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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第6章 望郷編
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幼なじみ

「え!?」

白鳥の水神通りでフルーツ飴の出店をしている(かん)は驚いた。

 昨年に続いて白鳥領の水神祭りに出店して3日目、なんと人間の客が来た。それも・・・まだ小学校に上がるか上がらないかくらいの幼女だ。


 いやいや!なんでこんなとこに人の子がいるんだ!?

それも1人で?親はなにやってんだ!?

まさか迷子か?こんなとこで、こんな幼い女の子が、それもなんか身なりがいいな・・・獣人に拐われたらどうすんだ!


寒は驚きと心配で開いた口が塞がらない。

「お、お嬢ちゃん、親は?なんでこんなところに?」

「う?ママ、パパあっちー。おまつり、みにきたの。」女の子はそう言って往来を指差すが、獣人が多くて人間の親の姿は見えない。

「ええ!?」

「イチゴほしい」のんきな女の子は寒が売っているイチゴ飴を指差す。

「え?あ、400円だよ。」


「りゅうきーん」


小学校低学年くらいの男の子がやってきた。幼女と同じく高そうな赤紫の浴衣を着ている。

「あ!にいに!おかね!」女の子が男の子の方を見て声をかける。

「え?またイチゴ?お兄さん、これいくら?」

「え?400円だよ。」

「はーい。」男の子は首から下げた小さな財布を開けて小銭を取り出している。


 ええ!?こんな幼い兄妹だけで?親は何やってんだ?

人間の町の祭りじゃねぇぞ!

てかリュウキンって娘の名前にしては変わってんなぁ。どんな字書くんだろう・・・っていやそれどころじゃねぇ!


寒はパニックだ。

「はい、お兄さん」男の子は100円玉4枚を手のひらに乗せて寒に差し出してきた。

「え?あ、ああ。」

「イチゴもらったら、ママのとこもどるよ。おまえ、はしりすぎ!」男の子は困った顔で妹を叱る。

「ママはどこにいるんだい?」寒は男の子に尋ねた。

「え?あっち。」男の子はそう言って女の子と同じ方を指差したが、やはり行き交う獣人しか見えない。


ってなんだ?なんか獣人たちがこっちを避けて歩いてね?

ってうわ!ヒョウの獣人が立ち止まってこっち見てんだけどなんで?

ここにはフルーツ飴しかねぇぞ。


「ねえ!イチゴまだ?」女の子の不満そうな声で寒は我にかえった。

「あ、ああ。ごめんよ。ほら!」寒は慌てて、棒にさしたイチゴ飴を手にとると、女の子に渡すためにしゃがんだ。

「わーい。ありがとう!」イチゴ飴を受け取った女の子は笑顔になってお礼を言うが・・・


あれ?

この子どこかで・・・


こんな身なりのいい、変な名前の幼女に見覚えがあるはずないのだが・・・寒が気のせいだと思って立ち上がろうとした時、ふいに故郷の光景がよみがえってきた。

 雪の降り積もった町の中を近所の幼なじみの女の子と一緒に小学校に通った。

寒の祖母が風邪をひいた時は、その子が薬を持ってきてくれた。お礼にと売れ残りの饅頭を渡したら笑顔でありがとうと・・・そうだ!


「ふ、芙蓉?」

幼なじみの子どもの頃の顔にそっくりだ!


「え?」目の前の女の子は不思議そうな顔になって首をかしげる。

「あ!いや!」寒は我にかえって慌てた。

他人のそら似に決まってる。


「なんでママのなまえしってるの?」


「え?」

寒は驚いて男の子を見る。

「え?まじで芙蓉の子ども?薬屋の?」

「くすりや?パパはし・・・」


「リュウヨウ!リュウキン!」

男の声がして、幼い兄妹は声のした方を向いて笑顔になる。

「ママ!イチゴかった~」女の子がそう言って走っていく先には・・・

高級そうな紫の浴衣を着た商人風の男が、右手で2~3歳くらいの男の子を抱き、反対の手で妻と思われる女の肩を抱いて歩いてきた。


20代後半くらいの若い夫婦だ。

寒は思わずその男の妻の顔をまじまじと見た。


幼なじみは下級商人の薬屋の娘だった。

こんな高級そうな浴衣や宝石のついたかんざしをつけた姿なんて見たことがない。

というか中学校を卒業してから会ってない・・・

だけど、


「あら?イチゴ飴ね。リュウキンはイチゴが好きねぇ。」そう言って女の子に優しく微笑みかける顔には、どこか見覚えがある気がした。


幼なじみの年齢からすれば、とっくに結婚して子どもが3人いてもおかしくない。

下級商人の娘でも、中級商人に嫁いだり、何かの縁で上級商人の側室や妾になることもあるらしい。

ここ数年のめまぐるしい情勢の変化で、下級商人が上級商人並の稼ぎになった例も聞いたことがあるから、ありえない話じゃない。



「ママ~あのリンゴほしい」

「いいですよね。あなた。」

「ああ、リュウヨウ、一人で買い物できるか?」

「できる!」

そう言って男の子・・・芙蓉の息子が店の前に戻ってきた。

「このリンゴほしい。」

「あ・・・500円だよ。」

「はい。」

「ああ・・・まいど。」

寒は男の子におつりの500円とリンゴ飴を手渡した。

「ありがとう~お兄さん」

「あら?・・・人間のお店?」男の子のそばにやってきた妻の方が驚いていた顔で寒を見る。

『近くで見ると・・・やっぱり!』


「ふ、芙蓉だよな?薬屋の。俺のこと覚えてるか?

和菓子屋さくらの次男坊の(かん)だよ。」


寒は思わず声をかけた。

故郷を離れて10数年、全く知り合いのいない環境で働いてきた寒にとって、幼なじみとの予期せぬ再会は嬉しくて仕方ない。

だが、幼なじみの方は驚きと困惑の表情になった。

「え?寒?あの和菓子屋の・・・」


「誰だお前?俺の妻に気安く話しかけんな!」芙蓉の肩を抱いている夫の方がそう言って寒を睨んできた。


え!?こわ!!


「え?あ、すみません。怪しい者じゃないです。奥様とは幼なじみで。久々に会ったのでつい。すみません。」

寒は慌てた。


そりゃ、いきなり知らない男が妻に話しかけたら怒るか。

上級商人に目をつけられては堪らない。


「は?幼なじみ?」夫は怪訝な顔で芙蓉を見るが、

どうしたのだろう?

芙蓉は青い顔になって下を向いている。

「行くぞ」夫はなぜかもう一度寒を睨むと、芙蓉を連れて足早に離れていった。

2人の子どもたちは不思議そうな顔で付いていった。


え?なんで?

俺そんなに悪いことした?


寒は1人途方にくれた。


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