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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第3章 後継候補編
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女族長の勧誘

「一つでなくともよいですか?」妻が族長を見る。

「何をお望み?」

「いくつかお伺いしたいことが・・・お礼の一部としてお許しいただけるのでしたら。」

「ああ、何でもきいて。遠慮はいらないわ。」

どうやら族長はかなり龍希の妻を気に入ったようだが・・・

「では、ゴリラは・・・一族全体で人族と?」

「あー、捕まえた人族はゴリラの中で龍希殿に恨みを持つ雌を狙って声をかけたって言ってたわ。ただ、どうかしらね?紫竜は過去にゴリラからも騙して花嫁を連れてきたんでしょう?」族長は意地の悪い笑みを浮かべる。

「騙してませんよ。言いがかりはやめてください。」龍希はそう反論するものの、族長の目を見ることはできなかった。


「どうやって恨みを持つ雌を見つけたのですか?」

妻は気にせず質問を続ける。

「捕えた人族は知らないって言い張ってたわ。別の人族がそういうのを探ってきたって。人族たちはわざと分業制にして、1人が持つ情報を制限しているらしいわ。」

「それがゴリラ族の紫竜の奥様だったのですか?」

「まさか!人族の、それも雄が接触できないわよ。もっと下っ端のゴリラよ。確か・・・そうそうリーラって名の雌だって。」

「私はワニから恨みを買った覚えはないのですが、ワニはどんな恨みを?」

「ああ、ワニは奥様とは関係ないわ。20数年前、紫竜の使用人だったワニが雷で殺されたらしいわよ。どこぞの竜の子に。遺骨一つ返ってこなかったらしいわ。」

「ワニはそんな前のことでも根に持つものなのですか?」

「みたいねぇ。ワニ族は最近うちの眷属になったばかりだから、私たちもまだよく分かってないの。でも確かに記憶力はいい奴らよ。」

族長は肩をすくめる。

「人族に協力する種族はほかにもいるのですか?」

「捕まえた人族が通じていたのはこの2種族だけらしいわ。でも・・・ふふ、紫竜は取引先のほとんどから恨みを買ってるからね。人族と手を組む奴らはそこら中にいると思うわよ。だから、まともな雌は紫竜の花嫁になんかならない・・・はずなんだけどねぇ?」

族長は探るような目で妻を見る。

「私の素性はどこまで人族たちに知られているのでしょうか?」

「奥様の名前も出身地も知らないって。人族は、奥様の情報に懸賞金をかけて探ってるらしいわよ。でもバカ揃いの紫竜の花嫁たちでもそんな情報流したら即特定されるから黙ってるみたいね。さすがに。」



『このくらいにしておいた方がいいかな。』

芙蓉はふーっと息を吐いた。

明らかにでしゃばりすぎだろうが・・・夫は頭に血がのぼっていて、とても冷静に質問してくれそうになかった。

竜紗ならと思ったが、この族長は竜紗からの質問には答えないだろう。

だから、芙蓉から質問をするしかなかった。

この女族長の話の真偽は竜紗たちが判断することだ。

それに・・・

「人族は・・・私の子どもたちのことも狙っているのですか?」

「あーどうかしら。捕えた人族は最後まで奥様が子どもを産めるはずがないって言ってたわ。人族の若い奴隷を高値で売るための嘘だろうって。人族は紫竜を知らないの?」

「ああ、紫竜のことを知らないバカだったのですね。まあだからこそ下っ端として利用され、切り捨てられたのでしょう。」

芙蓉は嘘をついた。

「なるほどね。じゃあ奥様、お望みのものを考えておいてね。これからまたお会いする機会があるでしょうから、その時に直接言ってね。紫竜を信用しちゃダメよ。」

「・・・私は夫を信じておりますよ。でも族長様に失礼とならないよう次にお会いした時にお願いさせて頂きます。」芙蓉は笑顔を作ってお辞儀をした。

「ふふ、ホントに賢い奥様。紫竜なんかには勿体ないわ。離婚したら私のところにいらっしゃいな。」

「は?」夫は立ち上がって族長を睨んだ。

「あなた。私の前で雷は止めて下さいませ。」芙蓉は夫の片手に自分の手を重ねる。

「う・・・」

夫は族長を睨んだまま椅子に座った。

「ほらね。紫竜は自分の妻を欠片も信用しちゃいないのよ。そんな男信頼に値しないわ。」

族長は鼻で笑う。

夫は歯軋りしながら族長を睨み付けるものの、もう立ち上がりはしなかった。



「あなた、機嫌を直して下さいませ。私はずっとあなたの妻ですよ。」

馬車に乗って黄虎の谷を離れても不機嫌な顔のままの夫に話しかける。

「ん?ああ・・・俺は芙蓉を疑ってなんかないからな。あいつに咄嗟に言い返せなかっただけで・・・」夫は段々小声になる。

『嘘のつけないひと・・・』

「分かってますわ。私のために雷を我慢して言葉を選んで下さったのでしょう。」芙蓉は笑顔を作って、隣に座る夫にもたれかかった。

「・・・俺みたいなバカは嫌いになるか?」

「いいえ。でも他の女に言われたことをうじうじ気にする夫は少し嫌です。」

「もう言わない。」

素直なところが夫の長所だ。

「ごめんな、芙蓉。このところ面倒ごとばかり。俺がそばにいても何も・・・」

夫は今度は落ち込んでしまった。

「あなたのお役にたてるなら、私は平気です。それにこれが終わったらまた雪光花を見に連れて行って下さるのでしょう?」

「芙蓉~どこにだって連れて行くさ。次の旅行はゆっくりしような。」

「はい。楽しみにしていますね。あなた。」

夫は芙蓉の肩に腕を回すと髪に顔を埋めて匂いを嗅ぎ始めた。

『う・・・また。なんなの?なんでこれで落ち着くの?』

芙蓉のひきつった顔は夫には見えなかったようだ。


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