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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第3章 後継候補編
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龍大の罪

 7月ももう終わる頃、龍希は族長に呼ばれて本家に来た。

「失礼します。参りました。」

「龍希、すまんな。」

「今日は何ごとですか?」


 龍陽が生まれてから何かと厄介ごとを任されている。今日も要件を告げずに呼び出されたということは一族にも口外できない事案なのだろう・・・


「実はな、龍大(りゅうだい)の処刑を頼みたい。」

「は?龍大は何をしたんですか?」

「龍灯の妻に・・・」

龍希は歯ぎしりした。


『バカやろう!』


 龍灯は昨年、5年以上連れ添った蛇族の妻と別れた。妻はこれまでに2回産卵したがいずれも死産だった。故意か偶然かは分からない。

そして先月、ゴリラ族と再婚したばかりだ。

龍灯は今年で32、後継候補の1人なので子ができなければ困るのだ。

 対して龍大は50代後半で娘が2人いる。昨夏、長年連れ添った妻と死別したはずだ。


 紫竜一族において同族の妻に手を出すことは禁忌だ。必ず処刑することになっているが・・・



「龍灯1人でやれますよね?」

 後継候補になるのは一族の中でも特に力が強い雄だけだ。

「それがな・・・龍灯は動けない。」

「は?なんで?」


「数日前から意識不明なんだ。」


「はあ?んなバカな!」


 龍希は信じられない。紫竜が意識を失うなんて竜神の呪いにかかった龍緑以外に聞いたことがない。ましてやあの龍灯に意識不明の大怪我を負わせられる奴なんて・・・


「まさか龍大が返り討ちに?」

「いや違う。龍灯は自分の巣で倒れているところを執事が見つけたんだ。ゴリラ族の新しい妻は全く事情がわからないと・・・」

「んなバカな・・・」

龍希は呆然となる。

「龍灯のことは竜紗たちが調査している。だが、いつ目を覚ますか分からない。龍大を放置する訳にはいかないのだ。頼んだ。」

「・・・分かりました。龍大は自分の巣に?」

「ああ。」

「今から行ってきます。」

龍希は一礼すると族長の執務室を出た。



「疾風。稲穂亭に行くぞ。」

「今からですか?龍大様にアポは?」

「不要だ。俺を降ろしたらお前は着替えと絆創膏を取りに行ってくれ。戦いになる。」


疾風の顔色が変わる。

龍希が処刑を担当するのは今回が初めてじゃない。

執事は慣れている。

「畏まりました。どうぞお気をつけて。」



 紫の鱗に覆われた紫竜を傷つけられるものは限られている。黄虎の牙と爪、紫竜の牙と爪はその代表だ。なお雷は全くきかない。

 黄虎の小刀で致命傷を負わせることは不可能なので龍希の牙と爪で殺すしかないが、禁忌を犯したとはいえ龍大が大人しく殺されるわけがない。

過去には3~4人がかりで処刑を行い、返り討ちにあった例すらある。だが禁忌を犯した竜を生かしておく訳にはいかないのだ。

 それが例え、ついこの間まで守番として世話になった奴であっても・・・

跡継ぎがおらず、焦っていたとしても・・・

龍大には再婚するための結納金を用意する力はもうなかった。守番の時に何度も一緒になったから分かる。かなり力が弱っていた。竜の力が弱ればシリュウ香の原材料である血の力も弱り、生産量が落ちるのだ。

 龍大は竜琴の守番が終わった後、取引先を1/3に減らされ、代わりに運搬や雑務を任されたが・・・収入が大幅に下がったのは言うまでもない。



『結納金なぁ・・・』


龍希の支払った結納金が紫竜の相場の10分の1だったことは秘密だ。知られれば妻が侮られる。

それなのに、妻は人族の結納金相場の8倍近いと言っていた。

人族は金銭感覚が狂っているとしか思えない。

 龍希の妻は間違いなく一族随一の花嫁だ。だからこそ・・・同族は信用ならない。



~稲穂亭 庭~

「つう・・・」

疾風は龍希の左肩の噛み傷に緑の絆創膏を張る。

「本当にお怪我はここだけですか?」

「ああ、後は出血してない。」

 時間は掛かったが転変することなく倒せたのは大きい。龍希も転変して戦っていれば疲労で2~3日は動けなかっただろう。


「・・・奥様にはなんと?」


「絶対に言うなよ。カカに言い訳を考えさせる。」

「奥様はカカより賢いですよ。騙されるとは・・・」

疾風の言葉に龍希は唸る。

そんなことは分かっている。

たが、こんな話を素直に伝えられる訳がない。

「うっ・・・」

 両手から血の臭いがする。

同族の血はいつになっても慣れない。

吐きそうだ。


「もう歩ける。本家に戻るぞ。」

「はい。」

 今回は同族の血を着けたまま自分の巣に戻るわけにはいかない。子どもたちが気づいてパニックになる。

本家の風呂で洗い流さなければ。



~紫竜本家 薬湯の浴室~

 本家の風呂で薬湯に1時間浸かり、ようやく血の臭いが消えたことを確認して龍希は風呂からあがった。

血のついた服は本家の使用人たちが焼却処分しているはずだ。

紫竜の血と死臭はよくないものを引き寄せるのですぐさま処分しなければならない。



 廊下に出ると声をかけられた。

「龍希様。この度は父が大変ご迷惑をおかけしました。誠に申し訳ごさいません。」龍大の娘が深々と龍希に頭を下げる。

竜色(りゅうし)か。お前が謝る必要はない。稲穂亭の後始末は任せたぞ。」

「畏まりました。龍希様は今夜は本家にお泊まりに?」


「自分の巣に戻るに決まってるだろ!」


「え?でも・・・万一、奥様に気づかれては・・・」

「言い訳をカカに考えさせるから心配ない。」

「左様ですか・・・」

竜色は明らかに不満げな顔をしているが大人しく下がって行った。


 龍希の妻を必要以上に警戒している同族は少なくない。特に龍栄派の女は・・・


賢い妻の何が悪いのかと思うが、隠し事がしづらいのは確かに困る。

バレたところで熊のように実家に紫竜の情報を流すことはないのだから警戒する必要はないと思うが・・・

まあ何があっても龍希の愛情は全く変わらない。


 妻は鼻が弱いから、きっと臭いには気がつかない。

だか服を脱げば緑の絆創膏に気づかれてしまう・・・

どうするかなぁ?

龍希が考えたって妻をうまく騙せる嘘なんて思い付けない。

頭脳労働はいつだってカカと竜湖に任せてきたのだ。


あー妻のことを考えてたら会いたくなった。

早く帰ろう。


龍希は馬車に向かった。


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