表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/59

13 恐ろしい夫



「これはまた、奇妙なものが妃になったな」

「末長くよろしくお願いしますね。未来視の力以外、お気に召さない花嫁でしょうけれど」

「そうでもない。気に入ったところは他にもあるが?」

「え」


 思わぬ言葉に驚いて、アリシアは目を丸くした。


「そ、それは一体どのようなところを」

「顔だな」

「……顔……」


 ものすごく身も蓋もいない返答だ。アリシアは思わず自分の頬を両手で包み、むにりと押した。

 美しかった母に似たのだから、アリシアの顔立ちについて褒められたことは何度もある。顔だけを褒められても嬉しくはないが、相手がフェリクスのような男であれば尚更だ。


(フェリクス殿下こそ、誰よりも美しい顔立ちをしているくせに。はっきりした切れ長の二重、長い長い睫毛、通った鼻筋に……)


 その美しい男性が、アリシアの傍で寝転んでいる。同じ寝台にいることを意識してしまわないよう、慌てて視線を逸らした。


「……そ!」

「そ?」

「それにしても、どうしてティーナが襲撃の首謀者であることを見抜かれたのですか? 国王である私の叔父や、その妃殿下をお疑いになっても良さそうなものですが!」


 誤魔化しのような問い掛けだが、本当に疑問に思っていたことでもある。フェリクスにはあまり興味のない話だったのか、返って来た声音は淡白だ。


「聞き出した」

「聞き出した? 一体それは、誰に……」


 アリシアはもちろん話していない。奇妙な回答に面食らっていると、フェリクスが平然と口にする。


「お前の命を狙った、賊共にだ」

「――――!」


 この場の空気が凍り付き、反射的に体が強張った。

 フェリクスの灰色の瞳に滲むのは、薄暗くて強烈な殺気だ。


「……あなたが直々に、尋問を……?」


 アリシアをここに連れて来たあと、フェリクスは再び外出したのだ。

 そしてこの時間まで戻らなかった。そこで何をしていたのかを理解して、アリシアの心臓が早鐘を打つ。


「殺してしまわないよう嬲るのに、苦労した」

「……っ」


 微かな嘲笑と共に紡がれたその言葉に、ぞくりとアリシアの背筋が冷えた。


「お前の妹は毒婦だな。賊共の全員を惚れ込ませて、口を割らせないよう仕込むとは」

「……」

「凄まじい痛みと恐怖の中とはいえ、惚れた女について口を滑らせたことを悔いたのだろう。襲撃を命じた人間がお前の妹であること以外は、いよいよ何も喋らなくなった」


 フェリクスはそう言って、自身の指先を眺める。それは恐らく、爪の間に血が残っていないかを確かめる仕草だ。


「お陰でお前の事情の大半は、こちらで推測するしかなかったが。まあ、おおよそ外れてはいないようだ」

「フェリクス殿下……」


 アリシアは何も言えなくなり、ぐっと口を噤んだ。


(為政者としての才覚が、桁外れだわ。この男に未来視の力について探られても、秘密を隠し通さなくてはならないなんて……)


 フェリクスがアリシアを欲したのは、未来視の力を欲するからでしかないだろう。


(彼が未来視をどう使うのか、なんのために必要としているのかも分からない。残り二回しか使えないことを知られたら、私の目的よりも自分を優先させようとするはず)


 寝転んでいるフェリクスの瞳が、アリシアを見上げた。


「その呼び方。つまらんな」

「え?」


 ぱちぱちと瞬きを二回してから、彼の呼び名について言っているのだと思い至る。


「……フェリクス殿下」

「…………」

(もっと、別の呼び方をしろと言うこと?)


 フェリクスの侍従である男性も、『フェリクス殿下』と呼んでいたはずだ。だから問題はないはずなのに、アリシアにはそう呼ばせたくないのだろうか。


 だとしても、どのようなものが適切なのだろうと考え込んでしまう。


「フェリクス、さま」


 首を傾げつつ呼んでみても、フェリクスはやっぱりなんだかご不満のようだ。


「旦那さま、とか?」

「…………」

「ダーリン」

「………………」

「そ、そんな白けた目で見なくても……!!」


 アリシアはううんと唸る。それからふと思い付いて、試しに口にした。


「じゃあ、『フェリクス』」

「……」


 この王太子を呼び捨てにするなんて、不敬な態度にも程があるだろう。

 王族の夫婦関係は、決して双方が対等なものではない。王位継承権がある方が強いのだから、アリシアがフェリクスを敬う立場だった。


 けれどもフェリクスは、それで良いと言わんばかりに目を瞑る。


「……ああ」

「!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] それにしても、噂や評判で妹姫の功績になってるけど 助けられた村人達は姉姫が助けてるの知ってるはずで。助けた村がいくつもあるなら 陰の噂(大きな声で言ったら自分らの首が飛ぶ)で本当は姉姫に…
[一言] まさかの「ダーリン」(笑) 思わず吹き出してしまいましたー! なかなか他にもやってくれそうな主人公に期待大、
[一言] やはり雨川先生の作品はキャラクターに芯が通っていて、ストーリー展開も早すぎず遅すぎず、とても続きが気になる魅力的な作品ですね…!! 有能だけど生きにくそうな美形男子×それを振り回す強い美少女…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ