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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第2章 夫婦編
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姉弟の仲

 藍亀の島で宴会が始まった。

巨大な円形をした宴会場は海に浮かんでおり、白い石の山とは真っ白な橋で繋がっている。

橋や宴会場を照らしているのは、あの黄虎の光玉だ。


 芙蓉は、薄紫色の地に色とりどりのサンゴの模様が入った着物を着て、ルビーの髪飾り、イヤリング、真ん中に2つのリュウカを通したネックレスをつけている。龍陽は夫と同じ色の青紫色の和装だ。竜琴は深紅のサンゴが描かれた薄紫色のロンパースにした。

 宴会場には龍栄家族が先に通されていた。白猫は水色の地に色とりどりの熱帯魚が描かれた着物と水色のリボンの髪飾り、龍栄と竜縁は赤紫色の和装で、竜縁の着物には白い舟が描かれ、頭には真珠の髪飾りをしている。

 紫竜本家の侍女たちは優秀だなあ・・・服装が被らないように事前に打合せていたのだろう。


 芙蓉たちの席と思われる空席の向かいには年配の藍亀の夫婦が座っており、斜め向かいに座った龍栄夫婦と会話している。

「おお。龍希殿とそのご家族。おかけください。」藍亀のおじいさんが空席を手で示す。

「奥様とお子様たちは初めまして。藍亀の族長です。名前は数十年前に忘れましてな。皆、族長と呼ぶものだから。ほっほっほ」族長は愉快そうに笑う。

「妻の亀白きはくです。遠路はるばるようこそお越しくださいました。私の隣にいるのが」亀白は龍栄の向かいに座る初老の藍亀を見る。

「族長後継の幹亀かんきと申します。竜の子が3匹とは今の紫竜族長が来た時以来ですな。」幹亀は頭を下げると笑顔でそう言った。


「そうだったわね。鳥の雛だった龍希ちゃんがこんなに大きくなったなんて。」亀白が笑う。

『龍希ちゃん?』龍希は思わず営業スマイルが崩れそうになった。

「ああ、私が転変した祝いにご招待頂いたと伺いました。」

「そうよ~。竜帆ちゃんと龍栄ちゃんは今の竜縁ちゃんのような姿だったけど、龍希ちゃんはまだ鳥の雛の姿だったわ。お母さんよりも少し薄い茶色の羽をしてた。」亀白は懐かしそうに目を細める。

「私は竜の姿で海を飛び回っていた印象が強いですね。転変した竜の子なんて初めて見ました。一族のものは大喜びでしたね。」幹亀は海の方を見る。

「そうそう!龍希ちゃんは大人気だったのよ。それに竜帆ちゃんが嫉妬しちゃって。龍栄ちゃんもってけしかけてたけど、龍栄ちゃんはお父様にべったりでね。お母様を恋しがって巣を焼いてから一度も転変してないって竜帆ちゃんは心配してたわ。」

「え?」龍栄が驚いた顔になる。

「あら?覚えてないの?父竜の巣を焼いた竜の子と聞いて皆ちょっと警戒してたんだけど、会ってみたら大人しくてかわいい子で。それに竜帆ちゃんがすごく弟思いのいい子だったから、こんなに仲のいい竜の姉弟は見たことなくて・・・私はとっても感動したのよ。」亀白は優しい眼差しを龍栄に向ける。

「そう・・・でしたか。私も幼かったもので・・・」

「まあ!じゃあ今度は覚えておいてね。あの後、竜帆ちゃんはあなたのためにお母様を呼び戻して、紫竜一族から嫌われちゃったんでしょう?」

「え?」今度は龍希と龍栄が同時に声をあげた。

『龍栄のため?』そう言えばリュウホ・・・龍栄の姉が熊を呼び戻した理由は知らない。

「私のため・・・ですか?」龍栄も営業スマイルが崩れて困惑した顔になっている。

「竜帆ちゃんがここに来た時そう言ってたわよ。龍栄ちゃんは異母弟よりも力が強いのにお母様を恋しがって力が出ないだけだって。だから竜帆ちゃんは来月、みんなで黄虎の巣に行くまでに龍栄ちゃんにお母様を返してあげるんだって。」

龍希と龍栄はポカンとして顔を見合わせた。


『何言ってるんだ?龍栄は熊を完全に忘れてたのに・・・』


「竜帆殿は龍栄殿を溺愛されてましたね。その反面、孔雀の奥様と龍希殿には随分あたりがきつそうでしたけど・・・」幹亀が苦笑いする。

「女はそんなものよ!孔雀の奥様はまだ紫竜に嫁いで2年も経っていなかったのに、立派に役目を果たされてたわ。まあでも10年以上連れ添ってた熊の奥様には敵わないわよ。竜帆ちゃんだって頭では分かってたんだろうけど、女の嫉妬の炎は理性なんかじゃ弱まりもしないわ。ねえ?」亀白がそう言うと妻と白猫は困った顔で笑う。

どうやら女にしか分からないジョークのようだ。

「後継候補が殺し合いをする黄虎とは大違いですね。それともお姉様がご健在ならまた違ったんですかね?」幹亀は不思議そうな顔で龍希と龍栄を見る。

「あの野蛮な虎と一緒にしないでください。うちは同族で戦いはしません。」龍希は幹亀を睨む。

「朱鳳の巣で龍海殿を殴ってませんでした?」

「見間違いでしょう。」龍希は営業スマイルに戻す。

『見てやがったのかよ・・・』

「ふ~む。やはり似とらん兄弟じゃなあ。孔雀の息子の方が紫竜らしいのに・・・なんで熊の息子びいきなんだ?」藍亀の族長がようやく口を開いた。

「贔屓などされておりませんよ。龍希殿の方が一族から期待されていますので。」

「違います。俺は説教ばかりで呆れられていますので。」

龍希が龍栄を睨むと龍栄はそっぽを向いた。

「ふ~む。めんどくさいのう。紫竜も決闘で後継を決めたらどうじゃ?」


「ご冗談を」

龍希と龍栄の声がまた重なった。



「は~疲れた・・・なんなんだ?あの亀どもは」客間に戻るなり龍希はソファーに寝転がって愚痴る。

「お疲れ様でした。」妻は苦笑いしながら、宝飾品を外して着替え始めた。

「なんで年寄りは昔話ばっかりなんだ。何のために呼んだんだか・・・」

「・・・族長の奥様は龍栄様のお姉様を気に入っておられましたが、藍亀の皆様はあなたを気に入っておられるようですね。」

「え?そうなのか?」

「そういう会話に聞こえましたよ。」妻は呆れて龍希の方を見る。

「いや、ガキのころの話だろ?」

「ええ、そのときにお2人を比較して藍亀の心は決まったのでしょう。だから竜帆様は焦って黄虎の時に龍栄様を挽回させようと熊の奥様を呼び戻した。けれど、今日に至っても藍亀の心は変わらない。そういうお話だったのでは?」

「・・・そうなのか?」

「昔話のわりにはお館様の話題は全く出ませんでしたから。」

「あ・・・そういえば、なんでだ?」

「もう後継者にしか興味がないからでは?」

「その割には決闘だのなんだの冗談ばかり言ってたぞ?」

「決闘したらどちらが勝つのですか?」妻は答えを分かっているようだ。

「・・・。いや、だって俺は海を飛び回ってただけだろ?」

「龍栄様はそれすらできず、父親にべったりだったのでしょう?今日もあなたの方が藍亀と堂々と会話されているように見えましたよ。」

「・・・俺は礼儀知らずなだけだよ。」

「黄虎にはあなたが本家に雷を落としたことで気に入られたのでは?藍亀も同じで礼儀正しさは評価対象ではないのではないですか?」

「・・・」龍希は渋い顔になる。

「俺は龍栄殿のおまけで呼ばれたんじゃないのか?」

「メインは龍陽では?藍亀はもうさらに次を見据えているのだと思いますよ。」

「はあ?いや、いくら何でも・・・」

「だから龍栄様は先ほど龍陽を転変させたのだと思っていましたけど・・・」

「え?そうなのか?」

「・・・龍栄様はお姉様のことも覚えていらっしゃらないのですね。」

「え?熊のことは完全に忘れたって竜湖が言ってたけど、姉のことはまだ覚えてるんじゃないか?仲が良かったらしいし。」

 龍希は龍栄の姉のことは完全に忘れた。ただやらかしたことは知っている。竜湖から何度もしつこく聞かされてきたから。

「姉がいれば龍栄様は今とは違って対抗心を燃やしたのではないか?って幹亀様が仰っていたではないですか。龍栄様はそのとき何の反応もされてませんでしたから。」

「そんな話あったっけ?」

「・・・」

妻だけでなく、ククとシュンも呆れた顔で龍希を見ている。

「なんとも・・・もったいないほどの奥様でございます。」ククが妻の着物をたたみながらため息をつく。

「まあ賢い奥様を選ばれたことでようやく龍希様が本気になられたと一族は皆安堵したわけですから。」シュンは半目で龍希をみる。

「はあ?本気ってなんだ?そんなこと考えて選んだわけじゃない。」

「分かっております。でも取引先には勘違いさせたままにしておいてくださいませ。まあ藍亀の族長には龍希様が馬鹿だと見抜かれているようですが・・・」

「勘違いって・・・冗談だろ?」

龍希は同意を求めるように妻を見る。

「今からでも次の子を作るのはお控えになります?」

「え?いや、別に次の子がほしいわけじゃなくて・・・それとこれとは別の話・・・」


「同じです。」

妻と侍女たちの声が重なった。


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