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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第24章 豊編
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真名と偽名

~族長執務室~


「では、我らはこれで。」


別荘の豊の呪いが終わり、藍亀たちはようやく帰って行った。



「私も大樹に帰ります。臭い竜の巣はもうこりごりだ。」


最後まで嫌みを言いながら鳳雁も帰って行った。



ようやく紫竜本家も元通りだ。

こんなにも長く藍亀と朱鳳が滞在しつづけたことなんてなかったので、龍希も疲れていた。



朱鳳とのストール・スカーフの約束は今度こそ紫竜一族の記録として残しておかなければ、妻の命が絡めばまた龍希の一族は同じ過ちを犯すに違いない。


口封じの呪いなんて妻にかけさせるものじゃない。

妻はすっかり元気になったけど、体内に藍亀の小刀が入っているせいで藍亀の匂いがわずかにするのだ。

これは妻が死ぬまで取れないだろう。


さすがに体内の匂いを龍希の匂いで上書きすることなんてできない。


龍希の祖先が、妻にストールの秘密を教えないという選択肢をとったわけだ。

妻から別の生き物の匂いがするなんて、これ以上の苦痛はない。



コンコン



「ん?入れ」


「失礼します」


やって来たのは龍緑だ。


「解放軍から返事が来ました。」


「やっとか。もうおせえよ。」


龍希が解放軍のトモエに宛てて、ユタカの呪いについての手紙を送ったのは何日も前のことだ。



「手紙の中身は一言だけ。ユタカの判断に任せるとのことでした。」


「なら結果オーライだな。ユタカをようやく返還できる。あ!またその手紙を送らないとか?」


「いえ、ユタカは元々、ワニ族領での仕事が終われば水連町に戻る予定だったそうです。」


「分かった。なら明日、お前が送っていけ。」


「明日ですか?今からでも・・・」


「もう門が閉まるだろ。」


龍希だってすぐにでも追い出したいが、もう夕暮れだ。人の町の門は閉じる頃だろう。



「畏まりました。しかし、よろしいのですか?うちの匂いに藍亀の匂いまでする人族なんて・・・」


「どうしろってんだよ!?龍算は使用人にしたがってたが、ユタカはどうせ拒否だろ?」


「え!?そうなんですか!?あの龍算が人族を!?」


龍緑は驚いているが、龍希だって最初は驚いた。

ユタカは優秀だが、そばに置きたいとは思わない。

ユタカは解放軍に忠誠を誓っているからだ。



「ああ。そのせいで竜礼が興味津々だ。」


「大丈夫なんですか?」


「何が?ユタカを殺しはしないだろ?」


「そっちの心配ではないです。ご報告しましたでしょう!?」


「何を?」


龍希は覚えてない。

竜礼とユタカに何かあったか!?



「はあ!?竜礼は黄虎が人族と子を作ったことに対抗意識燃やして、実験しようとしてるんですよ!?報告しましたよね!?」



「あ~心配ねえよ。龍算が全力で反対してたからな。竜礼は何だかんだ龍算の言うことは聞くんだ。」


龍希は何も心配していない。

龍算と竜礼兄妹は昔から仲がいいのだ。



「そうですか!?龍算は妹に弱いですよ!?」


「あいつからすればいくつになっても可愛い妹らしいな。俺には下の兄弟がいないから分からんが。

とはいえ龍算は人族との野合(やごう)なんて許さねえよ。てか、できる女もいないだろ!?

今は竜染にも竜冠にも夫がいるしな。」


「それでも2人は気にしてましたよ。・・・族長命令として伝えてきてもいいですか?」


「構わん。お前は心配性だなあ。」


「族長はもっと女たちを気にかけて下さい。」


龍緑はめんどくさそうにしながら出ていった。

わざわざ自分の仕事を増やしておいて機嫌が悪くなるなんて、やっぱりあいつは父の龍海とは全く違うタイプだ。




~別荘~


夜、竜礼はまたユタカに会いに来ていた。

族長は明日、ユタカを人の世界に戻すことにしたらしい。


まさかこんなにも早く藍亀の呪いが完成するなんて!?

ユタカが覚悟を決めるのは半年でも足りないと思っていたのに、その間にユタカを懐柔できないかと目論んでいたのに・・・ユタカも竜礼の想像を遥かに超えた獣人だった。


だけど、竜礼は不愉快には思わない。

むしろ、兄の見る目はやっぱり正しかったと誇らしい気分だ。



コンコン



「起きてる~?」


竜礼がノックして扉を開けると、ユタカはソファーに居た。

竜礼が今夜も来ると分かっていたようだ。



「お越しになると思ってました。」


「あら!?待っててくれたの?」



「明日、僕は解放されるのでしょう。始末するなら今夜しかない。」


ユタカは意外なことを言い出した。



「獣人を使ってユタカを殺そうとしたオジサンは族長に半殺しにされて謹慎中よ。」


「だからといって安全とはいえませんよね?」


「うん。だから族長は今夜も外に警備を置いてるわ。」


「ありがとうございます。女性の貴女まで毎晩・・・」


「私は警備じゃないわよ。」


竜礼の返事にユタカは驚いている。



「え!?じゃあ、なんで毎晩ここに!?」


「おしゃべりするため。今夜はこのドレスを見せに来たの。どう?お兄様からのプレゼントなの。」


「よくお似合いです。」


「うそだ~全然好みじゃないもの。」


これは竜礼の本音だ。

ユタカもそれが分かったのか苦笑いしている。



「どんなドレスがお好きなんですか?」


「もっと暗い色でシンプルなデザイン。こんなワインレッドは好きじゃないの。こんな可愛い刺繍だらけのドレスなんて喜ぶのはもっと若い女よ。」


「来年の誕生日にリクエストされては?」


ユタカは予想外の返答をしてきたので



「いいのよ。好きな物は自分で買えるから。」



竜礼はつい素で返してしまった。


「はは。それは失礼しました。」


ユタカはなぜか笑うけど、竜礼をバカにしているわけではないようだ。



「可愛げがないでしょ?」


「自立した女性は素敵ですよ。」


兄を否定することなく、竜礼を褒めるなんてやはりユタカは女の扱いになれたタイプだ。

ユリとのやり取りからも竜礼は察していた。



「酷いと思わない。お兄様は子どもや妻には好みの物を贈るのに。」


「それは・・・子どもはまだ自立していませんし、補佐官殿の奥様は貴女とは違うタイプだからでは?」


「も~共感してくれないの!?女が求めるのは寄り添いよ。」


「補佐官殿の悪口は求めておられないでしょう。」


ユタカは断言した。



「・・・悔しい。ユタカは私の考えが分かるのね。」


竜礼は悔しさ半分、嬉しさ半分だ。



「そんな大層なことではありませんよ。お二人の様子から信頼しあっているご兄妹なのだと分かっただけです。」


「それは嘘。お兄様は心配してばかりでしょう!

?」


龍緑が居なくても、今のは嘘だと分かった・・・と思ったのに、ユタカはわずかに眉をひそめた。



「試してます?あの時の補佐官殿の言葉で、僕なんかにもよく分かりましたよ。」


「あの時?いつのこと?」


竜礼には心当たりがない。

というかユタカの前で兄から何か言われたっけ?



「この部屋で獣人に襲われて貴女に助けてもらった時ですよ。」


「あ~あの時も、お兄様は俺の指示ってことにしろとか言ってたじゃない。」


竜礼は思い出した。

兄はいくつになっても過保護なのだ。

族長にそんな嘘は通用しないのに。



「ええ。事前に俺に相談しろでも、二度とやるなでもなかったので、貴女が自分の判断で動くことを尊重しておられるんだなって。」



「・・・」


想定外のユタカの見解に、竜礼は言葉を失ってしまった。

そんなこと考えたこともなかった。



「・・・すいません。生意気なことを言うつもりではなかったのですが・・・」


「ううん。感動しちゃったわ。こんな私まで口説いてくれるなんて。」


「違います。」


ユタカは思い切り嫌そうな顔になった。



「うふふ~冗談よ。まだ警戒してるの?ユタカを実験に利用したりしないわ。」


竜礼は笑ってしまった。

黄虎に対抗する気持ちに偽りはないけど、ユタカ自身を実験に利用するつもりなんて初めからないのだ。


ユタカは兄と族長に認められた男なのだから。



「それはよかったです。というかその役にはたちませんよ。僕は。」


「そう?あの芙蓉ちゃんを言葉一つで動かせるんだもの、その辺の女と子孫を残すなんて簡単でしょ?」


「僕は子どもを作りませんよ。こんな血筋でも利用しようとする悪い人間がいますので。」


「あ~北の貴族は興味津々だったわ。人族の隠し子にも戸籍ってあるのね!?首都の貴族は大切に保管してたって。」


「・・・」


ユタカはあの時と同じ険しい顔になった。

やっとユタカの興味を引ける話題を見つけた。



「知りたい?貴族の調査結果?」


「何をお望みで?」


「違うわよ~お詫び。族長の許可ももらってるわ。」


「お詫び?何のですか?」


「悪気はなかったのよ。保護した獣人の身元を問合せるのはうちでは普通のことなの。族長筋なら尚更ね。

その上、うちの失態でユタカに怪我までさせたでしょ?輸血できる親族がいないか探しておきたかったのよ。

でも、ユリちゃんに聞いたら、ユタカが解放軍として生きる邪魔になるらしいわね。」 


「・・・どこまで突き止めたんですか?」



第四家(だいよんけ)央豊(おうほう)君。20代くらいかと思ってたけど、診察した医師たちはユタカは30代後半くらいって見抜いたから・・・」



真の年齢の情報は貴族たちには知らせていない。

 族長妻はユタカは20代だろうと言っていたので、貴族に問合せた時はそう伝えた。


だから、貴族たちもまだ確信にはたどり着いていないようだ。一つの可能性として央豊という息子の情報を伝えてきた。



西の貴族に関する戸籍は人族にも残っていないらしい。

他の貴族の中に、20代の男の行方不明者はいないけど、10数年前、ワニ族に誘拐されたまま行方不明になった貴族の息子は居るそうだ。


ワニは貴族に身代金を要求したが、妾の子だからと、父である貴族は拒んだらしい。

 ところが誘拐された息子は監禁場所から姿を消し、見張りのワニが皆殺しにされていたことで、ワニたちは人族が武力で奪還したと思い込み、その貴族を襲撃して一族を皆殺しにしてしまったそうだ。


ユタカはワニに誘拐されて解放軍に救助されたと族長たちに話したらしいから、割と一致している。


というか目の前の豊の反応からして間違いない。



「ふふ。人族って面白いわ。芙蓉ちゃんもね、昔偽名を使うときに真名に近い名前にしてたの。人族の習性かしら?」


「・・・龍リョク殿は、私にはリョクと名乗っておられましたね。」


「あらま。そういうものなのかしら?私は偽名を使ったことないから分からないわ。」


竜礼はおどけて見せたけど、豊は怖い顔のままだ。

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