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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第1章 枇杷亭編
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妻の役割

 芙蓉が若様に連れていかれた休憩室は、8畳はある和室だった。寝そべることもできるほど大きなソファーが置かれている。

「ごめんな。芙蓉。疲れたろう?座ってくれ。」

「え?いえ、学校のテストを思い出しました。楽しかったです。」

「・・・」若様は啞然としている。

「及第点くらいはいただけたのでしょうか?」

「いや、あの竜紗を超えたんだぞ?」

芙蓉は首を傾げる。意味が分からない。

「竜紗は一族一の才女・・・なんだ。3種族の商品を覚えている。」

「・・・もしかして竜湖様は人族の商品テストをなさりたかっただけ・・・なのですか?」

「たぶんな。」

「それは・・・」

なんであんな空気になったのかようやくわかった。やりすぎたのだ。


「ごめんね。芙蓉ちゃん、体調大丈夫?」竜湖がノックもせず入ってくる。後ろにククとシュンが続く。

「竜湖様。申し訳ございません。やりすぎてしまったようで。」

「ん?なんで謝るの?ククとシュンに言われて竜紗にも準備させといて正解だったわ。」

「さすがは奥様でございます。」

上機嫌のククがグラスに入ったリンゴジュースを差し出す。芙蓉は有難く飲んだ。さすがにのどがカラカラだった。

「俺たちはもう帰りますよ。熊がすごい顔で睨んでましたから。」

「ああ、らしいわね。見逃したわ。」竜湖は残念そうな顔をする。

「大変愉快でございました。」ククとシュンは悪い笑みを浮かべている。

「いいの?あんたが帰ったら言いたい放題よ?」

「いまさら俺が気にすると?」

「龍海はまた感動して泣いてたわよ。あんたがあんなに執着してるなら絶対、息子が産まれるって。」

若様は眉間にしわを寄せる。

「帰ります。龍海は次会った時に殴ることにします。」

「残念。まあ芙蓉ちゃんの身体が第一だから。ゆっくり休んでね。今日はありがとう。おかげで私は十二分に役割を果たせたわ。今度お礼に伺うわね。」竜湖は優しい笑顔を芙蓉に向ける。

「二度と来ないで下さい!」若様が竜湖を睨む。

「ダメ?芙蓉ちゃん。」

「また竜湖様にお会いしたいです。ダメですか?若様。」

若様は竜湖を睨んだまま舌打ちした。


 芙蓉は思った以上に疲れていたようだ。帰りの馬車で眠ってしまい、起きたときには枇杷亭の寝室のベッドにいた。

「大丈夫か?芙蓉」若様がベッドに座って心配そうに覗き込む。

「はい。大分すっきりしました。」

『どのくらい寝てたんだろ?お腹すいた・・・』

「ごめんな。」

「?・・・私が参加したいと言ったのですから若様が謝ることでは」

「いや、でもかなり負担をかけて・・・」

「平気です。今日も若様が気遣ってくださいましたし。」

「父上に比べたら俺は全然・・・母上はそれでも全く足りないって・・・」

「お館様は奥様のためにされていたのですか?それともご自身の償いのため?」

「・・・芙蓉は本当に頭がいいな。」若様は悲しそうに笑う。

「私は満足しておりますよ。だいたい若様に酷いことをされていませんし。」

「え・・・いや騙して連れてきたし。」

「それでも、逃げずに若様のおそばに居ることを選んだのは私ですから。」

「いや、でも俺が騙してなかったら・・・」

「私はもう死んでおりますね。あの店で」

若様は黙り込んでしまった。

『めんどくさい人・・・あ、人じゃなかった』

芙蓉はため息をついた。


「命の恩があるのですから、若様が望まれるなら、妻としての仕事をするのは当然のことです。」

「いや、恩って・・・妻を守るのは当然だろう。」

「でしたら私が妻の役目を果たすのも当然ですね。」

 芙蓉の考え方は妾の時と変わらない。命を救われ衣食住に困らない生活をさせてもらっているのだから、それに対する働きはしなければならない。

獣人だろうが神獣だろうが一方的に施しを受ける気はさらさらない。

「・・・そっか。芙蓉は母上とは考え方が違うんだな。」

若様はようやく分かってくれたようだ。

芙蓉は満足そうに微笑むと若様の首に両手を回して唇にキスをした。

「芙蓉。」若様が両手を芙蓉の腰に回して抱きしめる。

「俺は父上みたいな過ちはおかさないから、嫌いにならないでくれ。」芙蓉の耳元でささやく。

「大丈夫ですよ。若様が過ちを犯さないよう見張るのも妻の役目ですから。」芙蓉は若様の目をみながら微笑んだ。

「芙蓉が居れば大丈夫だな。」


二人は抱き合ったまま笑い合った。


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