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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第6章 望郷編
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つわり

~熊族長レイラの寝室~

「う・・・」

「レイラ様!お目覚めに」

これは侍女の声だ。

レイラはベッドから身体を起こした。

頭がガンガンする。

「何日寝てた?」

「深夜前に紫竜からお戻りになって4日目の昼でございます。昨晩まで高熱でうなされておいででした。まだご無理なさらないでくださいませ。」


「最悪。」


レイラは侍女が差し出した冷たい蜂蜜水を飲みなから呟いた。

『何日も寝込んでたなんて、反族長派の熊たちは大喜びして、私を責めてくるに違いない。』


レイラがお風呂に入って着替えを済ませて私室に戻ると、補佐官たちが待っていた。

「族長、もうご体調はよろしいのですか?」皆心配そうな顔をしている。

「ええ、もうすっかり元気よ。何日も迷惑をかけたわね。」レイラは笑顔を作る。

「とんでもございません。あの紫竜族長の怒気を何時間も・・・ああ、ご無事でようございました。さすがはレイラ様でございます。」一番若い補佐官はそう言って涙ぐんでいるが、

「なんで知ってるの?」

レイラは驚いた。熊族本家に戻った時にはフラフラで私室に入るなり倒れたことをうすぼんやりと覚えている。

「お戻りになった翌日に紫竜族長からお詫びの品が届きました。カバ族長のせいとはいえ、何時間もレイラ様を怒気に晒してしまい申し訳なかったなんて言って!一介の熊なら死んでいるところです!」補佐官たちは激怒しているが、レイラは驚いた。


何時間は盛りすぎでしょ!?


紫竜族長が怒気を出したのはあの数分限りだった。もっとも頭を冷やして帰ってきた後もずっと恐ろしい顔をしてたから、生きた心地がしなかったが・・・悔しいが私が寝込むのを見越して・・・また借りができた!くそ!

 

「私は熊族長よ。紫竜の前では醜態なんて意地でも晒さないわ。カバ族長が何度も無様に気絶したから時間がかかって仕方なかった。」レイラはそう言って作り笑顔を見せる。


虚勢を張ることも大事な仕事だ。補佐官たちは皆、優秀ゆえ隙を見せれば取って代わられる危険がある。



「あ!それより、カバと鹿よ!紫竜にこれ以上遅れをとるわけにはいかないわ!」レイラは補佐官たちに紫竜本家の出来事をかいつまんで説明する。

「・・・というわけよ。おそらく紫竜は、カバと絶縁して鹿族とは交流を再開するはずよ。」レイラは言い終わって蜂蜜水を飲む。


「し、信じられません。」


補佐官たちは呆然としている。

そうだろう。カバ族長の話には何一つ証拠がない。だが、レイラは信じている。なぜなら、

「あの紫竜たちが嘘じゃないと判断したのよ。間違いないわ。奴らの悪意センサーほど信頼できるものはない。」

「し、紫竜たちがレイラ様に嘘をついた可能性は?」若い補佐官が尋ねる。

「ないわ。あの紫竜族長も龍海もそんな小物みたいな手は使わない。」レイラは断言した。

「紫竜から正式発表があったら、すぐに動くわよ!カバに代わる取引先を探しなさい!あと、鹿族への使者と人族町の捜索隊も!

それと、カリナの結婚もいつまで続くか怪しいわ。紫竜との次の縁談も考えなきゃ!」

補佐官たちはすぐに動いた。


レイラにやることは沢山あるが、まずはカリナ兄の捕獲だ。

紫竜相手に悪さをするなんて!

早く捕獲しないと!

これ以上、紫竜のトラブルに熊族が巻き込まれるのは御免よ!

 ついでに鹿族の向こうで拡大してきた人族町で商売を始めるチャンスだ。鹿族との絶縁で熊族にも少なからぬ損害が出たのだ。取り戻したい。あの人族町、水連町で!



~睡蓮亭 リュウカの部屋~

「う~」

5月のある日、浅い眠りから覚めた三輪は小さく呻いた。

もう夕暮れだ。

今日もべッドからろくに起き上がれなかった。


 3月にやっと妊娠が分かった時には嬉しかった。前の結婚では子どもがまだできないのかと夫と義母に責められてた。

今の夫はそんなこと言わないけど、結婚してから毎晩熱心すぎて・・・これはこれでプレッシャー半端なかった!

夫はそんなつもりないんだろうけど・・・


 でも日に日につわりが酷くなってきて、せっかく4月には龍風様の誕生会に誘って頂いたのに、行けなかったなぁ。

吐き気と頭痛と身体のだるさでとても外出できそうになかった。

噂には聞いてたけど、つわりってこんなに苦しいの!?



扉が開いてクーラが入ってきた。

「奥様!お目覚めですか!何かお持ちいたしましょうか?」

「・・・冷たい飲み物がほしいかな。」

「はい!すぐに」クーラはすぐに出ていった。


 お腹の子のためにもちゃんと食べなきゃいけないのに・・・頭では分かってても身体が受け付けない。食べ物を前にしただけで気持ち悪くて、無理に食べてもすぐに吐いてしまうのだ。飲み物ですら本当はほしくないけど、脱水状態にならないようなんとか飲んでいる。


「大丈夫だよ・・・ね。」

母は姉たち、兄、三輪を産んだが、その間、2回流産したらしい。長姉は、最初の結婚では子が生まれず4年目に離婚し、次の結婚では生まれた子が2歳で病死した後、流産したし、次姉は死産と流産が一回ずつ。

母や姉妹に流産経験があると、流産しやすいっていう人もいたけど・・・三輪は不安で仕方ない。

 龍風様がお腹にいた時、奥様は毎日起きて、2人の子育てまでされていたのに・・・私はろくにベッドから出ることもできないなんて。情けなくて涙が出てくる。


「三輪、起きた?大丈夫かい?」夫が心配そうな顔で入ってきた。

「ごめんなさい。私がこんなだから、ご迷惑を。」

三輪の体調が悪いから夫は外出もできないと睡蓮亭の侍女たちが噂していた。

「え?迷惑なんて何もないよ!むしろすまない。妻が苦しんでるのに何もできなくて・・・何か欲しいものはないかい?遠慮なんていらないから」

夫は今日も優しい。だからこそ三輪は申し訳なくて、自分が情けなくて苦しい。

「大丈夫です。つわりで死ぬことはありませんから。一時的なものですし」三輪は無理矢理笑顔を作ったのだが、

「・・・俺には龍希様ほどの甲斐性はないけど、何にもできないと妻に諦められるのは・・・ツラいな」

夫は泣きそうな顔になる。

「え?そ、そんなこと・・・」三輪は焦った。

「欲しいものが何もないって訳じゃないでしょ?」

「えっと・・・違うの。甲斐性とかじゃなくて・・・あなたは何も悪くなくて・・・私が食べたい物はもう存在しないの・・・」三輪は言いながら涙が出てきた。

「どういうこと?」


妻の言葉に龍緑は頭を抱えた。


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