怨嗟は底より溢れる 後編
「報告:武器を装備しているものと体力の多い大型個体の出現」
「もうちょい具体的に」
「我々の反対側に弓持ちが10体。チェンソー持ちが20体。大型が8体ですが今なお増え続けている模様」
チェンソーや大型は兎も角、弓持ちが厄介だな。数もそれなりに居るし、随時増えていっているとは
「ああ、やっぱりそういうのも居るんですね」
「ヒビちゃん知ってんの?」
「貴方はもう少しネットゲームの知識を有していると良いですよ」
………………確かにボードゲームとかカジノとかのゲームしかやったことないな。
「ゾンビゲームとか言われているタイプのゲームでは、バリエーションのために強化個体や武器持ちの個体が出てくるってだけですよ」
へーそういうのテンプレなんだ。
「いやそんなん関係なく弓持ちウゼエ!」
「サイコ・シティ4だともっとキツイですよ!」
何それシラン。
けど、群がる壁の向こうから射ってくるとか面倒臭いんですけど。
現実の紛争地帯でも、こういう壁の向こうから一斉射撃とかいちいち壁を越える必要あったから面倒だったんだよねー。
まあ弾も弓矢も、俺の斬撃より遅いから余裕で落とせれるけど。
「遠距離は僕に任せてよ」
めんどくさがっていたところで、子供社長が声を上げた。
「《エレメンタル・リリース》」
そう言うと、子供社長の周囲に色とりどりの球体が生成し、1つずつ弓持ちにぶつけた。
「おっ、1番効くのは水と風、それと氷か。ならば《ストーム・ジャベリン》、《バブル・ガトリンガー》、《ソルベ・ボンバー》」
右手に持ったペンで、空中を突くようにして3つの魔法を同時に放つ。
同時に放つとかよりも、威力の高い技を放てるとは、やはり叡智の子はやばい。
特殊上級職の叡智の子は、スロット制限のある魔法職の中でその制限を無視した上で、デメリットがほぼなく魔法を撃てるというトンデモ職である。
魔法職におけるスロットというのは、使用する魔法を発動するために、セットするためのものであり、ここにセットされていなければ魔法を放つことができない。
幸にも、戦闘中にセットを変えることができるため、覚えている範囲内で魔法の変更を即座に行うことはできるが、それでも時間は浪費してしまう。
しかし、叡智の子は覚えている限り、より具体的に言えば使用可能とステータスに記載されている魔法であれば、全て自由に行使可能なのだ。
それでも、複数個の魔法の同時発動にはタイムラグが発生し、このラグを埋めるのは結構困難らしい(ものにもよるが単体なら連続で隙なく発動できる)。
更には、停滞させるのはまず不可能だ。
それを可能にしているのは、彼の持つペン。
万年筆のようなそれは、『魔祖の絵筆』というユニークアイテム。
空間にタッチすることで、発動させた魔法を絵として継続的に発動させることができる代物だ。
まあ擬似的な実態を持っているため、発動源になっている部分を叩くなりすれば、すぐにかき消されるが、そこまで進めないくらいには、俺たちが前線を圧倒している。
「《ポワレ・スロウ》」
「今気づいたけどJJのスキルって調理法に関与してる?」
「そうですね。ああコレスリップダメージなら複数体にダメージ入るようですね」
イヤ料理メインの生産職が結構戦えているのもおかしいな。
JJマスターのもつ料理人という職業は、文字通り料理をするための職業だ。だが、いつかの料理大会でさまざまなフィールドを駆け巡るように戦闘能力もあり、スキルが調理法とかに由来するもので構成されているらしい。
イヤ面白みはあるけど、サブ技能の人形師で戦うのかと思っていたよ。
人形師は用途別の人形を買って、戦闘なら戦闘用の人形に命令を与えることで攻撃させることのできる使役系の職業なのだが、それで戦闘するつもりはないらしい。なんなら後ろに人形控えさせていたし。
後で聞いたら、荷物持ち要員だったらしいよ。
「二刀流・八岐流道」
「分身の術アーンド万貫」
JJの分もあって、防衛の面は楽に行けそうなので、ミストとアイコンタクトで広域殲滅に適した攻撃を行う。
そして
「報告、正面側30秒で底まで届く見込み」
30秒って長めだけど、ユニーク相手だから警戒するに越したことはない。
そしてフラウが発言した直後、フラウの弾が浴びせられていた場所が、ボコボコと膨れ上がった。
「届くより先に来たか!全員一旦退避」
どこまで膨れ上がるかは分からない。
というか膨れ上がりながら腕を生やし、そこらの泥を掴み、コチラに投げ込んできた。
「うわっ!」
「マジでやめろそういうの!」
飛んできた泥は、フラウが撃ち落としたが
「どうやら投げ込んできたのは泥の集合体のようですね」
泥の集合体。つまりは、そこらの泥人形を何体か纏めて投げ込んだということ。
コレ消滅し切るまで連続で切り刻まないとダメなんかい。
「fuck!泥が底に向かっていますよ!」
ホントにファックだわー。散弾が自動でリロードされに行ってるって状況かよ。イヤ仕組み的には、投石器の前に砂利が集合している方が正しいか。どうでもいいけど
「一刀流・韋駄天通・突」
ちょっと距離が遠いけど、なんとか届かせれた。だが
「うんコイツも泥の集合体だな!」
攻撃した感覚で分かった。いちいち攻撃しなきゃダメだと。
それなら
「おっとミスト達も気付いているか」
ミストとヒビちゃんが、相手に突っ込んで行ってる。おそらく俺のを見て、攻略法が分かったのだろう。ならば突っ込む。
「「「全部斬れるまで斬り刻む!!!」」」
3方からの斬撃の応酬が泥の塊を襲った。
そして1分と少しして、3人の刃がかち合った。
「おっと全部斬れたが」
「コレで終わりでゴザル?」
「皆さんと居たからか大してダメージを受けませんでしたね」
〈ユニークモンスター:「怨泥のアカ」討伐完了〉
〈MVP:ハバキリ、misthide、キョウカ・ルナ〉
〈弓武器:怨泥の弓(錆)を獲得しました〉
〈称号:機械弄り達の厄祓いを獲得しました〉
「胸が邪魔」
イヤ重心変わるから思った以上に斬れんかった。
胸が邪魔とか言ったせいでキョウカに斬りかかられましたとさ
叡智の子めちゃくちゃ強いじゃんって思った人たちへ、
コレ威力低下するし覚えられないと十全に戦えません。
仮に他の魔法職であればセットしていれば忘れていたとしても、あとあと気付くこともできるしセットしていない魔法も、覚えている魔法としてステータスに記載されているけど、叡智の子はそれすらありません。
けどウィズ君現在表舞台にて発見されている魔法(+α)を全て記憶している。
ついでに渡り人が、スキルとか関係なくステータスにボーナスを与える職業なので、叡智の子のデメリットが消えている。




