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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第3章 後継候補編
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異父兄弟

「なんだったんだ?あの鹿は」

龍希はどっと疲れていた。

「あなた、お帰りなさいませ。」

最愛の妻が玄関で出迎えてくれた。

「芙蓉~ただいま。」

龍希は妻を抱きしめると髪に顔をうずめた。

「・・・今日はもうお風呂に入ったのか?」

匂いが薄い。

「はい、さっき子どもたちと。ソラ様のキノコは見つかりまして?」

「いや、あの鹿はキノコなんて探してなかった。」

「え?」

妻は驚いた顔になる。

「何がしたかったんだか?全く」

 結局、あの後も鹿はあの辺りを意味もなくウロウロし、ようやく移動したと思ったら侍女たちが見つけたキノコをどれも違うと言い、もう疲れたから帰ると言ってキノコなんて一つも食べなかった。

「・・・もしかしたらソラ様は故郷の山をもう一度見たかったのかもしれませんね。」

「え?」

妻の言葉に龍希は驚いた。

「あ、いえ、この間お会いした時、ソラ様が仰っていたのです。お母様の再婚でソラ様と弟さんは故郷の山を離れて鹿族の本家に移り住み、もう何年も山には帰っていないと・・・」

「そうなのか?なるほどな。」

龍希は妻に向かって微笑むと、唇にキスをして執務室に向かった。

『嘘だな。あの山からは鹿族の臭いなんてしなかった。』

まああとは龍算の仕事だ。龍希は自分から厄介ごとに関わったりはしない。

妻子のためでなければ・・・



「いやあ、お呼びだてして申し訳ない。」

龍希は営業スマイルを浮かべて孔雀を見る。

11月末、龍希は紫竜本家に孔雀族の族長後継である孔究を招待していた。

「とんでもございません。お招きいただき光栄にございます。」孔究は深々と頭を下げる。

「まあおかけください。先月は大変お世話になりました。まずはそのお礼を受け取ってください。」

龍希の後ろに立っていた疾風が金属の箱を孔究の前に置く。

「これは・・・また結構な物を」箱の中身を見て、孔究は驚いている。

龍希からしたらたいした額ではなかったが、孔雀族にとっては高級品のようだ。

「孔雀族にとっては特別な宝石とお伺いしましたので、右のネックレスは族長殿に、左は来年族長となられる貴殿にお贈りします。」

「こんな大きなオパールは初めて見ました。失礼ながら、お礼としてはあまりにも過分かと・・・」孔究は困った顔で龍希を見る。

「何を仰います。黄虎との約束に遅刻しようものなら、短気な奴らは何を要求してきたことか・・・大変助かりました。」龍希は営業スマイルを崩さない。


「どうやって宝石のことをお調べになったのですか?」孔究は不思議そうな顔をしている。

「ああ、うちの使用人に孔雀族に詳しいものがおりまして。」

母の侍女をしていたカカは母にかなり信頼されており、オパールのことを聞いていたらしい。

「もしや鶴族のカカ様ですか?」

「え?」

なんで知ってるんだ?

龍希は驚いた。主要取引先だって紫竜の使用人までは把握できないはずだが・・・

「カカをご存知なのですか?」

「お会いしたことはございません。孔雀の奥様から頂いた手紙によく書かれていましたので。」

「は?手紙?」

何を言ってるんだ?この孔雀は

 龍希は思わず、後ろの疾風を見た。

「大奥様は毎月、養育費とともにお手紙を送っておられました。」

疾風は懐かしそうに目を細めてそう言った。

「初耳だぞ。」

「大奥様から、龍希様に訊かれるまでは教えるなと命じられておりましたので。」


うわ!久々に聞いた、疾風のこのセリフは。母が生きていたころはよくこうして母に試されたのだ。

しかし、嘘だろう?

母は・・・紫竜のことを孔雀族に漏らしていたのか?

そんなまさか・・・だって龍希にはずっと孔雀と関わるなと言ってきたのに?


「・・・ご希望とあらば、孔雀の奥様からの手紙は差し上げますよ。」孔究は困った顔でそう言った。

「は?いや、遺品はすべて処分したのでは?」

それが孔雀族のルールだったはずだ。カカからそう聞いて、龍希は何年か前に、リュウカ以外の母の遺品をすべて処分したのだ。

「何のことでございますか?」孔究は不思議そうに首を傾げている。

「死後10年で遺品をすべて処分するのが孔雀族のルールだと聞いているのですが・・・」

「えっと・・・我が一族にそんなルールは・・・」孔究は困った顔になる。


演技じゃない・・・カカに、いや母に騙されたのだ。


「あーならうちの使用人の勘違いですね。失礼しました。それより本題に。私個人との取引をお願いしたく。1年ごとの更新で、リンリン棒とジャスミン茶を毎月売ってほしいのです。」

龍希の提案に孔究は眉をひそめる。

「それも先月のお礼ですか?」

「は?いいえ。真っ当な取引の提案ですよ。妻が孔雀本家で飲んだジャスミン茶を気にいりましてね。あと子どもたちはリンリン棒を毎日振り回しているので、そろそろ新しいのを用意してほしいと妻に頼まれているのです。」

「似たようなものであれば、うちではなくとも・・・」孔究はまだ疑うような顔をしている。

「まあ無理にとは言いませんよ。私は孔雀族の取引担当ではありませんから、貴殿がお断りになってもシリュウ香取引に影響はありません。」


「失礼ながら、我が一族とは関わるなと言うのが孔雀の奥様の御遺言ではなかったのですか?」


「母の遺言よりも妻のお願いの方が大切ですから。それに・・・少なくとも貴殿からは悪意を感じませんでしたし。」龍希は即答した。

「私からは、ですか。・・・取引をお受けするにあたって、一つお願いがございます。」孔究は真面目な顔で龍希を見る。

「なんですか?」

「取引は私が族長になってからにして頂けませんか。そうお待たせはしません。旦那様とそう約束したとなれば、すぐにでも世代交代をするはずです。」

「・・・理由を伺っても?」

「今の族長を旦那様に近づけるなというのが母の遺言ですから。」

「どういうことです?」

意味が分からない。こいつの言う母とは・・・おそらく

「そのために、孔雀の奥様はずっと私に養育費を支払って連絡を下さっていたのですよ。そうでなければ族長の実子が次の族長になり、紫竜に・・・旦那様に害をなそうとしたでしょうから。」


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