第14話 視線
制服へ着替えて、瞳にお礼の書置きを残して南との約束の場所へ向かう。
正直、妙な夢を見たおかげで気分はあまりよろしくない。
道中、自販機で飲み物を購入して喉を潤すと、寝起きで頭も冴えなかったが幾分マシになった。
(ああ、もう! あんな夢のせいで最悪よ!)
別に瞳を責める訳ではないが、生々しい記憶として私の脳裏に焼き付いてしまっている。
今度、瞳と面と向かって会った時は妙に意識してしまうような気がしてならない。
どうしたものか悩んでいる内に待ち合わせのカラオケ屋が見えてきた。
「おや、遅刻せずに来るなんて珍しいね」
待ち合わせの時間前だったが、既に南が私服姿で待っていたようだ。
「ごめん、待たせちゃったかしら?」
「ついさっき着いたばかりよ。雪がこんなに早く来るとは思わなかったけどね」
「それならよかった。じゃあ、早く行きましょう」
挨拶もそこそこ済ませると、私は南を連れてカラオケ屋へ入店する。
正直、この悶々とした気分を晴らすためにも歌ってスッキリさせたい。
「こらこら、あんたはいつも強引なんだから。歌の前に、あの皆川先輩とお泊りした経緯を説明しなさいよ」
「それは後でするから……今は歌いたい気分だし、南の歌声も早く聞きたい」
南から瞳との関係に迫られると、それについて考えていなかった私は焦りを覚える。
歌いたい気分なのは本当だし、咄嗟に話を逸らすために言葉が出たが、私にせがまれると南は仕方なく了承する。
「まったく、しょうがない子ね。そこまで言うなら、お望み通り願いを叶えてしんぜよう」
意外と押しに弱いところがあるので、南をその気にさせることができたのはラッキーだった。
二人はテンション高めで選曲を繰り返し、互いにその美声を披露していく。
いつもカラオケ屋を訪れる際はこんな感じになり、終盤を迎える頃には気分も爽快になっている。
最高潮に達したテンションで南の番手が回ってくると、南は私とのデュエットを希望する。
勿論、断る理由もなく了承すると、南は小さく笑みを浮かべて選曲する。
「ちょっと……これって」
私は南が選曲した曲に困惑してしまう。
それは恋人同士が好むもので、『愛』、『好き』といった単語が飛び交う上級者向けのものであった。
そんな私を無視して南は熱唱し始めると同時に私に対する熱い視線が向けられた。