第12話 抱き枕
寝室は静まり返り、瞳は緊張しながらベッドに潜り込む。
「よいしょ」
獲物を逃がすまいと私は瞳を抱いて距離を縮める。
シャンプーの良い匂いと息を荒くして緊張している瞳はまるで子供みたいな反応を示している。
「瞳先輩、後輩と一緒のベッドはいかがですか?」
学校の憧れの的でクールな雰囲気を演出する皆川瞳はどこにもなく、小動物のように縮こまっている彼女が可愛らしく思える。
このギャップを独り占めできるのは私だけだろう。
ちょっとした優越感に浸っていると、瞳は静かに答える。
「最高の気分です。一生分の幸せを手に入れたような気分で、いつ死んでもいいぐらいです」
「こらこら、死ぬなんて言葉にしない。まったく、物騒な先輩ね」
幸せな気分なのは十分に伝わるが、本当に死なれても困るので私は瞳の頭を軽く小突いて見せる。
「これからもっと幸せな時間は訪れると思うけど、きっと辛いこともあると思うわ」
「はい、それは覚悟の上です。姫様、いや……雪ちゃんの恋人として精進します」
「ふふっ、やっぱりそういうところは昔と全然変わっていないね。まあ、それが瞳先輩のいいところってことか」
お互い、立場は変わっても根本的なところはそのままだ。
瞳に至っては性別も変わって女の子になったが、それでも私への想いが変わっていないのは素直に嬉しい。
「よしよし、今日は瞳先輩を抱き枕代わりにして寝るわね」
「私を抱き枕に?」
「だって、凄く柔らかくて良い匂いがするんだもん。それとも、抱き枕にされるのは嫌?」
「いえ! 凄く光栄です。私も雪ちゃんを抱き枕にしてもよろしいですか?」
「恋人同士だから当たり前よ」
私は瞳の問いに自信満々で答えて見せる。
正直、今まで恋人を作った経験はなかったので勝手がよく分からないのが本音だ。
まあ、恋人同士ならこれぐらい通常営業だろうと私は思っている。
「ありがとうございます。雪ちゃんも柔らかくてマシュマロみたいです……」
瞳も遠慮なく私を愛おしく抱き締めると、胸の高鳴りが最高潮に達して「ふぎゅう~」と声を漏らして、そのまま気絶してしまった。
(締まらないなぁ)
手のかかる先輩だと私は小さく笑みを浮かべると、私もそのまま瞳を抱き枕にしたまま目を閉じて就寝した。