表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第2章 夫婦編
54/726

白猫妻の妊娠

~族長執務室~

「ほんとですか!」龍希は歓喜の声をあげる。

今日は熊族をはじめとする獣人の取引先との宴会で妻子と一緒に本家に来た。

到着するなり、族長の執務室に連れていかれ竜湖から龍栄の妻の妊娠を知らされたのだ。

「ええ。昨夕分かったの。芙蓉ちゃんにいいものを教わったわ。妊娠検査薬なんて人族の発明品はほんとにすごいわ。」

そういえば妻の妊娠が分かった時、そんなものを竜湖に頼んでいたな。

「だから龍栄は今日欠席。来月の朱鳳の代替わりの儀もね。」竜湖はご機嫌だ。

「今度は・・・大丈夫ですよね。」龍希は族長を見る。

族長も険しい顔をしている。

「今のところはね。あ、ただ龍栄がちょっと困っててね。ニャアちゃんが龍陽と同じおくるみを欲しがってるの。刺繍入りの・・・似たものを売ってるところとか知らない?」竜湖は妻を見る。

「あの・・・ご迷惑でなければお作りしましょうか?ふつうは生まれた月の花にするのですが、ご希望であれば龍陽と同じにします。」

「え!ほんとに。たぶん出産は6月よ。花は同じじゃなくていいわ。ありがとう!代金はしっかりふっかけなさい。龍栄はいくらでも支払うわよ。」

「え!いえ、お金をいただくほどのものでは・・・」妻は困った顔をする。

「芙蓉がいいならお祝いの品にしよう。龍陽が産まれたとき、龍栄殿から祝いをもらったから。」

「え!いえ、そんな価値があるものでは・・・」

「ああ、それがいいわ。しっかり恩を売っときなさい。」竜湖は龍希と妻にウィンクする。

 

 扉をノックする音が聞こえ、クースが入ってきた。

「おそろいです。」

「ああ、竜湖行こう。龍希、お前たちは支度が整ったら来なさい。」

「行こう。」龍希は妻の肩を抱いて客間に向かった。



~大広間~

「熊、象、白鳥、鹿か・・・予想どおり。白鳥族は屈辱でしょうね。長男の妻のままなら、朱鳳様たちのように特別扱いだったろうに。」

カラスの族長アヤは紫竜の宴会場を見渡しながら横に座るサヤに呟いた。


先代族長は昨秋にサヤの離婚の責任をとって辞職した。

先代もアヤもサヤの離婚を後悔はしていないが・・・サヤの元夫は早々に再婚し、しかも昨夏に息子が産まれて後継候補の筆頭になったものだから、族長の引責は避けられなかった。

しかしサヤはようやく諦めがついたようでカラス族分家から婿をとり、今はアヤの補佐をしている。


「ねえ、白鳥の族長は雄じゃなかった?」サヤが小声で尋ねる。

「ええ、あれは代理。熊と象族もそう。今日の主賓が雄の参加を許さなかったの。だから私も夫じゃなくてあんたを連れてきた。」

「え、なんで?」

「それだけ妻に執着してるのよ。」

アヤの言葉にサヤは俯いてしまった。



 紫竜の族長が入ってきた。熊族の妻は隣にいない。

『熊族の扱いも相変わらずだし、紫竜にしては珍しくいまだに死んだ熊の娘の件を引きずっているようね。これで枇杷亭が族長になったら・・・孔雀族のように宴会に呼ばれることすらなくなるかもね。』

「主賓が来るまで今しばらくお待ちください。」席に着いた族長が来客たちに告げる。

「鶯亭のご夫婦は?」熊の族長代理が尋ねる。おそらく族長の妻だろう。

「欠席です。妻が懐妊中ですので。」

族長の返事に来客たちの顔色が変わる。

『熊も知らないってことはつい最近ね。さあ今度は生まれるのかしら・・・あまり後継争いが長引くのは取引先としては困るけど。面白くなってきた。』アヤはほくそ笑む。

 カラス族としては鶯亭が後継者になってほしい。隣の白鳥族を見ると白いはずの顔が青ざめている。あちらは枇杷亭推しだろう。公表はされていないが鶯亭との離婚で相当もめたと聞いている。白鳥は関係を改善しようと族長の姪との縁談を紫竜に持ちかけたらしいが、龍算の後妻に選ばれたのは鹿族だった。

 だがどうして白猫族が呼ばれていないのだろう?

人族が呼ばれていない理由は察しが付くが・・・白猫族は紫竜と取引関係を結びたくて鶯亭に嫁入りさせたのではなかったか?

父の言っていたとおり今の族長になってから紫竜の常識が変わってきている・・・柔軟に対応できなければいつ取引を打ち切られてもおかしくない。



『ん?なにこの匂い?』アヤが匂いのする方を向くとようやく主賓がやってきたようだ。

ああ、これが竜の子の匂いというものか。

そしてあれが人族の後妻ね。すごい匂い・・・紫竜の匂いが強すぎて妻自身の匂いは全く分からない。

 宴会が始まったが、サヤは料理にも手をつけず呆然と元夫の方を見ている。

当然だろう。サヤの話とはずいぶん違う。

見ていて恥ずかしくなるほどの溺愛っぷりだ。あれだけ執着されては妻はさぞ苦しかろうが・・・そんな素振りは全く見せない。完璧な作り笑顔だ。あの様子なら枇杷亭の二人目も早いかもしれない。


 象族が立ち上がって紫竜の席に向かう。あれは・・・たしか竜紗だ。

象族に嫁いだ雌竜は、枇杷亭の夫婦に象の族長代理たちを紹介している。どうやら象族は枇杷亭につくようだ。

まあ分からなくもない。息子が産まれたのはやはり大きい。シリュウ香作りの跡継ぎが居なければ話にならない。 

「鹿の次は象?最近まで胎生の妻を避けていたくせに・・・」隣の白鳥が悔しそうに呟く。

『人族は胎生だっけ?鶯亭の妻も胎生だし。まあ当然か。もううちから紫竜の花嫁を出す気はないからどうでもいいけど。』

「サヤ。笑顔を作って食事をとりなさい。今のあんたはカラス族の族長補佐よ。紫竜なんかに気圧されるんじゃないの。」アヤは俯いている妹を叱咤する。

「・・・はい、族長」サヤは笑顔で顔をあげた。補佐官の顔に戻っている。

『連れてきて正解だった。元夫はもうサヤのことを覚えちゃいない。サヤも元夫への憎しみなんて忘れればいい。もう紫竜の花嫁ではないのだから。』



~枇杷亭リュウカの部屋~

「ふう・・・」獣人たちとの宴会の翌日、枇杷亭に戻ってきた芙蓉は大きく息を吐いた。

ようやく宴会ラッシュが終わったらしい。

昨日は獣人がたくさんいて・・・臭いし怖かった。取引先だけでなく、獣人の妻たちも居たのだ。

どの獣人もずっと芙蓉たちの方を見てたし・・・まあ龍陽が主役だから仕方ないけど。

終わってよかった。

 明日からは刺繍に取り掛からなくちゃ。

「芙蓉。」旦那様がリュウカの部屋に入ってきた。

「もう!ノックを覚えてくださいませ。」

「ん?ああ。それより庭に出よう。芙蓉に見せたいものがあるんだ。」

「お庭に?分かりました。龍陽、いきましょう。」

旦那様から庭に誘うなんて珍しい。なんだろう?


 玄関を出て、四阿とは反対の方向に歩いていく。こっちには池があったはずだ。

薄ピンクの花びらが風で飛んできた。

これは・・・

「ええ!」芙蓉は驚きのあまり大声が出た。

桜・・・つぼみが開き始めたソメイヨシノの木が3本、池のそばに生えている。

去年まではなかった。そこには枇杷の木があったはずだ。

「ど、どうして・・・」

「芙蓉が好きなんだろう、この花。去年、木を買ったんだ。枝よりもこっちの方が嬉しいだろう?」旦那様は笑顔で告げる。

去年、確かにお館様からの桜は嬉しかったけど、まさかそれに対抗して・・・嘘でしょう?

桜の存在すら知らなかった旦那様が?

それに枇杷の木を切って、桜を植え替えて・・・穏さんお疲れ様です。

「本当は5本買ったんだけどな。2本はトリがぶつかってダメになってしまった。桜だけは避けろと守番たちに言ったのに。龍灯りゅうとうはぶん殴っておいた。」

「ちょ・・・」

『龍陽を何ヶ月も守ってくれた守番になんてことを・・・龍灯って確かヘビの・・・知ってたら昨日お詫びしたのに、も~』芙蓉は恥ずかしくなってしまった。

「嬉しくなかったか?」旦那様は不安そうな顔になる。

「いえ、桜は嬉しいのですが、何も木を植えなくても。花びんにさした枝でも十分・・・」

「それじゃあ父上と同じじゃないか。夫からのプレゼントは最高のものじゃないと。」

旦那様は不満げだ。

『このままだとまた面倒なことを言い出す・・・』

「ではそのプレゼントを毎日見に来てもいいですか?これから満開になるでしょうから。とっても楽しみです。」芙蓉は笑顔を作る。

「ああ、もちろんだ。見たくなったらいつでも呼んでくれ。」旦那様は笑顔になる。

やっぱり一緒でないと庭に出るのはダメらしい・・・旦那様が出かけてる時に息子とゆっくり見たいな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ