族長選定 前編
~紫竜本家 大広間~
3日前、龍墨が転変した。
今日は次期族長を決める一族会議だが、その前に大事な議題がある。
早速、竜紗が立ち上がって報告を始めた。
「前回もご報告しましたが、アナコンダ事件のワシをシマヘビ領で発見して捕らえました。その後、アナコンダ族の了解を得てうちで尋問しましたが、ワシによれば龍光様の妻の実家の依頼でうちの本家に毒入りの小瓶を配達したそうです。ワシはアナコンダにこき使われるのに嫌気がさしていてシマヘビ実家の莫大な報酬につられたと。」
「な、なんでそんなことを?それも守番の真っ最中に!龍光様のお子様だって危険じゃないか!」
「シマヘビの実家は白状しましたわ。本家の守番が減れば龍風様を殺せると踏んだようですが、本家からスミレ亭に物資が配達されていることは知らなかったようで。龍賢様と龍光様がスミレ亭で小瓶を飲んで倒れたのを間者から聞いてワシとトラブルになったそうです。」
「なんにせよ龍光の妻が主犯ですよね?」
「り、龍希、落ち着いて。シマヘビの実家は妻の関与は否定してるわ。龍風が産まれたことを妻が知ってからは、龍光がシマヘビ実家と連絡を取ることを禁じてたから、妻が指示したことじゃないはず。ね、だからその顔やめて!」竜湖はあわてて龍希をなだめるが、
「そんなわけないでしょう!俺に息子が産まれたらワシを使って殺すよう予め頼んでおけば済む話だ。あいつは俺の妻の妊娠を知らなかった時にも堕胎材を飲ませようとしたじゃないですか!」
「あ、違うわ。実家によれば、龍光の妻は予め芙蓉ちゃんの妊娠を知ってたそうよ。実家が黄虎から情報を買って妻に知らせてたって。」
「はあ!?あの虎ども!じゃあ尚更、シマヘビ妻は黒でしょう!一族もろともぶち殺してやる!」
「龍希、座れ。竜紗の報告を最後まで聞け!」族長に一喝されて龍希は歯軋りしながら座った。
「実は・・・シマヘビ実家が取引を持ちかけてきました。龍光様の妻はあの白鳥・・・ココに依頼して二度、龍希様の妻を襲わせたと。妻からココへの依頼書を実家が仲介して渡したと言うのです。
それで・・・龍光様の妻の処分をうちに委ね、かつココとの連絡手段を教えるから、シマヘビ実家の命は許してほしいと言うのです。」
「は、はあ?」あまりの衝撃に龍希は大きな声が出た。
「白鳥が龍希様の妻を襲った?二度も?そんなことありましたか?」
「一つは茶猫事件と思われます。ココが本家にいる奥様に接触する術はありませんから、間者を使ったのでしょう。もう一件は・・・竜湖様の説を採用するならアホウドリ事件ですかね。」
「な、そんなバカな・・・」あまりのことに皆、絶句している。
「なんで白鳥が?元妻にはなんのメリットも・・・」
「龍光様の妻からの莫大な報酬が目的か、うちへの嫌がらせが目的か、その両方かもしれません。なんにせよ、その、あの白鳥を放置しておくのは危険です。シマヘビよりもその・・・」竜紗は口ごもりながら龍希をちらちらと見る。
「まさかシマヘビを助命しろと?」龍希は竜紗を睨んだ。
「ひ!い、いえ・・・私はそんなつもりでは・・・ご、ご報告です。」竜紗は龍希の顔を見て震え上がった。
「り、龍希様、竜紗が怯えております。視線を外してやって下さいませ。」龍海が慌てて寄ってきて、龍希の肩に手を置いた。
「シマヘビに白鳥のことを吐かせた後、白鳥もろとも殺せば済む話だろ?」龍希は竜紗から視線を外して自分の膝を睨む。
「そうなればシマヘビが本当のことを白状する保証はないわよ。ココとの連絡手段を確認できなきゃ、龍光の妻を断罪しようにも物証がないわ。」竜湖の言葉に龍希は唇を噛んだ。
「・・・分かりました。シマヘビ実家との取引に賛成します。」龍希は怒りと悔しさを無理矢理押さえ込んだ。
「反対意見はあるか?」族長はそう言って皆を見るが、誰も発言しない。
「決まりだな。竜紗、会議後すぐに動け!必ず白鳥を捕らえるぞ!」族長も怒りと悔しさを押さえ込んでいるのが分かる。
「は!」
「も、もし、龍光様の奥様が本当にその・・・白鳥と繋がっていたら・・・いえ、万一の、仮の話ですが、妻をどうされるのです?」竜色が恐る恐る龍光に尋ねる。
「・・・妻を信じたいですが・・・もしもの時は、いや、でも私は、さすがに、自分の手では・・・」憔悴した顔の龍光は両手で顔を覆った。
「若様たちは?母と離れても大丈夫かどうか・・・特に龍墨様はまだ転変されたばかりで・・・」龍光の2人の息子の守番である竜色は真っ青な顔で訴える。
「竜の子たちに悪影響を与える訳にはいかんからな。龍光の妻の処分時期と方法は追って考えねばならんが、それは次の族長に任せる。さあ、今日の本題に入るぞ。」族長はそう言って、パンと両手を叩いた。
「龍希と龍光の2人目の息子はどちらが先に産まれたのか分からんので同時と考えるしかない。既存のルールでは族長後継が決まらぬ。だが、これ以上代替わりを先延ばしにはできない。取引先からの問合せがひっきりなしだ。今日、この会議で次の族長を決めなければならぬ。どうやって決めるか知恵を出せ。」族長はそう言って会場を見渡した。
「はい!産まれたのが同時なら転変順で考えるべきでしょう。今のルールでも、2人目の息子が先に産まれても転変前に亡くなればその父は族長になれませんから。」
竜湖の提案はまあ予想通りだ。龍海たちバカどもも頷いているが、今すぐ殴りたい。
「今回はお二人とも転変しています。竜湖様の提案は今のルールが転変順ではなく産まれた順になっていることと矛盾します!」竜色が反対する。
「矛盾しないわよ。同時に産まれた場合のみ転変順って提案してるの。」竜湖は即座に言い返す。
「そんな便宜的な決め方では納得できないものの方が多いですよ!年齢や素行の良さ、ついでに頭と品の良さなど族長としての適性を見るべきです!」竜色も引かない。
「年齢なら若い方が望ましいでしょう。龍光様はもう40、対して龍希様はまだ20代です。黄虎も朱鳳も現族長は若いのですし。」
「さすがに若すぎて舐められる!」
「舐められる?龍希様ですよ。龍光様はあの黄虎の巣で1人喧嘩できます?」
「う・・・いや、族長がそんなことをする方がまずいでしょう!」
「何を言う!黄虎に怖じ気づくようでは族長など務まりませんよ。特にあの女族長は龍希様を気に入っていますから、龍光様が族長になれば何をしてくるか・・・」
「はあ?黄虎なんかに忖度する気か?」
「あの、取引先の意見は無視できないのでは?黄虎だけでなく朱鳳、藍亀も龍希様を支持しているようですし・・・」龍景が余計なことを言い始めた。
「知るか!あいつらがうちの後継問題に口出すようなら俺が黙らせる!」
「ええ!?なんで龍希様が怒るんですか?」龍景は困惑している。
「取引先との友好関係の維持も族長の大切な仕事です。龍希様にように常に喧嘩腰では・・・」
「大丈夫よ。龍峰よりまし。」竜湖はむかつく笑顔で親指を立ててやがる。今すぐ折りたい。
にしても、収拾がつかなくなってきた・・・
龍希はうんざりしながら目の前の酒を飲んだ。




