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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第6章 望郷編
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妻が泣く理由

~族長執務室~

「龍緑、すまんな。」龍希は仏頂面して向かいに座る龍緑に酒を注ぎながら詫びる。

「俺の妻は4ヶ月後には出産なんですよ!分かってます?」龍緑は、まあ当然ながらキレている。


 一昨日、白鳥領で妻の幼なじみとかいう人族の男が話しかけてきてから妻は元気がないので、夜、ベットの上で二人きりになってから、


芙蓉が望むならあの人族を始末するよ


と言ったらなぜか妻に泣きながら拒否された。

理由を聞いても一切教えてくれず、龍希がおろおろしていると妻の泣き声を聞いて起きてきた龍陽に怒られた。


俺はいじめてねぇよ!

妻を元気づけようとしたのになんで?


なのに、翌日泣き腫らした妻の顔を見た侍女たちにも執事たちにも怒られた。

昨夕、本家に帰ってきてからも妻は落ち込んだままで・・・途方にくれた龍希は三輪を呼ぶことにしたのだが、

まあ、龍緑は怒っている。



「で?今度は何をして奥様を泣かせたんですか?」

「俺は泣かせてねぇよ!なんで妻が泣いてんのか分かんねぇから三輪を呼んだんだ!」

「何があったんですか?旅行先で」

「え?えーと・・・」


妻の幼なじみの人族がいたとは言いたくない。妻とのなれそめは一族の誰にも知られる訳にはいかないのだ・・・


「俺には聞く権利がありますよね!」

激怒した龍緑はこええ。

というか妻のためとはいえさすがに罪悪感がハンパない。

自分の妻が妊娠中なら、例え一族の妻が死にかけてたって妻を巣からは出したくない。


「だ、誰にも言うなよ。・・・」

龍希は観念して、白鳥の祭りでの出来事を龍緑に話した。


「それは龍希様が悪いですね。なーんで奥様に愛想つかされないんですか?」龍緑は呆れた顔でそう言うが、

「は?なんで?俺なんかした?」

「奥様が幼なじみの人族に会ったから元気がなくなったとか言ってますけど、人族の雄が声かけてきて龍希様は怒ったんじゃないですか?」

「え?そりゃ、まぁ・・・お前だって不愉快だろう?」

「不愉快でも妻の前では顔にも言葉にも出しませんよ。妻を怖がらせたくないですから。」

「う・・・」

「その上、その人族を殺そうか?なんて言われたら・・・そりゃ恐ろしくて泣きますよ。龍希様は特に怖いんですよ!一族の男ですら怯えてるんですよ!」

「・・・」龍希はぐうの音も出ない。

「俺が怒ったから、妻は怯えて泣いてんのか?」

「俺はそうだと思いますけど。それとも、その人族が何か奥様を泣かせるような言動をしたのですか?」

「いや・・・悪意は感じなかった。」

「全く!龍陽様だって分かってるのに、あなた様はもう!」


「どうしたら妻は元気になってくれるかな?」

龍希は頭を抱えた。

「奥様のことは龍陽様たちに任せて、龍希様はしばらく奥様の視界から消えたらどうです。」

「ひどくね!?」

「でも泣いてる女の相手なんてできないでしょう?」

「う・・・そ、そうだけど・・・お前はどうしてんだ?」

「え?俺は妻を泣かせたことなんてないですけど、妻が落ち込んでる時は空気になります。俺が構っても妻は疲れるだけなので。」

「・・・自分の言葉に傷ついてね?」

「うるさいですよ!」

「俺は自分の力で妻を慰めたいんだよ~」

「・・・あんまりこんなこと言いたくないですけど、龍希様のお母様は夫のおかげで元気になったことありました?」

「・・・」


「俺たちはしょせん妻に嫌われる生き物ですよ。妻たちは賢いから露骨に言動に出してないだけです。

勘違いしてはいけません。

俺たちは妻に嫌われてるんです。」



「ううう・・・」族長は机に突っ伏して泣きだした。

龍緑は、泣いている族長に呆れながら酒を飲み始めた。

 かなりいい酒だ。さすがの龍希様も悪いとは思っているらしい。

族長命令だろうが、妊娠中の妻を巣から連れ出すなんて冗談じゃない!

族長の奥様には、つわりで何も食べられなかった妻を助けてもらった大恩があるから今回は仕方なくだ。

あと、元気になった妻も外出したがってたし。

決して、外出できなくて不機嫌な妻の顔に耐えきれなくなった訳じゃない・・・



 と、扉をノックして父と龍景が入ってきた。

「失礼し・・・え!?龍希様どうされました?」父は泣いている龍希様を見て驚いている。

「奥様を泣かせて反省中です。」

「ええ!?またですか?今度は何をなさったのです?」

「う~うるせえ。それより何の用だ?」

族長はやっと顔をあげた。

「あ、はい!カラスの妹が産んだワシの雛をゴリラに売った人族たちの捜索の件です。ゴリラ領近くの人族町を使用人たちに探させましたが、ワシの匂いがする人族は見つかりませんでした。聞き込みしようとしたのですが、町の人族たちは皆、使用人たちに怯えて話ができないそうです。」父は悔しそうに報告する。

「カラス族からは何か連絡ないか?」

「いえ、続報はございません。」

「くそ!手詰まりか!」族長も悔しそうだ。


「そういえば、なんでゴリラはワシの雛なんて買ったんですかね?」


龍景の質問に族長と父は顔を見合わせた。

「確かにそうだな。奴隷にするならワシの雛より成獣を買うだろうし・・・うちのように雛の頃から使用人教育をするためか?」族長はそう言うが、

「いえ、ゴリラ族本家ならともかく、一介のゴリラ商人がそんな教育はしないかと。」父はそう言って否定した。


「よし!龍景、ワシの雛を買ったゴリラ商人に接触してこい!」


族長の命令に龍景は困惑した顔になる。

「え?接触って何をすればいいんですか?」

「使用人にするためにワシの雛を買いたいってゴリラ商人に接触したら、ゴリラはまた人族から調達するかもしれないだろ。」

「あ!なるほど!龍希様すげえ!」

「カラス族の話では、ゴリラ商人はワシの雛を売った人族たちとは面識がないとのことでしたが、それが嘘かもしれないと言うことですか?」父が族長に尋ねる。

「ああ、カラスはともかくゴリラは信用ならねぇ。龍灯の元妻ゴリラの件もあるしな。」

「龍灯様の?ああ、そういえば。確か、龍希様が、奥様に手を出そうとしたゴリラたちを雪光花の山で殺したら、そのことを逆恨みしたゴリラ遺族たちが龍灯様を人族の睡眠薬で殺そうとしたんでしたね。」龍緑は思い出した。

「え?なら、龍灯様がご担当される方がいいのでは?」龍景はそう言ったが、

「いや、龍灯はもうゴリラ元妻のことは忘れてるし、マムシ元妻の時も今の妻の手前関わらねぇと言ってたんだ。だから龍景、お前に任せた。」

「畏まりました。族長」


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