第10話
夕食を済ませてシャワーを浴びると、瞳が用意してくれた寝巻きに着替えた。
「私が小学校に着ていた物ですが、サイズがピッタリでよかった」
小柄な私には丁度いい着心地なのだが、何とも複雑な心境だ。
「発育のよろしいことで」
一つ上の先輩であるのを差し引いても、瞳はスタイル抜群で高身長である。
おまけに美人であるのと同時に、文武両道である。
対して、私は同年代に比べたら小柄の女子高生だろう。
「姫……いや、雪ちゃんもこれから大きくなりますよ。今は成長期ですから大丈夫です」
嫌味のつもりで言ったが、逆にフォローされてしまう。
それが彼女の良いところではあるが、これと決めたら一直線に突き進む性格は相変わらずで、おそらく直ることはないだろう。
「じゃあ、そろそろ寝よっか」
明日は休日でのんびりできる。
とりあえず、瞳と連絡先を交換して何時でも連絡が取れる態勢はできた。
前世では連絡手段が直筆の手紙ぐらいしかなかったが、この世界では多岐に渡って本人と連絡が取れる手段があるので便利だ。
「私は自室でやることがあるので、先にお休みください」
瞳は寝室の照明を消すと、私は呼び止めようとしたが、暗闇の寝室に私一人を残して出て行った。
(宿題でも片付けるのかしら)
真面目な性格の瞳ならありえる話かもしれないが、こんな時ぐらいは宿題なんかより私と一緒にいて欲しかった。
このまま眠るのは癪なので、私はベッドから起き上がり、足音を立てずに瞳のいる自室へ向かうことにした。
背後から驚かして登場してやろうと実行へ移そうと、自室の扉をそっと開ける。
そこでは学習机に座り、何か作業をしている瞳の後ろ姿があった。
やはり予想通り宿題でも片付けているのかと思ったが、鼻歌を歌いながらご機嫌な様子であるのは違和感を覚えた。
「ふふっ、姫様と出会えて恋人になれたのは嬉しいなぁ。今日は最高の日だ」
独り言だろうか。
まあ、浮かれる瞳の気持ちは分からなくもないが、邪魔するのは悪いので引き返してそっとしておくのが大人の対応だろうか。
「姫様にもっと好かれるために頑張ろう」
瞳はスマホを取り出して、先程記念に撮った私の写真を眺めている。
その姿はまるで、恋する乙女を彷彿とさせる。
意気揚々と驚かすためにやって来た筈だが、すっかり出鼻を挫かれてしまった。
(引き返すか……)
私は自室の扉をそっと閉じようとした時、胸ポケットに閉まっていた私のスマホに着信が入る。
その着信音は瞳にも聞こえてしまい、彼女はビックリした様子でこちらへ振り返る。
「あっ……」
二人は言葉にならない声で目が合ってしまった。
気まずい雰囲気に包まれながらも、私のスマホは着信が鳴り続けていた。