第13話 夢?
耳元で時計の針が進む音が聞こえる。
それに釣られて薄っすら目を開けてベッドから起き上がると、制服姿の瞳が寝室の扉の前に立っていた。
「ふふっ、起きちゃったね」
瞳は妖艶な笑みを浮かべながら、こちらを窺っている。
姿や声は彼女そのものだが、直感的にどこか違うような気がする。
「そんなところに突っ立って、学校の制服に着替えて何しているのって思っているわね」
私の心を代弁するかのように、瞳は自信満々に答えて見せる。
それが当たっているだけに、私は困惑した表情を浮かべながら彼女を直視する。
「今日は学校が休みよ。寝ぼけて着替えちゃったとか?」
「違うわ。制服姿になったのは雪ちゃんに改めて見て欲しかったからよ」
瞳は華やかに長髪をなびかせながら、くるりと回って見せた。
上品で色香のあるお嬢様に相応しい立ち振る舞いだが、そこに映っているのは私の知っている瞳とはかけ離れたものであった。
「あんた、一体誰よ?」
「雪ちゃん、おかしなことを聞くのね。私は皆川瞳よ」
「違う! あんたは瞳じゃない」
「いいえ、瞳よ。貴女の恋人になった大切な人」
目の前の瞳はあくまで本人であると告げるが、そんな訳がない。
前世のルシスだった面影が消え失せているからだ。
「近寄らないで! 本物の瞳をどこにやったの?」
「だから、本物は私。さっきまで、こんな風に私を抱いていたでしょう」
一歩ずつ近付いて来る瞳に私は傍にあった枕を投げつける。
「暴れちゃ嫌よ。さあ、私に身も心も委ねて」
だが、瞳は臆せずベッドに入り込もうとして優越感に浸りながら私を押し倒す。
そのまま制服を一枚ずつゆっくり脱ぎ始めていくと、彼女の下着姿が眼前に迫って来る。
「恥ずかしがって抵抗する雪ちゃんは可愛いなぁ」
「あんた……ふざけないでよ!」
「うんうん、少しおふざけが過ぎたわね。それじゃあ、恋人同士の本番と洒落込むわ」
私の意思に反して、瞳は下着に手をかけて一糸纏わぬ姿を披露しようとする。
そんな彼女に私は恐怖と共に、夢なら覚めてほしいと願うことしかできなかった。
(助けて……)
私は心の中で小さく叫ぶと、耳元からジリジリと音が鳴り始める。
それはスマホのアラーム音だ。
音のする方へ手を伸ばそうとすると、約束に遅刻しないために私が就寝前にアラームを設定した自分のスマホだった。
「あれ?」
私を押し倒していた瞳の姿はどこにもなく、逆に私が押し倒している形で柔らかい弾力と感触が伝わって来る。
「姫しゃま……大胆過ぎです」
うなされた声で瞳が訴えかけると、先程とは違って寝巻姿であると同時にルシスの面影がちゃんとあった。
「夢だったのか」
それにしては妙にリアルな夢であった。
姿形が一緒の瞳にあんな一方的に主導権を奪われるなんて――。
「とりあえず、起きて仕度するか。夢見心地のこの子はこのままそっとしておこうかな」
私は今後こそベッドから起き上がると、瞳を起こさないように寝室を後にした。