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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第1章 枇杷亭編
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妻の侍女

~枇杷亭~

「ただいま。」龍希が帰宅したのは朝日が昇るころだった。

 あの後、本家に雷が落ちたことに驚いた一族が次々と集まり、説教の終わりが見えなくなった。龍栄派はここぞとばかりに龍希を責め立てたが、肝心の龍栄は

「くだらない理由でお祝いに水を差すな。」などと言ってやたらと機嫌がよかった。

『やっぱり大嫌いだ!あの野郎!』

龍栄は龍希と同じことを考えているのだ。面倒な次期族長の座は異母兄弟に押し付けようと。



「お久しぶりでございます。」フクロウの獣人母子が桔梗の部屋の前で待っていた。

母親のシュシュ医師とその娘で同じく医者のシュンだ。

「芙蓉は?」

「まだお休みになっておられます。」シュシュは桔梗の扉を見る。

「体調は良くなったか?」

「私どもが初対面の奥様にどれだけのことができると?こんなことは初めてでございます。普通は嫁入り前から、奥様のご体調管理ができるように勉強するのですよ。」シュシュとシュンは龍希を睨みつける。

「あーそれは悪かった。」

「奥様によれば、つわりという人族の妊娠期の不調なので心配はないとのことです。何事もなければ8月ころのご出産だと。」

「はあ?そんなに先なのか?まだ2月だぞ。」

「ご懐妊は12月頃だろうと。人族の妊娠期間は280日近くもあるそうです・・・」

「は?」龍希は驚いた。そんな長い妊娠は聞いたことがない。

「お前ら十分詳しいじゃないか。」

「全て奥様に教えて頂いたのです。雛の頃から、人族の出産の手伝いをされていたそうで・・・役立たずの私共に一から丁寧に教えてくださいました。それなのに・・・」シュシュとシュンは軽蔑の目で龍希を睨んでいる。

「あーそうだ。シュン。族長がお前を妻の専属医兼侍女にするそうだ。」

「畏まりました。奥様は私がお守りします。こんなに粗末に扱われるなんて!あんまりでございます。」シュンは全身の羽を逆立てて怒る。

「いや・・・そんなつもりじゃ。まさかこんなに早く妊娠すると思わなくて。妻にはちゃんと謝るから。」

こればかりは素直に自分の非を認めるしかない。



「芙蓉、リュウカの部屋に移ってくれ。」

夕方、芙蓉は体調が少しよくなったところで、執務室に呼ばれ、若様からそう言われた。

「リュウカの部屋ですか?」芙蓉は首を傾げる。

「ああ、この部屋の向かいだ。リュウカは紫竜の妻の証だから。」そう言って若様は2つのリュウカを芙蓉に差し出した。

それは孔雀の奥様の巾着袋に入っていたペンダントトップと同じものだった。

「・・・。ありがとうございます。」芙蓉は素直に受け取る・・・しかない。

「あとは指輪だな。明日、朱鳳(しゅほう)の宝石商が来るから一緒に選ぼう。」

「指輪ですか?この間頂いたばかりですが・・・」

「あれは婚約指輪だろ。結婚指輪も必要じゃないか。」

若様はさらりと言ったが、芙蓉は驚いた。

『え?私のことが竜湖にばれた上、妊娠が分かったから仕方なく結婚するんじゃないの?』

雪光花の指輪をもらったのは竜湖に見つかるより前だった。

婚約指輪?え?

若様は一体いつから結婚するつもりだったんだろう?


「芙蓉、どうした?」

「あ、いえ・・・紫竜も結婚指輪をするのですか?」

「妻の風習にも従うのは当然だろう。婚約指輪は妻だけ、結婚指輪は夫婦でつけるんだろう。これはちゃんと調べた。」若様はにこりと微笑む。

芙蓉は思わず苦笑いした。

『こんなにまめな人だとは思わなかった。あ、人じゃないか・・・』



~枇杷亭の寝室~

「若様もう起きましょう。11時ですよ。」腕の中で妻は困った顔をしている。

「んー。もうちょっと。」

夜どおし本家で説教され、やっと帰宅したら昨日はシュンが妻に張り付いてずっと睨んでいたのだ。

妻の侍女は龍希には従わない。しばらくは寝室でしか二人きりになれないだろう。

「芙蓉」右手で顎に触れると妻は少し困った顔をして目を瞑る。

唇を重ね舌を絡めて楽しんでいた時だった。

「ん?」嫌な匂いがした。

「早すぎるだろ・・・」

約束は昼過ぎだったはずだ。

俺にさんざんせっかちだと説教しておきながら。自分のことは棚に上げる・・・それがあの伯母だ。



「はーい。龍希。」竜湖はまた勝手に執務室の前まで来ていた。

不機嫌な顔で寝室から出てきた龍希を見て同行者は怯えて後ずさりしているが、竜湖は気にも留めない。

「約束の時間をお忘れで?」龍希は睨む。

「覚えてるわよ。でもシュンが早く来てって連絡してきたのよ。朝9時に。」

龍希はフクロウを睨む。

「私の奥様を返してください。」シュンは龍希を睨み返した。

「俺のだよ!」

なんとも面倒な侍女をつけられたものだ。



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