八
最終話になります。
お付き合いありがとうございました。
目が覚めたら、そこはワイバーンの背ではなく、海辺の砂浜だった。
「また海やねえ……さっきのお姉さん、どこ行ってしもたんやろ?」
ボケーっとした目であたりをきょろきょろ見回すニャー子。
僕もなんとか意識を覚醒させ、周辺の状況を確認する。
「お、おい、ニャー子……」
「うん?」
僕は浜辺に今いる位置から、目の前にそびえる建物を見て大声を上げた。
「ここ、和歌山の海だ! あそこにあるのは白浜のホテルだよ! 帰って来たんだ、僕たち、関西に帰って来たんだよ!!!」
「え、え~? あ、ホンマや~。スマホの電波が戻っとるわ。現在位置、南紀白浜や~」
「帰れる、帰れるんだ、僕たち一緒に、奈良に帰れるんだよ!」
思わず力いっぱい、ニャー子を抱きしめた。
「こっから奈良まで、大変やで~?」
「構わないさ、ニャー子と一緒なら!」
「も~、恥ずかしいことばっかり言うし……責任、とってや?」
「取るよ、ばっちり取りまくるよ」
「……子供ができたら、お絵かきとか教えてあげてくれるん?」
い、いきなり飛躍した発言だな……。
ニャー子的には一緒にいる、責任を取る=結婚して子供を作るということなんだろうか?
まあ、僕もこの際、覚悟は完全に決まってるけどね。
「そ、そりゃもう、得意分野だよ」
「そっかー、せやったら子どもができる前に、一緒にコミケ、行こうな?」
「別にいいけど……ニャー子、そう言うの好きなのか?」
「あたしな、漫画のことに夢中になってるときのごろちゃんが、いっちゃん好きやねん。目がキラキラしとってな、笑顔がまぶしくってな」
「……ニャー子」
「あたし、そこまで自分が夢中になれるもんってあらへんかったから、昔っからごろちゃんが羨ましかってん。ごろちゃんは絵が上手くてええなあって、得意なことがあってええなあって、嫉妬みたいなん持ってたんやね。せやから、早く手に職つけたい、一人前になりたいって思って保育士になったんや……」
心臓を掴まれたような思いだった。
世間知らずでのんびりしているけれど、芯が強くてしっかりした女の子なんだとニャー子のことを決めつけていた。
でもニャー子だって、僕と同じように悩んでいたんじゃないか。
自分が何者でもないということに、悔しさを抱えていたんじゃないか。
「ニャー子、改めて言うよ。お前が好きだ。大好きだ。愛してる」
「うん、あたしもやで。ごろちゃんとずっと一緒にいたい」
「僕の絵を好きだって言ってくれたよね。これからもきっと、ニャー子のために描きつづけるよ。子供が生まれたら、子供が喜ぶような絵をたくさん描くよ」
「頼もしいパパやなあ。最高やん。いい物件ゲットしたわ~」
「うっさいよこいつ」
一緒に、二人で一人前になって行こう。
僕一人ではできないことでも、ニャー子とならきっとやり遂げられる。
ニャー子と手を握り合って、浜辺から街中へ出る。
僕たちの家がある、奈良に帰るために。
これから僕たちが一緒に生きていく、故郷の街へ戻るために。
「とりあえず、こっから奈良に戻るにはどうしたらええんかな」
「……バスか列車で、また難波に一度行かなきゃならないんじゃないか?」
「それで近鉄乗って、また生駒のトンネルでわけわからんようになってもうたりして♪」
不吉なことを言うなよ……。
「大丈夫だよ、二人一緒ならなんとでもなるさ」
「せやな。あたしもごろちゃんがいてくれれば、それでええし」
この人がいてくれれば、それでいい。
どこで何をして生きていても、僕はこれから先、胸を張ってそう答えられるだろう。
でも、とりあえず今は、まず真っ先に。
どこか、ふかふかのベッドを確保して、ニャー子と目いっぱいイチャイチャしたいなあ、なんて思ってしまうのだった。
(完)
少しでもティンと来たら、ブクマ、いいね、評価を頂けると泣いて喜びます。
連載中の大長編もよろしく。
バイト先は後宮、胸に抱える目的は復讐 ~泣き虫れおなの絶叫昂国日誌・第一部~
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