黄虎
2月のある日の朝、芙蓉は旦那様に連れられ、再び紫竜本家に来ていた。今日はオウコ族との会合と宴会があるらしい。
芙蓉たちは先月と同じ客間に通された。
「俺は昼の会合にも参加しないといけないから、芙蓉は龍陽とこの部屋に居てくれ。終わったらすぐに戻ってくる。何かあれば竜紗か竜湖に言ってくれ。」旦那様は芙蓉の唇にキスすると客間を出て行った。
龍陽のおむつを換えていると竜湖と竜紗が部屋に入ってきた。
「おはよう。芙蓉ちゃん、龍陽。龍希が戻ってくるまで私たちが警護するわ。部屋の外には龍栄たちもいるし、虎どもから守るから安心してね。」竜湖が愛おしそうに龍陽を見る。
「オウコ族は虎の獣人なのですか?取引先とお伺いしたのですが?」
守るとは穏やかではない。
「また龍希は何も説明してないの?ちょうどいいわ。大事な話だからよく聞いてね。」竜湖は真剣な顔になり、黄虎族について教えてくれた。
黄虎族は獣人じゃないわ、紫竜と同じ神獣よ。西にある谷に巣があるの。昔から紫竜とは仲が悪くてね。数百年前までよく戦争をしていたらしいけど、停戦協定を結んでいまは取引先としてまあ、良好とはいかなくてもそこそこの付き合いをしてる。
黄虎も獣人を伴侶にするからシリュウ香を必要としててね。逆にうちは黄虎の小刀と光玉を購入してる。黄虎は主要取引先で、しかも龍希が成獣した時から担当してるから、今回、龍陽のお披露目を最初にすることになったの。黄虎族の本家に行く案も出たんだけど・・・芙蓉ちゃんと龍陽の安全を考えてこちらに呼ぶことにしたのよ。虎どもは喧嘩っ早い獣じみた奴らだから。
特に龍希は奴らに気に入られててね。一昨年、黄虎族本家に取引に行った時には若い奴らに絡まれて雷4~5発落として帰ってきたわ。
芙蓉は真っ青になる。
『取引先の本家で何やってるの?旦那様の方がよっぽど喧嘩っ早いじゃない・・・』
「ん?そんな顔しなくて大丈夫よ。龍希は気に入られてるって言ったでしょう。あいつらは龍希が次期族長になることを望んでる。だから龍希の妻子を見に竜の巣までやってくるのよ。」
「あの、黄虎との結婚話は出なかったのですか?」
「ないわね。虎との結婚は無理。たまに向こうから打診があるけど、無理。」竜湖は見たこともないほど不愉快そうな顔をしている。横の竜紗も同じだ。
「・・・だから私と龍陽が危険なのですか?」
「え?ああ、違うわ。龍希を挑発してまた喧嘩したいのよ。本当に危害を加えたりはしない・・・はずよ。芙蓉ちゃんと龍陽に傷一つでもつければ・・・紫竜と黄虎の全面戦争が始まるもの。」竜湖は途端に真顔になる。
どうやら冗談ではないらしい。
『龍陽はともかく私も?』
「ど、どうしてそんなに仲が悪いのですか?」
「どうしてって・・・嫌いだからとしか言いようがないわね。竜虎の仲って言葉を知らない?」
「はじめて聞きました。私・・・人族にとって神獣は遠い存在ですから。」というより架空の生き物だと思っていた。
「龍希様は一昨年、黄虎族本家に行った帰りに奥様とお会いになったとお聞きしましたが、奥様は黄虎をご存じないですか?」竜紗が口をはさむ。
「え!そうなのですか?」
芙蓉は初耳だ。遊郭があった町は芙蓉の故郷からは遠く離れた場所で土地勘なんてない。
「まあ、黄虎が人族の薬屋と接点を持つことはないでしょうね。」
竜湖の言葉に竜紗は納得したようだ。
『それをいうなら紫竜もですよ・・・』芙蓉は苦笑いしそうになった。
「あの、黄虎が獣人を伴侶とするからシリュウ香が必要ってどういう意味なのですか?」
芙蓉の質問に竜湖と竜紗はぽかんとなる。
「どうって・・・同じ意味よ。芙蓉ちゃんもあれがないと無理でしょ?」
芙蓉は首を傾げる。夜の雰囲気づくりに必要って意味なんだろうけど・・
『獣人には必須なの?』
「・・・獣人は紫竜の匂いも黄虎の匂いも嫌いますから、シリュウ香がないと・・・その子作りができないのです。」竜紗が戸惑った顔のまま説明してくれた。
『そうなの?』芙蓉は驚いた。
「え?なんで驚いてるの?」竜湖と竜紗も驚いている。
「え?まさかあいつ、使ってないってことはないわよね?」
「え、いえ使ってますが・・・まさか私のためだったなんて。あ、だから前にシリュウ香がないからって気にしてたんですね。」
そうだ。雪見宿の時、旦那様も竜湖たちと同じく驚いた顔をしていた。やっとあの時の謎が解けた。
「でもそれなら、紫竜同士、黄虎同士で夫婦にはならないのですか?」芙蓉はもう一つ疑問がわいた。
「私たちも黄虎も同族で結婚はしないわ。子ができないの。」竜湖が答える。
『神獣なのに?』
やはり芙蓉には理解できない生き物だ。
龍陽が泣き始めた。
「どうしたの?お腹すいた?」芙蓉は慌てて寝ていた息子を抱っこする。
「離乳食を用意して参ります。」シュンが客間を出て行った。




