尋ねられて私は少々気が動転しながらも、それらしい返答を女性店員にぶつける。
それで納得して解放してくれればいいが、やはりそういう訳にはいかなかった。
「なるほど、見た目で判断しましたか。それでは私が全裸でここに登場したらどうでしたか?」
そんなの知るかと内心叫びたいところだが、そんな言葉を彼女に浴びせたら逆上して何をしでかすか分からない。
今は南をこの場から連れ出して逃げるのが先決だ。
そういえば、南は随分と大人しいことに私は今頃になって気付いた。
今までのやり取りを見ていたら、真っ先に割って入って口論になっているところだ。
「彼女なら動きませんよ。この場の時間を停止していますからね」
女性店員は又しても私の心を見透かしたように答えると、確かに南は瞬きもせず微動だにしない。
まるで、本当に時間が停止しているかのように――。
「あんた、本当に何者なの?」
こんなものを見せられたら、この女性店員が只の人間とは到底思えない。
それらの要因を踏まえて、女性店員は改めて私に問う。
「さて、私は何者でしょうか?」
「へ……変態よ!」
デタラメで非常識な出来事に私は思わず相手の心情とかを無視して本音が飛び出してしまった。
(しまった!)
我に返って己の導き出した答えに後悔してしまう。
殺されると死を覚悟した私は目を瞑って、せめて南だけでも助かって欲しいと神にすがる。
「やれやれ、複雑な心境ではありますが、答えのワードを導き出してくれましたので正解としましょう」
女性店員は呆れた声で渇いた拍手を送る。
状況がいまいち呑み込めない私はゆっくり目を開けながら、「変態が正解?」と心の中で呟く。
「変態ではありませんよ」
すかさず、女性店員は私の心を見透かしてツッコミを入れた。