エピローグ:宴と合流(現実の方)
さて、お使いは全カットだ
「あーめんどくさかった」
昨日クロムに頼まれて、テントを拡張するために材料を取りに行ったのだが
「まあ水天の結晶はいいけど、単純じゃない山登りとまさかのフィールドボスとやり合うってのがね」
炎と熱への耐性と排熱性を強力にすることができる水天の結晶。コレは一部の火山地帯などの水脈付近にあるらしいので、水のあるところを探したら結構あっさりと見つかった。
問題は、もう1つの素材。
フレイアコアトルスの羽毛。テント内のプレイヤー達に炎や熱への影響を与えないようにするアイテム。コレを持つフレイアコアトルスは、このフィールドのボスであり、火山の頂上にいるため登山をすることになったのだ。
仲間を呼んでくるモンスター(数の暴力って恐ろしー、まあ一網打尽にできたけど)、壁に張り付いてくるモンスター(壁走って斬り倒したけど)、普通はダンジョンにあるだろって突っ込みたくなるような罠(大岩転がってくるのは分かるけど、槍が降ってくるのは意味ワカラン。上青空ですよ)、そんで最後にまさかのマグマの滝を滝登り、まあ大体は事前に聞かされていたけど、滝登りとかマグマ内を泳ぐデカいコイがいたからそいつにうまく乗って行けたし(スリップダメージ入ってヤバくなっていたけど)、なんとか頂上まで行けたわけだ。
で、肝心のフレイアコアトルスさん。
イヤギミックとしては結構楽しめたけど、コイツ基本滞空姿勢だから近接メインの人達絶対俺と同じ思いしてたよ。なんか燃える羽を振って炎を飛ばすのがメインっぽそうだけど、少し経つと吸い込みでそこらの瓦礫を吸い込んで、一纏めになった炎の大砲をいくつか飛ばしてくるんだよね。まあソレを足場にして背中に飛び乗れば攻撃は簡単だったけど、体自体にスリップダメージ効果があるし、飛ばしてきた炎も大砲も飛び散ると少しの間残るから安地が狭まる。
総じてこのフィールド採掘する分には少しキツめだけど、ガチ攻略しようと思うと面倒くせえということが分かった。
まあガングマ火山名物のフレイアダックっていうダチョウみたいな見た目のアヒルを使った、北京ダックみたいなやつが美味かったのが救いといいますか。
「そういやマジでステラの気配なかったな」
風呂で軽くガングマ火山の反省をした後に、ふと思ったことだ。
まあ飛行機に乗ってるタイミングだったろうからプレイ出来なかったのは理解できるが、実際どこに行ったのやら。
「ふむ、ステラのことが心配か?」
顔に出ていたのか仙女ババアに尋ねられる。
「そりゃあね。アイツはまだ未成年だし、流石に仕事ならアイツの友達も一緒だとは思うけど」
「まあそんな雰囲気もなかったしな!」
ん?なんかこの人イキイキし出してる?
「アンタ何か知ってるな?」
「実はのう、昨日ステラの友人とは出逢うておったのじゃ」
なんと!?
「え?じゃあステラについては」
「聞いたというか向こうから伝えられてな」
まあ早い。ステラの友人といやあアイツの趣味半分に忍びの技術を伝えて全員忍びとして一人前になっているヤバい子達だったはずだ。そのわりには情報漏らしすぎじゃね?
「で、ステラがどこに行ったって?」
「その前に童よ、忍者の癖に情報漏らしすぎとか思うたじゃろう。友のことを気にせず話せる間柄じゃから問題ないじゃろうに」
うっ、ソレもそうか。少々ビシネスモードになっていた。
まあソレで話を戻そうとした時
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
「おやおや、儂が知らせるまでもなかったのう」
………!え、いやマジで!?行動力速すぎでしょ!!?
急いで玄関に行き、扉を開けると
「アーオダイカンサマ、コチラでお世話にナルでゴザルね!」
なんか手に持ってる懐かしい顔があった。
「なんで来ちゃったの〜!?」
まあ上がらせますよ。俺は鬼とかじゃあないんで。
「オダイカンサマがプレイしてることを確認した時にでゴザルが、その時にオダイカンサマってマンションを引き継ぐつもりって聞いたことがあったのでゴザルよ」
「フンフンそれで?」
「忍者は主人のお側に仕える存在故に本日よりお仕えさせて戴くでゴザル」
ウーンなんだろうこのちょっと当たらずとも遠からずな考え。若干アメリカ人の考える日本文化って感じが滲み出ていやがるのよね。
「ハアー、まあこの際来ちまったもんは仕方ねえけど、お前学校は?」
「高校はコッチのに入るでゴザル。残りの学期分は卒業試験で終わらせるつもりでゴザルよ」
そっかーそういうシステムもあるのか。行ったことないからわかんない。
「大丈夫だろうけど親御さん達には言ったのか?」
「2人とも出かけてたでゴザルから仕様人に言付けして行ったでゴザル」
まあソレでも大丈夫か。ちょっと母親の方がうるさいだろうけど父親の方がなんとかしてくれる。
「まあそんなことより童よ」
「なんです?」
「コレを見よ」
え〜正直見たくない。だって絶対高いヤツじゃん。中に絶対良い肉の入った包みだよそれ。
代わりにステラの方を見やると
「ああそれコッチの空港に着いた時に会った黒服の人たちに渡されたでゴザルよ」
うわぁ何その絶対怪しいヤツ。けどなんとなく送り主に思い当たるところがあるんだよなぁ。
「ハー………良い加減、目を逸らすのやめますか」
と包みを開けると中から1枚のメッセージカードと超良い見た目の和牛(ステーキ肉)が入っていた。
「おお、コレはまた見事なサシじゃな」
「日本のはヤッパリこれでナイト!」
まあ3人分にしては若干多いけど、もう一つのカードの方は
〈プレイ・ノーツより、全プレイヤーの先駆けとなる成績を築いた方々へのプレゼントを贈呈いたします。どうぞコレからも良き戦いを繰り広げることを期待しております。〉
「ウーンこのメッセージカードって」
どう考えてもアイツが送ったものだよな〜
「ステラ、コレは」
「送り主はシューティングスターでゴザルよ。黒服のお人がそう言ってたでゴザル」
ハアー、分かってたさ。けどだからこそ
「運営贔屓にならないコレ?」
「多分大丈夫じゃろう。記念品として贈っておる感じじゃろうし」
ああそっか。それなら贔屓にはギリならんかも
「まあソレならありがたく戴くとして、どう使おうか?」
「ならワタシチャンすき焼きが良いでゴザル!アメリカじゃあ生卵ダメでゴザルから!」
確かに、アメリカとかじゃあサルモネラ菌の問題で生卵ダメなんだよね。
「3人じゃとこの量は少々中途半端じゃな」
確かにな〜まあアイツのことだからコレくらいで大丈夫でしょみたいな数を頼んだんだろうけど。
「じゃあ他にも材料買って、蘭花さん御一行も呼んでバーベキューにしようぜ!」
「なるほどのう、ソレは良い案じゃ。なら儂から話しを通しておく故童らは買い物へ行くと良い」
「OK!オダイカンサマ!コレ買っても良いでゴザルか?」
おっと早速肉や野菜でなく魚介を選択するか
「まあ待て、ちゃんと見てから選びなさい」
と2人でチラシを見るのだった。
「カンパーイ」×7
さてさて夜ですよ。仙女ババアの趣味半分でこういうBBQの道具の質がいいのなんのって。
まずは、和牛だよ。こういうのは、腹溜まるよりも減ってる時のほうが上手く感じられるんだよ。
両面を焼き上げて、醤油、ザラメを投下。肉全体に馴染んできたら皿に取って卵黄を乗せる。
「ほーら子供達の分なー」
もうこの子達目がマジなんよ。育ち盛りというのもあるけど蘭花さんの遺伝か食い意地があるのよね。
「ほいコレステラの分」
「はあーーー!」
近づくごとにお前目が星になってない?まあめちゃくちゃ美味しそうにしてるからいいか。
最後に大人の分を取って食べる。
「うーわ脂の乗りとそこに染み付く醤油とザラメ最高かよ!」
「ソレを上手く卵がくどくないようにしておるのが素晴らしいものじゃのう!」
ははあ頬が蕩けますわ。
「いやーにしても僕らまで厄介になっちゃって良いんですかね?」
そう尋ねてきたのは蘭花さんの旦那さんだ
「いいんじゃいいんじゃ、儂の家族じゃから遠慮するでないぞ」
と仙女ババアが制する。まあ彼女がいうんだから問題はないだろう。
「じゃあお次ドンドン焼いていくか!」
蓋つきのほうには、デカいブロック肉やソーセージにジャガイモを味付けしたり香草を加えて蓋をする。
普通のグリルと鉄板が併設しているやつでは、スライスされた肉や野菜に海産物を加え、更にいくつかの海産物を酒と共に詰めた缶を鉄板部分に乗せてガンガン焼きにする。
「なんじゃコレは?レバーとかでもなさそうじゃが」
「ああそれウシのハツだよ。ヘルシーで歯切れが良いヤツ」
うんまあホント今更だけど、買いすぎたなぁ。
「そういえばオダイカンサマ、報酬ってどうなったでゴザルか?」
いきなりゲームの話か
「まずは人数分の再生のテントっていう仕えなくなっても自動修復してまた仕えるようになるテントだな」
「ああそういうのはシャム・グレイ号に取り付いておる故儂はいらんぞ。蘭のヤツにくれてやれ」
「え?いいの?ならもらうけど」
「ワタシチャンは寧ろ欲しいでゴザルよ」
「まああとで渡すから」
仙女ババアの列車に付いてた寝床ってテントと同じヤツだったんだ。
「んでお次だが、治ったセンジュ本人から無償で次元龍の素材で武器を作って貰った」
「ソレはお得じゃな」
「そういえば費用とか考えてなかったでござるよ」
「結構面白い性能でね、コレは実践してみてからのお楽しみってことで」
そこで蘭花さんが
「あのーセンジュ?って誰?」
「ああそういや蘭花さんは知らなかったね、元々センジュっていうホビットの子の病を治すための素材を取りに行ったついでに次元龍を倒したんだ」
「………っぷ、ついでに倒しちゃうだなんて、ヤバいちょっと戻しそう」
オイオイ笑っちゃったよ。あと若干食べ過ぎ。
「そんで更にだけどそのセンジュが俺たちに着いて行きたいんだと」
ソレを言った瞬間プレイヤー連中が一斉にこっちを振り向いた。
「あ、あのー何か不味かったか?」
「着いてくる宣言しておるNPCはファミリア確定なのじゃ。しかもソヤツを連れて行けるのはお主しかおらん」
マジか。あの子ファミリアとして着いてくるのか
「しかもNPCのファミリアはユニーク個体でゴザルよ」
マジですか仙女ババアから話は聞いていたけどそういやそうなるのか
「というか超珍しい生産職のファミリアってだけならともかく、鍛治師のファミリアってまだ報告されていなかった気が」
えちょっと待って?なんかいきなり不穏な気配を感じてきちゃったんだけど。
「ま、まあセンジュを連れて行くにあたって俺のテントを機能拡張するために機能ガングマ火山のフィールドボスにやり合って行ったんだよね」
「ああ、アレって近接武器メインのプレイヤーじゃあきついと思うけど」
「いやあスリップダメージが面倒でしたね」
バレるだろうけど、一瞬で接近メインって見抜かれたね
「そういや仙女ババア、あんたクランの件どうなったの?」
面倒なことは置いといて、聞いておきたかったことを聞いておくことにする。
「え?仙女サマクランを作る気でゴザルか?」
「まあのう、元々儂がクランを率いてしまえば門下共とかが遠慮するのではないかが心配だったのじゃが」
確かに、仙女ババアは表舞台にほとんど顔を出していないだけで結構な影響力を持つ。彼女がクランを設立すれば、少なくとも門下生は絶対に入らなければならないという義務みたいのが、発生しかねない。
「確かにそうかもだけど、ソレと同じくらいに曽お婆様を引き抜こうとトップクランが躍起になっているし、クランを設立するのには反対しないわ」
「仙凛さんの話しはやってない僕でも耳にするからね、一部じゃクラン同士の奪い合いが発生してるって言うくらいだし」
「儂全く関わっておらんのじゃけど」
うーんソレは酷い
「まあソレもあるのじゃが、もうひとつは龍種を本格的に狩りたいと思っていてのう」
「龍種って以前にユニークモンスターにはレイド戦が必要なやつもいるでゴザルからね〜」
なるほど。本格的にユニークと相対する気なら、どこかでクランのような規模が要求されるのか。
「納得はしたけど、クラン名とかどうするの?」
そこだよ本命は、結局のところどんな思いで作ろうとなんであろうと、クラン名がその存在を形作るようなものだ。
「それはじゃな」
「世界中から集まりしモンスター達の難易度を示す指標の最上位を示す難易度:不可能に王手をかけられるもの即ち|竜殺し《Dragon Slayer》達のクラン」
「その名も『WIRDS』じゃ」
蘭「ん?ちょっとまって」
桐「ワイルドって綴りRじゃなくてLじゃね?」
ス「え?」
桐「ステラ………お前の言語圏だろこれ」
凛「イヤそのままじゃとどこかと被りそうじゃったし、上手い名を考えられんかったのでな」
ちなみに王手は英語でcheckなのですが、そこまで深い考え方はしてない。




