龍栄復活
6月の終わり、龍希が妻子と一緒に竜縁の誕生月の祝いをした夜、なんと竜縁より先に竜琴の鱗が生え代わった。
龍陽に比べれば鱗の色は薄めだが、大切な愛娘の成長の証だ。
翌日、早速1枚110万円で売り出したところ、黄虎と朱鳳から80枚ずつ注文があり、龍希は複雑な心境になった。
こいつらが雌竜の鱗を大量買いするのは・・・将来嫁に欲しいという意思表示だ。
竜湖たちは大喜びしている。黄虎はともかく朱鳳との縁談復活は龍希だって望んでいることではあるが・・・俺の娘じゃなくてもよくね!?
てかまだ5歳だぞ!
そりゃ朱鳳に嫁ぐのは族長筋との暗黙の了解があるけど!けど!
龍希が執務室でふて腐れているところに、涙目の竜湖がノックもせずに駆け込んできた。
「龍栄がやっと部屋から出てきたわ!」
「!」
~一族滞在スペース 龍栄の客間~
「龍栄殿!」
「族長、長らくご迷惑をおかけしました。娘が大変お世話になったそうで・・・誠にありがとうございます。」龍栄はまだ元気がないが、言葉ははっきりしているし、もう目は病んでいない。大泣きしている竜縁を両手でしっかり抱いている。
「父様~やっと起きてきてくれた!うわーん」
「ごめんな、竜縁。寂しい思いをさせた。」
「私毎日話しかけてたんだよ!なのに返事もしてくれなくて!わーん」
「ごめんな。竜縁の声は聞こえていたよ。なのに声が出なくて、身体も動かなくて。ごめんな。」龍栄は泣きながら娘を慰めている。
異母兄が正気に戻ったことを確認して、龍希も安堵していた。
『竜縁も良かったな。俺たちの前では気丈に振る舞っていたけど、やっぱり父親が恋しかったよな。』
龍希は姪の心情を思って目頭が熱くなった。
「龍栄殿、新しい巣が見つかるまではこのまま本家の客間で過ごして下さい。竜縁、今日から龍栄殿と同じ客間に移るか?」
竜縁には特別に族長居住スペースの1室を与えていたが、さすがに雄を、それも妻の居ない龍栄を居住スペースに入れる訳にはいかない。
本音をいえば龍栄の匂いのついた竜縁を龍希の妻の近くに住まわせることもかなり葛藤があったのだ。
「竜縁、早く新しい巣を見つけるよ。それまでは客間で一緒に・・・」
「え?嫌です。」
即答した竜縁に龍栄だけでなく龍希も目が点になった。
「え?竜縁?」
「父様が起きたのは嬉しいですけど、私はもう1人で平気です。竜琴だって族長と部屋も寝室も別なんですよ!父様が起きたから一族滞在スペースに移りますが、客間は別にしてください。あ、隣も嫌です。」
さっきまで大泣きしていたのに・・・照れ隠しか?
いや、竜縁の目はマジだ。
龍栄は今度は別の意味で泣き始めてしまった。
「・・・」
めんどくさくなる前に龍希はそそくさと退散した。
~族長執務室~
翌日、半泣きの龍栄と、めんどくさそうな顔をした竜夢がやって来た。
竜縁は結局・・・龍栄の2つ隣の客間に引っ越した。
食事は龍栄の客間で一緒にとったらしいが、同じ部屋で寝ることは断固拒否だったらしい。
「族長~どうしたら娘に機嫌を直してもらえますか?」龍栄は席につくなり机に突っ伏して泣き始めた。
めんどくせぇ。
「別に竜縁は怒ってないわよ。あんたの復活を心から喜んでるわ。ただ、あんたが正気を失っている間に完全に親離れしただけ。娘の成長を喜びなさいな。」
竜夢はそう言って呆れた顔で龍栄の頭をポンポンと叩く。
「そんな!?まだ、まだ鱗だってまだなのに!」
「猫族と鳥族は鱗の生え代わり前に親離れするものなの。族長も6歳で親離れしたのよ。あんただって4歳ころに龍峰様が再婚したから、親と離れて1人部屋になったでしょう?」
「俺は再婚してません!」
「竜縁から早く巣を見つけて再婚してって言われたんでしょう?とっとと子離れして跡継ぎをまた作ってって。」
「いや!娘にそう言わせたんでしょう!俺は嫌ですよ!娘との時間を取り戻したいし、大切にしたい!」龍栄はそう言って、珍しく竜夢を睨んでいるが、
「私はそんなこと頼んでないわ。竜縁の本音よ。」
「・・・」
竜夢は嘘をついてない。残念ながら・・・
龍栄はショックを受けた顔になり、また机に突っ伏して泣き出した。
「り、龍栄殿、元気出して下さい。泣いてても何も解決しません。」
「うう・・・そうですけど・・・」
龍希は龍栄に同情しているが、
「早く再婚して娘作ってください。」
「は?」龍栄は驚いた顔で龍希を見る。
「俺の娘が黄虎だけでなく朱鳳にまで狙われてるんで、早く族長筋の娘増やして下さい。」
「・・・」
すげえ顔で睨まれた。
「ほら、龍栄。族長命令よ。とっとと新しい巣を買って、再婚なさい。今度は猫と鳥以外の妻にしましょうね。狼か狐はどう?」竜夢はもう縁談の準備を始めているようだ。
と、扉をノックして竜湖が入ってきた。
「竜湖伯母様!この冷血漢たちに一言言ってやって下さい!起きたばかりの俺に酷すぎるんですけど!」龍栄はそう竜湖に訴えかけるが、
「え?何?あんたたちま~た龍栄を苛めてるの?
よしよし、龍栄、早く本家を出て再婚しましょうね。
龍河の巣なんてどう?」
「・・・」
久々に見たなぁ。異母兄の全てを諦めた顔
「龍ガって誰でしたっけ?」少しだけ良心が痛んだが、龍希は竜湖に向き直って尋ねる。
「龍雲の父親よ。クソヤロウだったけど、後継候補だっただけあって、巣は立派だし、立地も本家から馬車で10分よ。龍栄の新居として申し分ないわ。あいつが死んでから使われてないから改修工事は必要だけど。」
「てことは龍雲から買い取りになりますね。」
「ううん。先代が龍雲から買い取って一族所有になってるから、族長から龍栄に売る形になりますわ。」
「え?なんで?」
「龍雲にとってはあのクソヤロウを嫌でも思い出す場所だからって、あいつが死んで速攻で売り出したんだけど、誰も嫌がって買わなくてね。同情した先代が買い取ったのよ。」
「・・・どんだけ嫌われてたんですか?」龍希は呆れた。
「もうあんたも族長も覚えてないでしょう?若い連中は皆忘れてるから、巣を再利用してもいい頃よ。」竜湖はそう言って龍栄の肩に手を置いたが、
「・・・」龍栄は拗ねた顔になってそっぽを向く。
「竜縁は、あんたが龍河の巣の下見に行くなら、一緒の馬車に乗るって。」
「ほ、ほんとに!?」龍栄は嬉しそうな顔になって立ち上がった。
「ええ。もう出かける準備をしてるわよ。あんたも顔洗って準備なさい。娘を待たしちゃダメよ。」竜湖がそう言うと、龍栄は嬉しそうな顔のまま執務室を出ていった。
「じゃあよろしくね。」
「まかせて。」竜夢はそう返事して龍栄の後を追って行った。




