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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第3章 後継候補編
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ワニの恨み?

 芙蓉がニャアとソラと談笑している頃、一族会議は殺伐としていた。


「そんな話どこまで信用できるのですか?」


「虎の言う人族は見てないです。でもゴリラが黄虎に龍灯様の件を漏らすとは思えませんし・・・ゴリラの元妻が人族の睡眠薬を持っていたこととも辻褄があいますわ。」


竜紗が黄虎の谷での出来事を説明していた。



「しかし・・・いくら身内を殺されたからって、人族と組んで我らに喧嘩を売ろうなど・・・ゴリラはそこまで愚かではないはず」


「だからゴリラ族の総意ではないのでしょう。恨みの強いゴリラの単独行動ならまだ分からなくもないです。」


「そんなバカな!?」


「いえ、ありえます。今のゴリラ族はあまり族長の力が強くありませんから。」


「虎が言っていた、何とかって名の雌ゴリラは実在するのですか?」


「はい。確かにリーラという若い雌ゴリラがいるらしいのですが、10月から行方不明らしいです。」


「どういうことだ?」


「ゴリラ族によれば、リーラは龍灯様の元妻の腹違いの妹だそうです。龍希様が始末した雌ゴリラの1匹は元妻とリーラを可愛がっていたそうで、その恨みではないかと。リーラも元妻の身内ですからこちらに首を渡してもらう必要があるのですが、所在が分からないと。」


「はあ!ふざけてるのか?」


「龍灯様!やはりゴリラの処分が甘すぎたのです!」


「落ち着け。虎の話の真偽次第では処分を見直す。だが、ゴリラ族がその雌1匹をかばう理由がないなら、他種族の助けなく身を隠すのは不可能だと思わんか?」


龍灯は冷静だ。



「確かに・・・しかし、いくら仇とはいえ人族なんかに協力しますかね?」


「少なくとも睡眠薬を入手できるというメリットはあったのでは?人族の商品は稀少すぎるがゆえにあの竜紗ですら知らなかったのですから。」


その言葉に竜紗は俯いた。



「な!」

竜色は怒りで顔を真っ赤にする。


博識の姉に心酔している竜色は竜紗が軽んじられることを許さない。

 竜色がやたらと龍希の妻に攻撃的なのは、竜紗が妻を気に入って誉めるからだろう。

あと、元から竜色は龍希のことが大嫌いだ。



「逆恨みもいいとこだ。ゴリラが俺の妻に手を出そうとしなければ俺だって何もしなかったさ。」


龍希は舌打ちする。


「あの・・・どうしてゴリラは喧嘩を売ってきたのですか?いくら花のせいで紫竜の匂いが分からなかったとしても・・・近くで龍希様のお姿を見たら分かるはずでは?」


「知るか!あのゴリラどもは俺の妻しか目に入ってなかったんじゃないか?」


今思い出してもイライラする。あのゴリラどもが妻に向けた下品な視線を。



「ええ?ゴリラにとってそんなに価値があるとは・・・あ、いえ、奥様を貶しているわけではないです!」



龍希に睨まれて龍算は慌てて口をつぐんだ。


「ゴリラ族にはリーラを探しだして生け捕りにするよう依頼しておきましたので、差し当たり続報を待つほかないかと。」


龍灯の言葉に皆頷いた。



「では、ワニ族の方は?」

竜紗が龍海を見る。


ワニ族の妻を持つのは龍海だけだ。



「私の妻がなにか?」

龍海は竜紗を睨む。


「奥様は何もお変わりありません。いえ、強いて言えば龍緑のことで大変心を痛めておいでですが。」担当の竜夢が答えた。


龍緑が龍神の呪いを受けて意識不明の重態になった際、母であるワニの動揺は凄まじかったらしい。夫の龍海は守番でほぼ巣に居られず、ワニは1人つきっきりで看病していたそうだ。



「ええ、妻はやっと元気になってきていたのですが、もうすぐ息子が巣立つので寂しがっておりまして。ゴリラ族や人族に構う暇などありません。」


「おお、そういえば龍緑は自分の巣が見つかったのか?」


「はい。旧稲穂亭を買い取って、只今改装中です。年中には引っ越す予定です。母は寂しがっておりますが、転居の準備を手伝ってくれていますので、今とても忙しいのです。」



ふーん。龍緑は龍大の巣を買い取ったのか。まあ妥当なところかな。

処刑された龍大の巣はどうしても値が下がるので、成獣になったばかりの龍緑でも手が届いたのだろう。

龍希との戦闘で巣のあちこちが焦げているので修理と改装に時間がかかっているようだ。



「まあ龍緑の話しはまた今度で。それよりも黄虎はワニ族を始末するつもりなのですか?」


「おそらく。黄虎に隠れて人族と通じていたなら眷属から外す口実としては十分かと。族長は虎の息子を産んだので、ワニの夫は用済みでしょうし。」


「なんてことだ。また妻の嘆きが増える。」


龍海は頭を抱える。



「しかし、動機が20数年前の敵討ちなんて妙じゃないか?なにを今更。それもあの黄虎を裏切ってまで・・・」


龍希は納得いかない。



「ええ。あの件なら遺族に相応の見舞いはしたはずよ。」


竜湖は両腕を組んで眉間にシワを寄せている。


「あの件?」



「あのバカ・・・もとい竜帆の悪さよ。前に話したでしょう。あの娘が本家の使用人を使ってあんたに嫌がらせしてたって。」



「あ~全く覚えてないですけど。・・・つまりワニの仇も俺ですか?」


龍希はため息をつく。


「どうかしら?ワニが恨むなら竜帆じゃない?確かあの時も龍峰と熊の奥様が遺族への見舞金を半々で用意したし。」


「あら?あれは・・・ワニ族でしたっけ?」

竜夢が首をかしげる。


「え?だって20数年前、使用人が竜の子に殺られた事件なんて他にないでしょ?」


「え・・・そう、でしたか?」


竜夢は何やら考えこんでいる。



「あの族長が人族の話を信じたのですか?」

竜色は懐疑的だ。


「おそらく。奥様の様子はとても嘘をついているようには見えませんでしたし。あの族長が何でも礼をすると約束したのですから。」


竜紗の発言に竜冠も頷いている。


「竜紗様と竜冠様がそう仰るなら。さすがは龍希様の奥様。あの懐疑的な虎を信用させるとは・・・」



「待ってください!おかしいと思いませんか?黄虎のために人族の機密情報をもらすなんて!」



「黄虎のためでなく、お子様たちのためですよ。」竜冠が答える。


「は?どういうことですか?」


「奥様は、人族が奥様だけでなくお子様たちの命も狙うのではないかと心配しておいでです。」


「はい?お子様たちは人族ではないのですから、無関係でしょう?」


「人族の考え方は違うかもしれないと。」


「かもしれない?」


「奥様にも分からないそうです。奥様が知る限り他種族との間に子ができた前例がないので、人族がお子様たちにどんな感情を向けるのか想像することしかできないと・・・」


「意味が分かりません!」


竜色は助けを求めるように姉を見るが、



「奥様なりの理由があってお話しになったのです。胎生の中でも母子の愛着は間違いなくトップクラスです。奥様は子どものためなら命も惜しくないと仰っていますが、私は冗談だとは思えません。」



竜紗は真剣だ。


 龍希は驚いた。竜紗が龍希の妻をそんなふうに思っているとは意外だった。賢い妻を一番警戒していると思っていた。



「お姉様!ご冗談を!一番信用できない妻だと仰っていたではないですか?」


「そりゃあ警戒しますよ。なにせ結婚の経緯が経緯ですから。だけど、竜色、警戒することと奥様の話を何一つ信じないことは別でしょう?

それとも奥様の話が嘘だという証拠でもあるのですか?

あなたは少し冷静になりなさい!」


竜紗に叱られて、竜色はしゅんとなった。



「うちとしてはさしあたり、ゴリラと虎の動きを静観するしかなさそうですな。」


「まあ警戒するに越したことはない。ワニに対しても・・・あ、いや龍海殿の奥様ではなく、ワニ族のことです。」

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