鬼狩り
初めてのボス戦開始
桜の花弁が散る。黒い軌跡が目の前を横切る。
コイツの攻撃は、現状シンプルなもので斬撃の数々だ。一刀流としての綺麗な構えからの美しい軌道を描く剣戟。鬼であれば、もっと荒々しいスタイルだと思って構えていたおかげで、少し面食らった。
「桜花・七天」
花弁を纏い、距離の伸びた7連撃の突きがくる。これ厄介なことに、1発1発ちゃんと狙ってる。避けるたびに目が合うのが分かる。まあ避けれなくはない速度なので、避けつつ前進。
あと一歩で間合いというところで
「黒流・薙風」
相手の横一線の黒い軌跡が残る斬撃が先手を撃つ。それを体を逸らし、スライディング気味に避けて起きあがろうとする。
………ん?なんかこの軌跡、残りすぎな気が
「アッブネ!!!」
コレ斬撃が残っているヤツか!
刀で軌跡を弾いた反動で少し後退しつつも体勢を立て直す。
キィィィン!といい音が鳴っているけど、この軌跡も結構切れ味あるんだな。つまり、今の俺なら下手に突っ込めば真っ二つ確定か。
それで止まるとでも?
「一刀流・韋駄天通・突」
韋駄天通は、超スピードで走り抜ける技だ。実際は縮地とかみたいなホント一瞬で距離を詰めるというものだが、俺はまだそこまでのスピードを出せていない。それでも突き技を放つコレなら、さっきの「桜花」も「黒流」も放つ暇なく攻撃を通せる。
そして、攻撃は入ったが
「凄いな!避けやがった!!!」
スキルなのだろう横にスライドする行動で、俺の攻撃を本来当てようとした心臓部から右脇腹までずらす。
じいちゃんより遅いとはいえ、俺の韋駄天通を避けれるやつなんてほとんどいないってのに。イヤそもそも、俺がシステム外の技術を使用しているにも関わらず、アイツは避けるという判断ができている。
「流石はユニークモンスターっていうべきなのか?」
「桜花・十星」
十字状の花弁の斬撃が飛んでくる。そういえば、韋駄天通で走り抜けたから結構離れていたわ。
結構範囲は広いが、避けられなくはない。そのまま前進して間合いに入る。
「一刀流・八岐龍道」
蛇のようにしなやかに、さりとて龍のように強い攻撃を叩き込む技。前方面ではあるが、複数箇所からの攻撃を捌ける者は、ほとんどいない。
「桜花・地雷」
そうきたか!
てっきり遠近で技の種類が変わると思っていたが、近接でもその系統を使ってくるのか。
花弁を纏わり付かせて地面に突き立てると、ブワッと花弁が舞い上がり、即席の盾を展開し、八連の剣技が相手へ届くことは無かった。
「黒流・真革」
視界が遮られている筈なのに、迷いなく次の技を放ってくる。しかも大上段。「黒流」と名付けられている技は、当たり判定のある軌跡を残すだけでなく、単純に威力が高い。その代わりに、一発一発に重きを置いた技ばかりになっているが、コイツ自身隙が少なく最小の動きで次に持っていっている。
「良いねー!強いねー!」
ああ、楽しい。思えば、リアルで俺とマトモ以上に相手できる剣士なんて、じいちゃんしかいなかった。
「ああそうか!コレがっ!!!」
だからこそ、いままで同郷のライバルとも言える者はいなかった。だが今は違う。俺は今、初めてVRMMOの存在意義を、仙女ババアが勧めてきた訳が理解できた。
ここならマトモに切りあえる奴らに出会える!
「アハッ、ハハハハハハハッ!!!」
最高だ!思わず笑えてしまう。
いつの間にか攻撃を避けるために、宙をかけていたことに気付いた。体勢を整えて相手を見つめる。
「ありがとう!お前のおかげで大事なことに気付けたよ!」
「桜花・爆風」
複数の斬撃で空中に花弁を溜めて、一気に放つ。初めの隙とは裏腹に、とてつもない広範囲でコチラを完全に倒そうとする。
対するコチラは
「一刀流・酒呑舞」
避けはしない。酔拳を基にしたこの技で、変幻自在の斬撃で花弁を切り落としつつ前進する。この技であれば
「黒流・路行」
黒い軌跡を描くように突撃をしてきたとしても
「残念だったね」
酒呑舞により、逸らしていた体を更に逸らして攻撃を避けつつ、交錯するタイミングに相手に一撃加える。
「さて、次は何を見せる?」
「桜花・七天」
あ、最初の方に使ってた技ジャン。コレ正直避けるだけなら問題ないけど接近するとなると結構難しい技だったりする。
…アレ?しかもさっきと違い、明らかに誘導するように放っている。おかげで避けにくい。
マジか!?コイツAIのくせに、戦いの中でドンドン対処法を工夫してきている。イヤAIだからこそ対応できるようになっているのか?
「ああもう、どれもこれも楽しい!」
全部避けて更に前へ進む。
ラストにハバキリ君の本性がちょっと見えて…
技とかは別で解説するとして
角折の黒桜童子:
NPCモンスターというカテゴリーのモンスター。種族は鬼…というよりオーガとなる。オーガとしての処刑人の役割を持つ角折という役職に就いていたとされているが、角折の特徴として自身の角が折られているというものがあり、彼はその特徴を持っているだけで実際に角折だったかどうかは不明。名前の由来も角折の特徴を持っているのと黒桜晶の洞窟にいたためこの名前になった。