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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第3章 後継候補編
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陰謀

「どういうことだ?なんで人族が?」

「すごいでしょー。あの人族がゴリラと手を組んだらしいわよ。人族の薬で死にかけたらしいじゃない。」


「紫竜が薬ごときで死にかけるわけないでしょう。」


龍希は鼻で笑う。

「あ、やっぱり?じゃあゴリラは族滅?」

「・・・なんで人族とゴリラが?」

「どっちの恨みも買ったんでしょ。紫竜の後継候補筆頭が。」

族長は愉快そうに龍希を見る。


「俺はどちらからも殺されかけてませんけど。」


「でしょうね。人族やゴリラに殺されかけるなんてバカだけよ。」

今度は族長が鼻で笑う。

「人族がゴリラと手を組むなんて信じられません。」

竜紗も族長を睨んでいる。


「なんか獣人よりも紫竜の方が憎いみたいよ。正確には紫竜の花嫁が。」


族長は龍希の隣で俯いている妻を見る。

「は?俺の妻は関係ねえよ。大方、俺が雷で町を潰したのを逆恨みしてるんだろ。」


「え?龍希殿ってバカなの?」


族長は呆れた顔になる。

「はあ?」


どいつもこいつもバカ扱いしやがって。


「奥様の顔をご覧なさいよ。賢い彼女はちゃんと分かってるわよ。」

隣の妻は無言で俯いたままだ。


「おい!俺の妻に喧嘩を売るなら容赦しないぞ。」


龍希は爆発寸前だ。

「違うわよ。親切心なのに失礼ねぇ。ゴリラだけじゃないわ。人族たちは紫竜に恨みを持つ獣人に声をかけて動かしてるみたいよ。うちが捕えた人族だけじゃなくて他にもいるみたい。」

「その人族はどこに?」

「もう死んじゃった。本当よ。奴らはほ~んと貧弱ねえ。ちょっ~と痛め付けただけで死んじゃうんだもの。」

族長は肩をすくめる。


「それで、ワニも人族とつながりが?昨晩も戦っていたようですが。」


竜紗は首をかしげている。


「それがねぇ。なんか仲違いしたみたいなんだけど、理由が分からなくて。ちょっと奥様のお知恵を拝借できない?お礼はもちろんするわ。」


「できません。無理です。」

龍希は即答した。


妻は無言で俯いたままだ。こいつのせいで!

とっとと妻を連れ出したい・・・


「お伺いします。」


妻が顔を上げて答えた。

「え?芙蓉」

龍希は驚いて妻を見るが、妻は真っ直ぐに族長の顔を見ている。


「あらー。この前会った時よりいい顔してるわね。女はこうじゃなくちゃ。」


族長はニヤリと笑うと、妻に向かって説明を始めた。


「ちょうど1年くらい前、ワニが取引を一方的に破棄された報復に人族の町を一つ潰したんけど、あいつらからしたらずいぶん甘いと不審に思ってね。それでまああの手この手でワニの内情を探ってたら、例の人族を捕えたわけ。

そしたら、紫竜への恨みでゴリラとワニと利害が一致して協力してるって白状したんだけど・・・

今年の夏前ころかしら?人族がワニ族の領土に侵入して無差別に町を襲うようになったのよ。すでにワニの町が3つも潰され、領土の一部は人族が制圧したわ。どうやら人族が急に裏切ったみたいなんだけど、その理由が分からなくてね。仲違いしたふりをしてるだけかもしれないし。」


族長は肩をすくめる。

「同じ人族でも住んでいる場所や町の長によって考え方が全然違いますので、理由と言われましても私にはなんとも・・・」

妻は困った顔になる。

「うーん、なるほど。ワニたちが潰した人族の町はなんて名前だった?」


「セイトです。」


虎豊が答える。

「は!?」


妻の顔色が変わった。


「どうした?芙蓉」

「セイトって西の都ですか?」

「ええ、その字でした。」

虎豊が頷く。

「あ・・・なんてことを」

妻の顔は真っ青になっている。

「もう理由が分かったの?さすがね。」

族長は感心している。


「西都は今・・・どうなっているのですか?」


「もう何も残ってないわ。ワニたちが皆殺しにした後、誰かが町に火を放ったらしいわ。ワニは火を嫌うからかもね。」

「西都は西の貴族の直轄地です。その貴族たちを殺されたから、貴族院が報復を命じたのでしょう。ああ、だから昨晩、爆弾みたいな音が・・・」

妻は両手で頭を抱える。


「ニシノキゾク?キゾクインとバクダン?ちょっともう少し噛み砕いて教えてくれません?奥様。」


族長は困った顔をしている。

龍希にだって何のことだか分からない。初めて聞く言葉ばかりだ。


「西都の長が西の貴族たちです。貴族は人族の中でも特別な地位にある方たちのことで、貴族で構成された貴族院が人族のルールを作っています。爆弾・・・対獣人用の武器は貴族院の許可がなければ使用できません。」


「ふーん。なるほどね。じゃあ貴族院が人族の長ってこと?」

「長?少し違うかもしれません。貴族院は何人もの貴族が集まって、多数決で人族のルールを作っています。」

「え?長が何人もいるの?」

族長はびっくりしている。



「奥様、口を挟むご無礼をお許し下さい。バクダンというのはシュリュウダンとは違うものでございますか?」


龍算が尋ねる。

「手榴弾をご存じなのですか?爆弾の一種です。栓を抜いて投げつけて使うものだと聞いています。」妻は驚いた顔で龍算を見る。

「ワニたちはその手榴弾に苦しめられてましてね。」

虎豊が肩をすくめる。


「奥様、人族が今後、ワニと和解する可能性はございます?」


族長が尋ねる。

「ないと思います。貴族を殺した獣人は・・・じゅう、異種族と結婚した私と同じくらい人族にとっては嫌悪する相手のはずです。

おそらく・・・ワニとの戦争は停戦の話し合いにすら応じないかと・・・」

妻は喋りながらまた俯いてしまった。


「ありがとうございます!奥様!期待した以上のことを教えて下さいましたわ。このお礼は必ず。なんでも望むものを仰ってくださいな。黄虎族長の威信にかけてご用意しますわ。」


こんなに嬉しそうな族長は初めて見た。

 

ワニは黄虎の眷属になって日が浅い。黄虎に隠れてゴリラと人族と手を組み、紫竜に害をなそうとしていたなら・・・黄虎族長はこれで決心がついたのだろう。

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