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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第2章 夫婦編
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竜冠

「本当か!」族長はまた大泣きだ。

「さすがねえ。龍栄に対抗して熱心だったものね。」偶然、本家に来ていた竜湖は嬉しそうに笑う。

「違いますよ!」

「違わないわよ。何をいまさら。あ~楽しみだわ。若様かしら姫様かしら。」

「おそらく同時に守番が必要になるな・・・だが、今の一族では・・・」族長は何やら考え込んでいる。

「もし次も息子だったら・・・」龍希は恐る恐る尋ねる。

「待望の新族長ね。長かったわ。」

竜湖の言葉に龍希は青ざめる。

「いや、でも妻の出産まで時間があるから龍栄殿にもう一人くらい・・・」

「んなわけないでしょ。竜縁が転変するまで龍栄は次の子を作らないわよ。胎生の子だけど年内に転変するかは怪しいわ。龍陽よりもかなり小さいらしいじゃない。」

「そんな・・・」

「ちょっと!そんな情けない顔を妻子に見せるんじゃないわよ。愛想つかされちゃうから。」

「まさか授乳中に次の子ができるなんて思わないじゃないですか。」龍希は頭を抱える。

「はあ?そりゃあ、そういう種族もいるけど・・・芙蓉ちゃんが妊娠できる状態に戻らなきゃあんたもその気になんないでしょ。」

「知らなかった・・・」

「あんたねえ、そんなことだから藍亀から馬鹿扱いされるのよ。まあ結果オーライだけど。」

「よし!龍希。行くぞ!」族長が突然立ち上がった。

「は?今からですか?どこに?」

「いいからついてこい!急ぐぞ。もう日が暮れる。」

族長が走って執務室を出ていく。

龍希は慌てて後を追った。



「族長、龍希様。お子様の誕生はまだ先でございます。本日はどのようなご用件で?」

巫女服の竜冠は神殿の入り口で待っていた。困惑した表情だ。

龍希も困惑している。

族長は何しにここに来たんだ?

「竜冠。やはり龍希の子のことを知っておったな。ならば教えてほしい。龍希の子が産まれるのはいつだ?」

族長の質問に竜冠は困った顔になる。

「お伝え出来ません。竜神様の御意思に沿いませんから。」

「分かっておる。だが、2ヶ所で同時に守番となると・・・今の一族では相応の備えをしておかなければならない。竜の子を危険にさらさないために協力してくれ。」

族長は険しい顔をしている。

竜冠はしばらく悩んでいたが、龍希たちを神殿の奥に案内した。

祭壇の前には白い幕が降ろされている。

 竜冠は祭壇の方を向いて両手を頭上で組むと両目をつむる。5分ほど過ぎたころ、竜冠が両目を開けて振り向いた。額にはびっしりと汗をかいている。

「龍希様のお子様は年が明ける月に・・・」

言い終わる前に竜冠は膝から床に崩れ落ちた。

龍希が慌てて抱え上げると竜冠は気絶していた。

竜冠の鼻と両耳から血が流れる。

「無理をさせた・・・だが1月か。竜縁が転変しているか分からぬ時期だな。龍希。竜冠を馬車に運んでくれ。儂が責任をもって本家で看病する。」

「はい。・・・命に別状はないですよね?」

「だと思うが・・・」族長は暗い顔をする。

 馬車で本家に竜冠を運び、龍希が枇杷亭に戻った時には夜9時を回っていた。


「おかえりなさいませ。」妻はリュウカの部屋で龍陽の寝かしつけをしていた。

「今日は疲れた。色んな事がありすぎて・・・」

 龍栄の娘が産まれて、妻が怪我して、妊娠が分かって、神殿で巫女が倒れて・・・さすがに頭がパンクしそうだ。

「芙蓉。一緒にお風呂に入ろう。」

「はい。お供します。」



 翌日、龍希は守番を休んだ。

「族長の許可はもらったから心配いらない。まあダメと言われても休んだけど。芙蓉の怪我が治るまで一緒に居るからな。」

「そんな大げさな。怪我というほどでは・・・」

「まだ血の匂いがする。」

龍希は心配で仕方ない。緑の絆創膏を貼れば血なんてすぐに止まるのに。人族の肌には強すぎるから貼れないとシュシュは言ったらしい。

息子も朝から落ち着きがなく、妻から離れない。

「ん?」この匂いは・・・

龍希が立ち上がると同時に執務室の扉が乱暴に開かれる。

「ちょっと!竜冠に何したのよ!」

珍しく怖い顔をした竜湖が怒鳴り込んできた。後ろに竜紗もいる。

「また急に。竜冠はまだ調子が悪いのですか?」

「目を覚まさないわよ!昨日、何があったの?」

 龍希は昨日の話をした。竜湖だけでなく、竜紗の顔も険しくなる。

「はあ!あんたなんであのバカを止めなかったのよ!龍峰のやつ、なんてことを!竜冠が竜神様の怒りを買っちゃったじゃない。呪われたらどうしてくれるのよ!」竜湖は顔を真っ赤にして怒っている。

「呪いって冗談でもやめてくださいよ。妻の前で。そんなにまずいことだったのですか?」

龍希はわけが分からない。

隣に座る妻は不安そうな顔で首を傾げている。

「巫女が竜神様のお声を聴くことができるのは竜の子に名を授けるためよ。それ以外は許されない。竜冠はまだ14、肉体は未成熟なのよ。衰弱したら・・・ああ!いや!」竜湖は頭を抱える。

「私から詳しくご説明します。お2人には無関係ではありませんから知っておいていただかなくては。」

竜紗は真っ青な顔で説明し始めた。


「竜神様の巫女は成獣前の雌竜しかなれません。必ず一度は巫女として名を授ける仕事をしており、竜冠は龍陽様の時が初仕事でした。

ちなみに私は龍希様の名を竜神様からお聞きしました。あの時は龍希様がお生まれになる数ヶ月前に竜神様からいつ頃神殿で巫女として仕えるようにと突然ご指示があったのです。ですから巫女は事前にお子様が産まれる時期を知るのですが、それを知らせることは許されません。

竜神様の御意思に反します。族長もご存知です。前例がないため竜冠がどんな罰を受けるか分かりませんが、今現在、竜冠は意識が戻りません。もしこのままなら、龍希様のお子様に名を授けられる巫女がいないことに・・・」

竜紗の目から涙が流れた。

「はあ?父上はそんなこと一言も!竜冠だってなんで俺に無理だと言わなかったんだ。」龍希は怒りのあまり机を叩いた。

「落ち着きなさい。竜冠からしたらあんたも龍峰も怖いのよ。それでも竜冠は一度断ったんでしょう?そのときあんたは竜冠の味方にならなきゃいけなかった。

逆にいえば龍峰はそれが嫌だからあんたに何も教えなかったのよ。あんたを連れて行ったのも竜冠に圧力をかけるためでしょうね。」

「そんな馬鹿な!父上が竜冠を、竜神の巫女を危険にさらすはずが・・・」

龍希はまだ信じられない。

「あいつはずっと焦ってた。竜冠以降に子が産まれないことに・・・龍陽と竜縁じゃまだ足りない。あいつは、竜冠よりもお腹の子をとったのよ。」

竜湖の顔がゆがむ。


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