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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第2章 夫婦編
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朱鳳のストール

旦那様が疲れて眠っている龍陽を連れて呼びに来たのは20分近く後だった。

 転変のたびに着せていた服が破れて息子が裸になるのはどうにかならないものか・・・芙蓉は赤子の息子におむつをはかせ、赤紫の服を着せるとおくるみに包んで大広間に戻った。


宴会場はまた和気あいあいとしているようだ。



「そちらが奥様自ら刺繡されたおくるみですか?なんとも美しい鳥と夏の花々ですな。人族の技術は本当に素晴らしい。」


鳳剣が感心したようにおくるみを見てきたけど、


「私は素人ですので、技術というほどでは・・・」


芙蓉は苦笑いする。

勘弁してほしい。



「ふふ。人族は謙遜を美徳としているとお聞きしましたが、その通りなのですね。」

鳳剣は芙蓉に微笑みかける。


「ケンソンってなんだ?」


旦那様は不思議そうだけど、


『旦那様に必要なものですよ・・・』


取引先の前で皮肉を言うわけにはいかない。



「難しい言葉ですが・・・人族の女は褒められたら否定するよう育てられるのです。」


「なんでだ?」


「さあ、私も理由までは・・・」


旦那様は首をひねっている。



「・・・奥様。そちらが黄虎から贈られた小刀ですか。確かにあの族長の匂いがしますな。」


鳳剣は営業スマイルをやめて芙蓉の帯にさした銀の筒を見てきたけど、


『そんなに臭うの?全然分からない・・・』



「あのケチな虎が大盤振る舞いですな。まあ龍希殿の慶事となれば当然ですか・・・ささやかながら我が一族からも奥様に贈り物を。」


鳳剣がそう言うと、竜湖が深紅のストールを芙蓉のところに持ってきた。



「ええ!」

旦那様が驚いてストールを見ている。


「奥様、肩におかけしても?」


「あ・・・はい。」


竜湖が笑顔で芙蓉にストールをかける。



「軽い。それにこれは?」


芙蓉はこんな色の布は見たことがない。



「朱鳳のストールです。昨年の換毛期に採取し、大樹の加護を宿した特別製でございます。」



鳳剣はにこりと笑うけど


『え・・・ってことは朱鳳の毛?』


芙蓉はまた作り笑顔が崩れそうになった。



「紫竜の牙も爪も防ぎます。護身用にお使いください。紫竜は信用なりませんよ。」



鳳剣はじっと芙蓉を見る。


『黄虎と同じこと言ってる。』



「一体どんなお返しをご希望で。」

不機嫌な顔の旦那様が鳳剣を睨む。


「分かっていらっしゃるくせに。黄虎と同じですよ。神獣は4種しかいないのですから。」


鳳剣にも旦那様に微笑むけど、芙蓉は苦笑いしてしまった。



~紫竜本家の客間~

 客間に戻った妻は疲れた様子で、ぐっすり眠っている息子をベビーベッドに寝かせている。


龍希も疲れていた。

朱鳳があそこまで口を出してくるとは予想外だった。

余計なお世話だと言いたいが・・・朱鳳はどこまで察しているのだろうか?

父が族長になった後から急速に竜の子が減った理由を・・・



「旦那様」


妻に呼ばれて龍希は我に返った。


「あ、ああ。どうした?」


「いえ、お疲れのところ申し訳ございません。あの、お風呂に行ってきてもよいですか?」


「・・・。明日の朝にしないか?」


「嫌です。」


妻は即答した。


黄虎の時は快諾してくれたのに・・・まああの後、なぜか龍希の腕の中で妻の機嫌が悪くなったのだが。

風呂に入ると龍希の匂いも妻の匂いも弱くなってしまう。本家では近くにほかの雄も多く泊まっているので龍希はどうにも落ち着かない。

このまま妻に龍希の匂いをつけたいが・・・



「分かった。行こう。」


優先すべきは妻の機嫌だ。



妻の肩を抱いて廊下を歩いているとまた本家の使用人たちの気配を感じる。

ご苦労なことだ。

 今日は龍栄も妻を連れてきている。白猫は宴会場には入らず客間に居たようだが。

先週の龍希たちのことを引き合いに出して本家の使用人たちか熊が龍栄にうるさく言ったのだろう。


だが、龍栄には早く息子が産まれてもらわないと困る。

いつまでも一族が二つに割れているのはよくない。族長になって一族を一つにまとめてもらわなければ・・・



~風呂場~


『あ~でも、娘も必要だ。特に巫女の後任が・・・もう時間がない。』


龍希は湯船につかったまま唸った。

妻にはこんな悩みごとは話せない。


なんで俺がこんなに悩まなきゃいけないんだ?


面倒ごとは父と異母兄に任せておきたいのに・・・



ちらりと隣の妻を見ると、妻は壁から出てくるお湯を見ている。

龍希を気遣ってくれているのか、興味がないのか・・・おそらく後者だろうな。

異母兄も言っていたな。妻の無関心が辛いと・・・



あー水に濡れた黒毛が色っぽいなあ。

だめだ。

妻を見ると一族の面倒事も悩みもどうでもよくなる。



「芙蓉」

お湯の中で太ももをなでると妻は困ったような顔をするが抵抗はしない。


龍希は妻の唇にキスをするとそのまま舌を滑り込ませた。妻の体温が少しだけあがり、舌を動かして龍希を受け入れる。

そのまま太ももの手を滑らせると妻の口から甘いと息が漏れてきた。


妻は龍希に対して敵意も悪意も抱かず、いつだって龍希が求めると受け入れてくれる。

シリュウ香を焚いてなくても最後まで・・・紫竜の花嫁にこれ以上を望むのは贅沢だ。

他竜の妻たちを特に母を見てきた龍希はそう思うべきなのだが・・・


ほんのひとかけらでもいいから龍希にも愛情を向けてほしい。


そう願ってやまない。


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