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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第3章 後継候補編
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とばっちり

「龍希様、奥様。ご面倒をおかけして申し訳ございません。」

そう言ってベッドに横たわったまま頭を下げた龍灯は、げっそりと痩せて顔色が悪い。

一月以上意識不明だったのだから無理もない。

 ベッドの側に立っている緑色の着物を着たゴリラが新妻だろう。


「龍灯様、龍希様と奥様にお話を。」竜紗が促す。

「はい。私はあの晩、いつもどおりお酒を飲んで妻と寝たはずなのですが、目を覚ました時には9月になっていて。

頭はガンガンして身体はだるくて動かず・・・今も日中ぼーとしてしまうことも多いのです。」

「あの、最後にお休みになった晩には頭が痛かったり、身体がだるいという症状は?」芙蓉は順番に質問してみることにした。

「いいえ、ございませんでした。」

「では、お酒の味がいつもと違ったことは?」

「いえ、そんなことはなかったと思います。」

「お酒は何を呑まれたのですか?」

「梅酒のロックです。」

「そのお酒は原因ではないのですね?」芙蓉は竜紗を見る。

「はい、試してみましたが、誰にも異常は現れませんでした。」

「おつまみは何か食べられました?」

「ええと・・・確か塩味のきいたおかきを。」

「おかきは何色でした?」

「え?色ですか・・・白というかクリーム色だったと。」

「白いこのくらいの錠剤を見たことはありませんか?」

芙蓉は親指と人差し指で大きさを作る。

「いいえ。」

「では、おかきに白い粉はかかっていなかったですか?」

「いえ、そんなものは・・・あ!でも、そういえばおかきのなかに白い固まりがあったような・・・」

「そのおかきは全て食べたのですか?」

「いえ、食べている途中で眠くなって・・・残っていたと」

「え?お皿は空でしたよ。」竜紗が怪訝な顔をする。

「私が残りを食べてしまいました。でも何ともなかったですよ。」ゴリラの妻が口を挟んだ。

「奥様が召し上がったおかきにも白い固まりが?」

「さあどうだったか。」

「龍灯様は覚えておられます?」

「え?いや、妻がおかきを食べているところは見ていないです。」

「そのおかきは誰が用意されたのですか?」


「奥様のご実家から頂いたものです。」

答えたのは部屋の隅に立つトンビの獣人だった。疾風と同じ執事服を着ているので龍灯の執事だろう。

「では、奥様のご実家の潔白を証明するためにおかきの出所をお調べになってはいかがでしょうか?」

芙蓉は竜紗を見る。

「はい、直ちに。奥様、申し訳ございませんが、ご協力をお願いいたします。」竜紗はゴリラの妻を見る。

「私の実家を疑うなんて!」ゴリラは不愉快そうな顔になった。

「原因不明なままでは今度は奥様にも同じことが起きる危険がございます。それにご実家を疑っているわけではございません。おかきを売った業者を調べたいのです。」

「・・・」ゴリラの妻は無言で芙蓉を睨んだ。


『怖い・・・』

芙蓉が後退りすると夫が芙蓉の肩を抱いて、ゴリラを睨む。

「おい!俺の妻に敵意を向けるなら殺すぞ。」

ゴリラは青い顔になり、龍灯を見るが、龍灯が首を横に振ると、ゴリラは下を向いてしまった。


夫の体温を感じて恐怖が和らいだ芙蓉は話を続ける。

「あの、龍灯様が意識不明の間、お水はどうやって飲ませていたのですか?」

「奥様が口移しで飲ませておいででした。」答えたのはトンビの執事だ。

「お水を変えてからは?」

「私が水差しで。」トンビが答える。

「お水も原因ではなかったのですね。」

「はい。普通の水でした。こちらも確認いたしましたので。」今度は竜紗が答える。


「あの・・・龍灯様の奥様にも質問してもよろしいですか?」芙蓉は夫を見る。

「構わないだろう。」

夫が龍灯を見ると龍灯は頷いた。

「なんですか?もしや枇杷亭の奥様は私を疑っておられるのですか?」ゴリラの顔が一層険しくなる。


『なにも証拠はない。でも・・・ゴリラの獣人と聞いた時からずっと気になっていたことがあった。』

芙蓉は唇をなめて潤すとゴリラの目を見る。

「奥様のご親族に・・・雪光花の中で殺された方はおられませんか?」

ゴリラの顔色が変わった。

「?何の話ですか?」

龍灯と竜紗が首をかしげる。

「なぜ奥様がそのことを?」

『ああ、やっぱり』

芙蓉は無言のまま目を伏せた。


「やっぱり!やはりお前か!私の叔母を殺したのは!」


ゴリラは叫ぶと同時に芙蓉に向かってきた。

凄まじい形相で芙蓉に向かって両手を伸ばす。

芙蓉は恐怖で身体が動かない・・・


目の前のゴリラがふっ飛んだ。

竜紗がタックルをかましたのだ。

さすが紫竜というべきか・・・竜紗の2倍はあるゴリラは勢いよくふっ飛ばされて、龍灯のベッドにぶつかってうめき声をあげた。

 夫は芙蓉を抱き抱えると、

「あとは任せたぞ。」

そう言って芙蓉を抱えたまま客間を出た。


客間のドア越しに聞こえたのは・・・

ゴリラの断末魔だった。



「芙蓉。すまない。怖い思いをさせたな。」夫は芙蓉を抱えて廊下を歩きながら、申し訳なさそうな顔をしている。

が、本家の廊下でお姫様だっこは勘弁してもらいたい。また使用人たちに噂されてしまう。

「あなた、大丈夫です。自分で歩けます。」

「ん?遠慮するな。いつもより体温が低い。」

だって・・・怖かったもの。血の気が引いた。

前回といい今回といいゴリラはもうごめんだ。

「それよりもゴリラが犯人だと分かっておられたのですね?」

「いや、全く。なんで分かったんだ?」夫は不思議そうな顔をする。

どうやら本気で分かっていないようだ。


『もう!あなたが原因ですよ!』

芙蓉は久々に夫を睨んでしまった。


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