龍賢の警告
~族長執務室~
会議後、龍希は落ち込んでいた。
妻があんな虎どもを頼るなんて!龍希はもう何年もそばに居るのに・・・妻は戸籍を燃やしたいことどころか故郷の場所すら教えてくれなかった。
なんで?
「ううう~」龍希はショックで涙が出てきた。
「族長、しっかりして下さい。執務室といえども泣かないで下さい。」龍賢が叱責するが、龍希はしばらく立ち直れない。
「なんでだよ~妻のお願いなら俺はなんでも叶えるのに~
なんでよりにもよってあんな虎どもに!?ううう」
「そう思われるなら、奥様の担当を竜湖から変えなさいませ。」
「え?」
龍賢の提案に龍希は驚いた。
「いや、しかし竜湖殿以上にあの奥様を相手にできる女はおりませんよ。」龍海も困惑している。
「竜湖は族長の奥様から過剰なまでに警戒されています。それに、族長が竜湖に頭が上がらないことも奥様は気づいているのでしょう。
あと・・・竜湖は族長の奥様をコントロールすることにやや、いやかなり固執している様です。竜音の教育の弊害ですな。竜夢もそうですが。
今回のことは、竜湖が過剰なほど情報を制限していることに奥様が不満を持ち、そこを黄虎につけこまれたのが原因だと思います。」
「・・・」
龍賢の言うことに龍希は心当たりがあった。
「しかし、竜湖殿以外で奥様と渡り合える女など・・・」
「奥様に対抗しようとする女はおそらく相性が悪い。竜冠がいいと思います。奥様をコントロールしようとはしませんので。
それに今後は奥様にもう少し情報を与えるべきですよ。でないとまた黄虎につけこまれます。
正直、私は憤っております。ココが龍栄様の元妻だとの情報を奥様に隠す必要なんてなかったでしょう!
それにココの間者に殺されかけた理由も奥様に知らせてなかったなど!信じられません!」
「いや、竜湖がそうしろって。
それに、あの竜湖が交代に応じるか?」龍希は困った。
「龍希様は竜湖を奥様の担当のままにされたいのですか?あれほどの殺気を出していましたのに」
「う・・・まぁな。なんで竜湖はあんなに怒ってたんだ?」
「亡竜音の弊害ですよ。妻を騙し、弱みを握って脅して従わせるのが女の仕事だと教えこまれているのです。
ですが、族長の奥様にはそのもくろみがバレています。」
「騙し、脅しって・・・俺の妻が何したっていうんだ?
なんでそんな?」
「女たちは知能の高い奥様を警戒しております。それに、龍希様の縁談をコントロールできなかったことも竜湖はずっと不満なのでしょう。」
「え?何を今さら」龍希は呆れた。
「竜湖はあなた様を溺愛してますから。」
「ええ・・・だからってなんで妻を?」
「女の嫉妬は恐ろしいですよ。奥様を守るためにも竜湖を引き離すべきです。」
龍賢は真剣だが、
「いや、でも・・・竜冠じゃあさすがに・・・」
「龍峰殿はそう言って竜音を妻のそばに置き続けている間に、離婚させられたのですよ!」
「え?」龍希だけでなく龍海も驚いている。
「な、何の話ですか?龍賢殿」
「私の妻と熊の奥様は親しかったですから。あの熊が離婚を望んで実家に戻ったはずがありません。竜音が騙すか脅すかして巣から追い出したに違いありません。」
「え?いや、あり得ませんよ!龍峰様と熊の奥様との縁談は竜音様が進められたものだったはずです。」
「ええ。ですが、孔雀の奥様との縁談を進めたのも竜音です。竜音は龍峰殿を族長にすることに異常なまでに固執していました。」
「え!?いや、あれは龍峰様の父親が・・・」
「父親は妻を変えろと言っていただけです。文句を言うしか能のない奴でした。
孔雀の奥様と再婚させたのは竜音ですよ。竜音は再婚が決まった時に誰よりも喜んでいました。
龍峰殿のことを一番理解しているのは自分だとかぬかして!
とんでもない。龍峰殿も熊の奥様も離婚なんて望んでなかった。その結果があれです。娘の竜帆様も龍栄様も不幸にして・・孔雀の奥様にも大迷惑をかけて、取引先や妻たちの信頼を失って・・・」
「ええ・・・」
龍希と龍海は顔を見合わせた。
「竜湖は、俺と芙蓉を別れさせるつもりなのか?」
「いえ、龍峰殿の時とは違い、離婚させる理由がないと思います。ただ竜湖が奥様を騙し、脅して服従させようとしていることに奥様は気づいておられます。
それなのに夫で族長のあなたがそれを放置しているとなると・・・愛想尽かされても仕方な・・・」
バン
乱暴に扉が開いて、黒猫執事のポートが駆け込んできた。
「ぞ、族長!り、龍陽様が!」
「え?な、なんだ?」
「り、龍陽様が突然、竜湖様を攻撃されて・・・」
「は、はあ!?」
龍希は慌ててリュウカの部屋に向かった。龍海と龍賢もついてくる。
~リュウカの部屋~
「龍陽!」
龍希が部屋に駆け込むと、真っ青な顔をした妻が膝をついて龍陽を宥めていた。その反対側・・・壁のそばには竜湖が寝かされているが・・・右半身が血だらけだ。シュンが治療している。龍海が駆けよっていった。
「何してんだ!龍陽!」龍希は怒りのあまり息子に掴みかかろうとした。
息子の両手からは竜湖の血の匂いがする。
「ま、待って下さい、あなた!この子は私を守ろうとしただけなのです!」
妻が悲鳴をあげて息子を庇う。
「は?」
「あいつはママにさっ気出した。ママおびえてた。」
息子はそう言って龍希を睨む。
「な・・・バカな。伯母様がそんなミス・・・」
龍希は信じられない。
さっきの会議では竜湖は殺気をおさえていた。
それに妻の前で殺気を出すなんてそんなへまをするはずがない。
「パパはママよりあいつなんだね。」
「な、何をいうんだ!」
「龍陽、パパと喧嘩しないで!」妻が息子を宥めるが・・・息子は龍希と竜湖に殺気を向けている。
「なんで俺に?俺が芙蓉を傷つける訳ないだろ!」龍希は息子を怒鳴りつける。
「あいつをママのそばにおいたのはパパでしょ!ママはあいつのことがきらいなのに!ママにいじわるばっかり!」
「龍陽、止めて!パパはいじわるなんてしないわ。」妻は見たこともないほど狼狽えている。
それが妻の本音を物語っていた。
「あなた!この子は悪くないのです!
私のせいで!折檻なら私が!この子には止めてください。」妻はそう龍希に訴えかけながらぼろぼろ泣き始めたので、龍希はまたショックを受けた。
折檻?大切な妻にも子どもにもそんなことしないのに。したこともない。
なのに、なぜだろう?妻は龍希を見て本気で怯えている。
妻が泣いている姿を見て息子の殺気が一層強くなる。
「・・・分かった!
竜湖は二度と芙蓉に近づけない。だから落ち着け、龍陽。
芙蓉、大切な君と息子に折檻なんてしないよ。君も落ち着け。どうしてそんなに怯えてるんだ?」
龍希がそう言うと、息子は驚いたような顔になる。
「ほんとに?」
「俺が嘘をついてると思うか?お前ももう悪意を感じとれるだろう?」
息子の殺気がおさまった。
「・・・ママ、ごめんなさい。」
息子は妻に向き直ってそう言うと、妻にしがみついて泣き始めた。




