結婚報告
「どうした?龍希」
族長は驚いていた。
アポもなく会いに来るなんてはじめてのことだ。
『それに昨日会ったばかりだというのに・・・一体何があったんだ?』
龍希は何ともばつの悪い顔をしている。久々に見た。これは・・・
悪さがばれたときの顔だ。
一緒にきた竜湖はニヤニヤしている。
「今度は何をした?」
族長は渋い顔で尋ねる。
昔から龍希の悪さには手を焼いてきたのだ。
「いえ・・・あの・・・再婚しました。」
「は?」
予想外の言葉に族長は一瞬ぽかんとした後、喜びを爆発させた。
「そうなのか!?どこの娘だ?」
「取引先ではありません。人族です。」
「人族?一体どこで?・・・あ、お前!もしや使用人に?」
「違います。結納金を支払って妻として連れてきました。」
「ん?じゃあなんで?って、もう枇杷亭に居るのか?」
「はい。」
「いつの間に?また事後報告か?」
龍希は黙った。
どうやら悪さはこのことらしい。
族長はため息をついた。
「いつだ?」
「・・・10月です。」
「は?」
族長は一瞬呆けた後、今度は激怒した。
「何をしとるんだ!お前は!」
怒りのあまり族長は雷を落とした。紫竜本家上空に凄まじい雷鳴が響く。
「10月だと!なんで隠してた?」
「1月に龍栄殿に子どもが産まれたら報告しようと・・・あとリュウカがなかったので」
「ならば1月に結婚すればよかろう?」
龍希は目を逸らして黙る。
「なんで10月に妻を連れて帰った?」
「・・・ご想像のとおりです。」
「自分の言葉で言え!」
「手を付けました。」
2度目の雷鳴が響いた。先ほどよりも大きい。
「お前!それだけは絶対にダメだと言っただろう!紫竜の信頼を失墜させるつもりか?」
紫竜の雄は手を付けた雌を巣に連れて帰る習性がある。
雌からすれば誘拐だ。誘拐婚の一族などと噂が立てば、ますます嫁が見つからなくなる。
どたどたと足音が聞こえ、真っ青な顔をした龍海ら4~5人が走ってきた。
「お館様!龍希様!何事ですか?本家に雷を2回も落とされるなど!」
皆かなり狼狽えている。
「龍海。よかったわね。龍希が再婚したわよ。しかも妻は懐妊したわ。」
竜湖がにっこりと笑う。
「は?」
龍海は一瞬ぽかんとした後、龍希を見た。
「ま、まことですか?龍希様。」
龍海は感動のあまり泣き出している。
「ならば・・・お館様の雷は何事ですか?」
龍緑が恐る恐る尋ねる。
「再婚の事後報告と婚前交渉に怒って一発ずつ。」
竜湖が答える。
「はあ!?ちょっ・・・龍希様」
さすがの龍海も顔を歪めた。
「ほら!もう抑えなさい。いまの一族にはこれ以上ない吉報なんだから。」
竜湖が龍峰をなだめる。
「だから怒ってるんですよ!姉さん、なんで教えてくれなかったんですか?」
龍峰は竜湖を睨んだ。
「龍希がリュウカがなくて困ってるって言ったでしょ・・・なんで分かんないのよ。」
「あの時には知ってたんですか!?なのに龍希と一緒になって隠してたなんて!」
「だってあんたより龍希の方が怖いんだもん。あ、龍栄も共犯よ。」
竜湖はしれっと答える。
「龍栄殿は無関係です!」
龍希が叫ぶ。
「そうそう、妻の侍女にシュンをあげてください。あと、私のとこからも一人譲ります。」
竜湖の提案に、龍峰は一呼吸おいて族長の顔に戻った。
「シュンは医者だぞ。」
族長は眉をひそめる。
「これから超特急で人族の医療を勉強してもらうには妻の側が一番です。それに・・・龍希の妻は全然紫竜のことを知らないみたいだから。」
竜湖の言葉に族長は龍希を睨んだ。
「お待ちください!まさかシュンを専属医になさるおつもりですか?
その上、竜湖様の侍女まで!?
いくら何でも与えすぎです!龍栄様の奥様には本家の侍女1人だけでしたのに。」
龍賢が反対した。
「本家の侍女1人で結構です!」
龍希は慌てた。
『龍栄の妻以上のものを与えられようものなら龍栄派が黙っていない。面倒ごとはごめんだ。』
「龍栄、どう思う?」
族長が尋ねる。
龍栄はいつの間にかこの場に駆けつけていた。
「竜湖様のご意見に賛成します。龍希殿の奥様ですから。」
龍栄は嫌な笑みを浮かべて答えたので、龍希は思わず龍栄を睨みつけた。
龍栄派の龍賢たちは驚いた顔で龍栄を見ている。
「はい!決まり。」
竜湖は両手をパンと叩く。
「さあ、龍海、龍賢。たっぷり龍希にお説教してあげて。族長、主要取引先に報告する準備をいたしましょう。」
竜湖は勝手に取り仕切る。
「はあ?俺はもう妻のところに帰りますよ!」
「逃がしませんよ!あなた様はなんでもう・・・」
龍海と龍賢が立ちふさがる。
「私の説教とどっちがいいの?」
竜湖がニヤリと笑う。
「う・・・」
龍希は観念してその場に座った。




