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46/59

46 夫婦の


「……何を」

「だって私は、あなたの花嫁だもの」


 アリシアの知る夫婦とは、そういうものなのだ。


「血まみれで現れた私のことを、あなたは拒絶しなかった」

「……ただ、利用できる部分があると踏んだだけだ」

「それでもあなたの妻であることが、私にとってどれほどの力になるか。そのことに、自覚がない訳ではないでしょう?」


 アリシアの願う『復讐』には、どうしても権力が必要だ。綺麗事だけでは国を守ることなど出来ないことを、父の亡骸を目にして知っている。


「私が願いを果たすための行動に、力を貸してくれた。あなたにとっては些細な気まぐれなのかもしれないけれど、私にとっては大きな力よ」

「……」


 それだけではない。

 ひどい熱に浮かされたときも、悪い夢を見た夜も、フェリクスはアリシアを拒まなかったのだ。


「あなたはきっと、『夫婦』のあり方に思うところがあるわよね。けれど」


 だからこそアリシアは、フェリクスにちゃんと約束したい。


「……どうか、受け入れて」


 指先でフェリクスの頬に触れて、その双眸に宿る光を見詰めながら、アリシアは祈る。



「私はいま、あなたの共犯者になる誓いを立てたの」

「――――……」



 いつかアリシアの持つ神秘の力は、フェリクスの望む滅国のために使われることとなるのだろう。


 なにせ、アリシアが望むのも国ひとつだ。

 それと引き換えに果たすべき義務が、同じく一国の命運を左右するものだという覚悟は、フェリクスの前ですべて結んだ。


「誓約のキスを、交わしてもいいわ」

「…………」


 表情を変えないフェリクスに、アリシアはそっと告げてみる。

 恐らくは普段通りの皮肉で、そんなものは不要だと切り捨てるのだろう。そんなアリシアの当然の予想は、アリシアの(おとがい)を掴んだフェリクスによって、翻された。


「……!」


 フェリクスからの口付けに、アリシアは息を呑む。


「ん……っ」


 くちびる同士が重なったかと思えば、すぐに角度が変わって深くなった。

 驚いて、思わず逃げそうになるものの、フェリクスの左手に頭を押さえられて動けない。そのまま更に深くなるそのキスに、アリシアはぎゅっと目を瞑った。


「ん、う……!」


 身が強張ったことを察されてか、口付けが少しだけやさしくなる。けれど、却って呼吸の仕方が分からなくなって、アリシアはフェリクスの上着を握り込んだ。


(……強引なのに、まるで甘えているみたいなキス……)


 そんなことを考える余裕すら、心臓の音と苦しさで掻き消えてしまう。アリシアはもう片方の手で、ぱしぱしとフェリクスの肩を叩いた。


 するとどうしてか不満そうに、ゆっくりと離される。ほっとしたのも束の間、口付けの終わり際に、もう一度触れるだけのキスをされた。


「ふあ……っ」


 こつりと額同士を合わせてきたフェリクスと、視線が間近に重なる。

 すっかり息が上がったアリシアは、ほんの少しだけ涙の滲んだ視界の中で、上目遣いに夫を睨んだ。


「……もう、フェリクス……!」

「なんだ」


 こんなときも、フェリクスはいつもの無表情だ。

 けれども少しだけ満足そうな声音で、何処か開き直ったかのように言うのである。


「キスをしてもいいと、お前が言った」

「〜〜〜〜……っ!!」


 いまのは決して、そんなつもりで告げたことではない。

 きっと分かっているはずだ。不本意に翻弄されたアリシアは、慌ててフェリクスに反論する。


「ど、どう考えても、誓約のための口付けではなかったわ! だってこんなの、これは……」

「夫婦のキスだろう」

「っ、そうなの……!?」


 驚いて目を丸くすれば、じっとフェリクスに見詰められる。

 嘘を言っている目ではない気がして、アリシアはこくりと喉を鳴らした。


「ほんとうに?」

「……………………嘘だが」

「もう!!」


 そんなやりとりをしながらも、何処かで安堵している自身に気が付く。


(……フェリクスの無表情が、なんだか少し和らいだように見えるから……)


 そのことに、心からほっとした。


「私の夫が、あなたでよかった」

「……何故、そう思う」

「だって、嫌じゃないもの。誓いのキスも、結婚をしたことも、共犯者になることも」


 フェリクスの膝から降りたアリシアは、振り返って彼を見下ろす。



「私を有効活用してね。フェリクス」

「――――……」



 そう告げて微笑みを向けると、フェリクスはほんの僅かに眩しそうな表情で、その目を眇めた。


「アリシア。お前は――……」


 けれども彼は口を噤む。誰かの忙しない気配と共に、階段から足音が聞こえてきたからだ。


「フェリクス殿下……!」


 息を切らしながら現れたのは、フェリクスの臣下であるヴェルナーだった。


「ご報告いたします。先ほど、郊外警備の騎士隊より報告が……」


 ヴェルナーはアリシアを一瞥し、続きを躊躇する素振りを見せる。アリシアが離れようとする前に、フェリクスが許可を出した。


「問題ない。このまま話せ」

「は……」


 その言葉を聞いたヴェルナー以上に、アリシアこそが内心で驚く。


(フェリクス。私にも、臣下からの報告を教えてくれようとしているの……?)


 咳払いをしたヴェルナーが、フェリクスとアリシアのふたりに告げた。




「――数日前より懸案事項だった隧道が、この雨で土砂崩れと共に崩落。近隣の村民が、大規模な被害に巻き込まれた模様――……」




***

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