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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第1章 枇杷亭編
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シュシュ医師の往診?

「奥様。すっかり顔色がよくなられましたね。体重も増えておられます。安心いたしました。」枇杷亭に往診にきたフクロウの獣人は安堵の表情を浮かべる。

「ご心配をおかけしました。シュシュ先生」芙蓉はにこりと微笑む。

「お困りごとはございませんか?」

「大丈夫です。若様はとてもよくしてくださいますし、いつもククとシュンが側にいてくれますから。」

「それはようございました。」芙蓉は今日も終始作り笑顔で診察を終えた。


「奥様、シュシュ医師を見送って参ります。」シュンは一礼してシュシュとリュウカの部屋を出て行った。

「あんなぼんくらにはもったいないです。」シュンのつぶやきにシュシュは笑う。

「そんなこと言わないの。」

「あのククに認められたのですよ。」

「あらまあ。すごい。でも納得だわ。」シュシュはシュンの前ではお世辞は言わない。

枇杷亭の奥様とはまだ2ヶ月ほどの付き合いだが、3日に1回診察に来るシュシュに対する態度は変わらない。おそらく今後も変わらないだろう。

シュシュの本当の役割をわかっているのだ。

だから決して隙を見せない。


『あのカラスとは大違い。』シュシュは前妻を思い出して苦笑いした。

2回目の診察から夫の愚痴三昧だった・・・4年も待ったと騒いでいたが、それが若様に、紫竜一族に何の利益をもたらしたのか?若様への縁談は4年たってもいくつもあった。待ってくれと紫竜から頼んでもいない。それでも待つのはカラスの勝手だがその見返りを夫に求めるのは見当違いだ。

 しかもカラスはおろかにも初夜に大げんかしたのだ。紫竜の雄が雌に執着を示すのに時間がかかるのは常識なのに・・・若様が早々にカラスに見切りをつけたのは当然の結果だった。

あの若様は破天荒だが、側に置くものの選別は一族で一番厳しい。孔雀の奥様とカカの教育の賜物だろう。カカと若様が選んだ枇杷亭の使用人は非常に忠誠心が高い、妻を5ヶ月近くも隠しておくなんてほかの邸宅では絶対に不可能だ。


「さて、私は本家に行くわ。引き続き奥様の側から離れないのよ。」

シュシュはそう言うと翼を広げて飛び立った。



~本家~

「お久しぶりでございます。エイナ様。」

シュシュは熊の獣人に深々とお辞儀をする。


妻を名前で呼ぶことはしないのだが、この熊は【熊の奥様】と呼ばれるのを嫌い、名前で呼ぶよう命じたのでシュシュは従っている。


「遅かったわね。私は2番目なの?」


「はい。今は枇杷亭の奥様を最優先せよとお館様のご命令です。」


「そう。仕方ないわね。新しい奥様のご機嫌はいかがだった。」


「いつもどおり笑顔でいらっしゃいました。」


シュシュの言葉に熊の眉がピクリと動いたがすぐに完ぺきな作り笑顔に戻る。


「そう。お会いするのが楽しみだわ。ククとシュンがついているそうね。」


「はい。枇杷亭の奥様はご実家から侍女をお連れにならないとのことで、お館様と竜湖様がお一人ずつお与えになりました。」


「あの人族だものね。ふふ・・・枇杷亭の若様は一体どうやって口説き落としたのかしら?」


「私にはわかりかねます。」

シュシュは嘘をついた。


婚前交渉など妻たちには知られるわけにはいかない。特にこの熊には絶対に紫竜一族の弱みを見せるわけにはいかないのだ。



「じゃあどうして夫が2回も雷を落としたか知ってる?」

「使用人には知らされておりません。」


「ええ、枇杷亭の若様とは無関係だって言い張るの。右目をこすりながらね。あなたなら分かるでしょう?」


熊はシュシュをじっとみる。


『わかりますよ。族長が嘘をつくときの癖ですね。』


シュシュは心の中で舌打ちする。


「ふふ。エイナ様。難しいご質問ばかりであまりこのフクロウをいじめないでくださいませ。」


「いいじゃない。それがあなたの仕事でしょ。監視役さん」


「私はただの医者ですわ。診察中のことは奥様と私だけの秘密でございます。」


シュシュはいつもどおり笑顔で嘘をつく。

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