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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第1章 枇杷亭編
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新年会

 1月にしては珍しく晴れた日、芙蓉は新年会のために紫竜本家に来ていた。

新調したピンクのワンピースに赤色のストールを羽織り、ガーネットのイヤリング、腕輪とブローチ、雪光花の髪留めと指輪を身に着けている。

龍陽には青紫色のロンパースを着せ、芙蓉が編んだ毛糸の靴下をはかせている。旦那様はいつもどおりの和装だ。

「芙蓉には着物の方が似合うのに・・・」旦那様は不満そうだ。

「まだ授乳中ですし、着物では龍陽を抱っこしにくいのです・・・」芙蓉は困った顔で答える。

このやり取りも何度目だろうか・・・


 扉をノックする音が聞こえ、族長の犬の執事が入ってきた。確か名前はクースだ。ククの母親らしい。

「お待たせしました。会場にご案内いたします。こちらのお部屋は枇杷亭の奥様専用でございますので、授乳やご休憩にお使いくださいませ。」クースは深々とお辞儀をする。

 旦那様が寝ている龍陽を抱っこする。芙蓉は笑顔を作り、旦那様に並んで大広間に入った・・・のだが、

『え?なんで泣いてるの?』

紫色の髪をした男女が芙蓉たちを見て泣いている。

芙蓉は困惑して旦那様を見るが、旦那様は呆れた顔をしている。

「いつまで龍陽をみて泣いてるんだか。困ったもんだ。」旦那様は独り言のように呟く。


 ようやく席に着くと、今回は龍栄と熊の獣人の間に白猫の獣人が座っている。青い着物を着て頭にはおそろいの色の花飾りをつけている。おそらく龍栄の後妻だろう。

白猫は芙蓉を見ると困った顔をして、後ろに控えているワシの侍女を呼んで何か話している。

『どうしたのかしら?』芙蓉は気になったが顔には出さなかった。


「芙蓉ちゃんとニャアちゃんは初対面だったわね。」隣の竜湖が話しかけてきた。

「はい。お初にお目にかかります。ニャア様は青いお着物がとてもお似合いですね。」

「ふふ。お義姉様だからって畏まらなくて大丈夫よ。妻の序列的には芙蓉ちゃんが上だし。ニャアちゃんも芙蓉ちゃんの服装を気にしてるみたいね。」

「私、変な恰好をしておりますか?」芙蓉は不安になった。やはり着物の方がよかったのだろうか?

「逆よ。芙蓉ちゃんは妻たちのお手本だから。ニャアちゃんが不安になってるのよ。まあダーエがうまく説明するわ。」竜湖はニャアと話しているワシの侍女を見る。

芙蓉は苦笑いした。獣人のお手本なんて勘弁してほしい。


「揃ったな。」族長が入ってきて、龍栄様たちの後ろを通って席に着いた。

「龍陽は寝ておるのか。また一段と大きくなったなあ。」族長は嬉しそうに目を細めて旦那様の腕の中の息子を見る。

「抱っこされます?俺は酒が飲みたいので。」旦那様が族長に話しかける。

芙蓉は呆れてしまった。

『いくら父親だからってその言い方は失礼すぎない。』

族長もなんともいえない表情になっている。

「龍陽が起きたらな・・・いや、でも今日の主役だし、起きたら母親がいいかな・・・う~ん。」族長がおじいちゃんの顔になってしまった。

「じゃあ私が抱っこしますわ。」竜湖が右手を挙げる。

「ん。いや・・・儂の席の方が皆によくみえるだろう。」

族長がそう言うと、旦那様は立ち上がり、族長に息子を渡そうとした。

「妻の了解を取らんか。」族長が眉間にしわをよせて旦那様を見る。

旦那様が芙蓉の方を見たので、芙蓉は頷いた。

族長はまたおじいちゃんの顔になり、嬉しそうに息子を抱っこする。

 旦那様は席に戻ってくるなり、芙蓉の肩に腕を回して抱き寄せると酒を飲み始めた。

『も~』

芙蓉は呆れと恥ずかしさで作り笑顔が崩れそうになった。



「まあ!可愛い~やっと会えた。」竜湖はさっと立ち上がって族長のそばに行き、満面の笑みで息子の顔を覗き込んでいる。

『あれは作り笑顔じゃないなあ。親戚のおばさんみたい』

「龍陽は寝てるんだから、任せとけばいい。食事が来たから食べよう。」旦那様が芙蓉に話しかける。

使用人たちがお盆を運んできた。

芙蓉は息子が気になるが、この後の授乳のためにも食べることにした。

 芙蓉の前に置かれたお盆にはおせち料理、ちらし寿司、甘酒と温かいお茶が載っている。相変わらず毒見役がいるのだろう。どれもおいしい。

『こんな豪華なおせち料理はじめて。』



 竜湖が席に戻ると同時に竜湖の向かいに座っていた紫髪の中年男性が立ち上がって、龍陽のもとに向かう。

中年男は目に涙をためている。

「ふふ、龍海(りゅうかい)ったらまた泣いてる。」竜湖は白ワインを飲みながら愉快そうに中年男を見る。

「芙蓉ちゃん。あのおじさんが龍海、族長の右腕よ。私の隣に居るのが龍賢(りゅうけん)で族長の左腕。いずれは龍希の両腕になる二人だから覚えてあげて。」

「俺じゃなくて次期族長の側近ですよ。」旦那様が不愉快そうに竜湖を睨む。

「あんた、妻の前で弱気なこと言わないの。」

「芙蓉は気にしません。」

「あんたねえ。妻に期待される男になりなさいよ。」竜湖は呆れて旦那様を見る。

芙蓉は言葉に困ってしまった。


「龍希様。若様がお生まれになったのですから、もっと自覚を持ってくださいませ。」


戻ってきた龍海が呆れた顔で旦那様の斜め後ろに座る。

「今日は説教されるようなことはしてないぞ。席に戻れよ。」旦那様が龍海を睨む。

「説教は後日です。今日こそ奥様にご挨拶を。」龍海は芙蓉の方を見る。

「龍海と申します。龍希様のお目付け役をしております。どうぞお見知りおきを。」龍海は笑顔で頭を下げる。

「旦那様をどうぞよろしくお願いいたします。」芙蓉も頭を下げる。


 龍海が立ち上がると同時に龍陽の顔を見ていた龍賢がやってきて同じように芙蓉に挨拶した。その後は紫髪の男女が龍陽の顔を見にくると、芙蓉たちに軽く会釈だけして席に戻っていく。

獣人の妻たちは座ったままだ。それに前回の花見会もそうだが、雄の獣人はいない。



 旦那様は気にせず食事を再開している。

芙蓉も緊張で喉がカラカラだ。甘酒を飲むふりをして舌先でなめる。アルコールは感じない。授乳中の芙蓉に配慮してか麴タイプのようだ。芙蓉は安心して甘酒を飲んだ。優しい甘みの中にほのかに塩味も感じる。

芙蓉がほっこりしていた時だった。

 旦那様が突然、盃を置いて立ち上がった。芙蓉は驚いて顔をあげる。

「り、龍栄殿。どうされました?」

龍栄と白猫が側に来ていた。

「驚かせて申し訳ない。妻が枇杷亭の奥様にご挨拶したいと。」

「でしたら、こ、こちらからご挨拶に参りますのに・・・」

「そんな訳には参りませんよ。」

龍栄は少し困った顔をする。

芙蓉は驚いた。

そういえば旦那様が異母兄と話しているところは初めて見る。こんな礼儀正しい旦那様は初めてかもしれない。

「龍希。座んなさい。序列を守らないと説教受けるのは龍栄よ。今はね。」

竜湖の言葉で旦那様は渋々座ったが、額から汗をかいている。


龍栄は妻を先に座らせて、自分も座った。

「初めまして。人族の芙蓉と申します。」芙蓉は笑顔を作り、座ったまま軽く頭を下げる。

席次に従えば芙蓉が先に挨拶するのが正解だろう。

「龍栄と申します。ご挨拶が遅くなり失礼いたしました。こちらは妻の」営業スマイルを浮かべた紫髪のイケメンはそう言って隣に座る白猫を見る。

「初めまして。白猫族のニャアと申します。」ニャアは笑顔で軽く頭を下げる。


『か、かわいい~』


芙蓉は思わずキュンとなった。

真っ白な毛にピンク色の猫耳と鼻、水色の瞳・・・なんてかわいらしい猫の獣人だろうか。

「お邪魔致しました。」龍栄は先に立ち上がり、ニャアの手を取って立たせると並んで席に戻っていった。

「ふう・・・」旦那様がため息をついた。相当緊張していたようだ。

「もう龍栄相手に緊張しすぎ。龍希派に示しがつかないわよ。」竜湖がニヤニヤしながら旦那様を見ると、旦那様は無言で竜湖を睨む。

「あら怖いこと。さて、私は御手洗に行ってくるわ。」竜湖が席を立つ。

「・・・あの旦那様。私も御手洗に。」

「ん?一緒に行くよ。」

「いえ、龍陽が起きるかもしれませんから見ていてくださいませ。」旦那様は不満そうな顔をしながら、手を挙げて後ろに控える侍女を呼ぶ。

「クク、シュン。妻が休憩室に行くから付き添え。」

「畏まりました。」侍女たちは一礼すると芙蓉の後をついてきた。


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