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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第4章 世代交代編
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神獣たちの贈り物

 10月、龍緑は睡蓮亭に妻を迎えた。

何年も結婚を渋ってた割に、腹をくくったら早かったな。

 なぜか引取料は龍景に渡すというので、俺は龍景好みのブランデーを用意して龍緑に預けたけど、

龍緑には何のメリットもなくね?

あいつはやっぱりよく分からん。

まあいいや。妻のお願いは叶えられたし。

にしても侍女を補充しないとな。



 それから10日もしないうちに龍灯に娘が産まれた。冬の予定と聞いていたから驚いたが、龍風の転変後でよかった。

守番は竜杏(りゅうあん)、巫女は竜縁だ。

竜縁はこれで何人目だ?大忙しだが、俺の娘は・・・まだ巫女は難しそうだ。

 龍灯の娘は竜理(りゅうり)というそうだ。象族の赤子はやっぱりでかいな。

 守番は2ヶ所になったが、龍光の息子の転変はそろそろかな?



~イチョウ亭~

 11月のある日、龍希は午前の守番として龍灯のイチョウ亭に来ていた。もう1人の守番は龍景だ。

「龍希様!龍灯様!聞いてくださいよー」

龍景は珍しく不機嫌だ。

「カバがうるさいのなんのって。こっちは庭に池作って、リュウカの部屋も整えてるのに、玄関やら廊下やら風呂にまで口を出してくる始末で!やってられませんよ!」

「そりゃまた大変だねえ。」龍灯は苦笑いしている。

「どこもこんなにうるさいんですか?」

「さあな。俺は婆やと侍女に任せてたし。苦労した記憶がない。」龍希は肩をすくめる。

「うちはリュウカの部屋を広げる工事はしたけど、後は別に。まあ象族はうちとの縁談に慣れてるし、竜紗が上手く立ち回ってくれたのかな。」龍灯も肩をすくめている。

「あー!やっぱり龍緑に一杯食わされた気がする。」

「まあまあ。確かに龍緑は準備早かったね。屋敷を工事したとも聞いてないな。」

「ああ、うちの侍女たちに聞いてサクサク準備してたな。龍緑の妻も結婚の経験があるから準備が早かったし。」

「あいつが10月にとっとと妻を迎えたせいで、俺も年内にはって急かされてるんですよ~」龍景は頭を抱えているが、

「いいじゃねぇか。カバの追加注文のせいにして先延ばしにすりゃあ。最後の自由時間だぞ。」

「あ!なるほど!さっすが龍希様!」

「こらこら!来年1月からカバとの取引が始まるからそれまでに妻を迎えておく必要があるのです。変なことを教えないで下さい。龍景、あんまり屋敷の改修で散財するなよ。成獣したばかりだから限界があると断ればいいんだ。結婚してからも毎日のように要望がくるからな。」


「ええ!?父なんて母にプレゼントしたくてもなかなか受け取ってくれないって悩んでましたよ。」

「あ~狼族の奥様は特別だよ。俺たちは妻の無茶なお願いに日々、頭を抱えてんだぞ。」

「ええ!龍希様もですか?」

「ん?妻のお願いは大歓迎だ。困ったことなんてないな。」

「うわ!こっわ~!」

「龍希様、怖いです。」

龍景も龍灯もなぜかドン引きしている。

「なにがだよ?」

「だって黄虎の小刀に朱鳳のストールに、藍亀の指輪に・・・恐ろしくて金額を聞く気にもならないです。」龍景は青い顔でそう言うが、

「ん?3つとも贈り物だ。俺は買ってない。」

「は?なんで?あの3種族がですか?」

「ああ、どれも結婚祝いと龍陽の転変祝いに贈ってきたんだ。」

「・・・さすが次期族長殿」

「ちげえよ!」龍希は龍景を睨んだ。

「いや、だって龍光様にはないですよね?」

「龍栄様には朱鳳と藍亀から結婚祝いとお子様たちの転変祝いがあったと伺ったけど、龍光様からは聞いてないね。」龍灯が答えた。

「それがどうした?」

「・・・龍希様、もう観念しましょう。」龍灯は呆れた顔で龍希の肩を叩いた。



~スミレ亭~

「くそ!くそ!」クシャナはリュウカの部屋で1人とぐろをまいて悪態をついていた。

 結局、実家もシマヘビ族も何もしてくれなかった!

あの人族の息子は先月転変したらしい。

次期族長はどうなるのだろうか?

龍光に聞いても息子が転変したら一族会議で決めるとしか言わない。


 これで龍光が族長になれなければ・・・一体何のために結婚したのか分からない。

なのに龍光は何とも頼りない。夏前にはトリがきているのに何日も寝込んでいたし、あの時は本当に肝が冷えた。2人目の息子が死んだらすべてパーだというのに・・・


 ああ!いやだ!今の族長も復帰したらしいし、あいつは自分の息子を後継に推すに決まってる。

現に、今も族長補佐のためとか言って息子一家を本家に留め置いているらしい。

だから龍光も本家に行くように言ったのに!

息子の安全第一とかぬかして!

「あ~最悪!」クシャナの嘆きは止まらない。



~熊族 族長夫婦の私室~

「話が違うじゃないか!俺を騙したな!」熊の族長は妻のレイナを怒鳴り付けた。

妻は青い顔で俯いているだけでなにも言わない。


 昨年、紫竜族長の妻だったレイナの姉エイナが亡くなったのだが、なんとすべての遺産を紫竜の息子に相続させるとの遺言を残していたのだ。

レイナ姉妹の実家は熊族でも屈指の大商家だ。その家で熊族長の妻であるレイナ以上に権力を持っていたエイナの遺産には、莫大な金銭だけでなく熊族領内にある別荘と先代族長夫婦がエイナに贈った熊族の至宝の一つである腕輪があった。

熊族領内の土地建物と至宝は、親子であっても夫婦であっても他族には渡せないものだ。だから当然、エイナが死ねば熊族に還ってくると思っていたのに・・・

紫竜から遺言書を見せられた時には絶句した。

 とても信じられず、遺言書を預かって半年以上熊族で鑑定したが、筆跡も手形もエイナのものだった。

金銭はともかくどうしてエイナの実家や実妹にこの2つを遺さなかったのか?一族は皆不思議がっている。


 何にせよこの2つだけは他族に、それも紫竜なんかに持たせておくわけにはいかない。頭を抱えていたら、妻がエイナの息子から買い取ってくるから任せてほしいと言ったのが今春のことだ。

だが、夏を過ぎて秋になっても妻から続報がないのでたまりかねて尋ねたら・・・

 エイナの息子は2つの遺産を熊族に売却することには同意したもののとんでもない値段をつけてきたというのだ。しかも夏にはそう回答が来ていたのに妻は隠していたらしい。

その上、エイナの息子から今年中に熊族が買い取らないなら、他族に売り出すと言われたらしいのだが、もう11月だぞ!


「鶯亭とは仲良くしてきたから楽に買い戻せると言ったではないか!だから任せたのだ!なのに!どういうことだ?それになんで隠してた?」族長は妻を怒鳴る。

「そう思っていたのですが・・・鶯亭は無茶な金額を提示してきて・・・とても信じられなくて。なんでか私も分からないの。」

「だったらなんですぐに俺に報告しなかった?」

「だって怒ると思って・・・」

「はあ?」

「来年になって他族に売られたらどうするつもりだったのだ?我が一族が支払えず余所に売ったなどど広まれば大恥だぞ!」

「そんな・・・さすがに他族に売るなんてことは。脅しでしょう?」

このバカは・・・何も分かっていない。族長は怒りのあまり妻の肩を掴んで身体を床に叩きつけた。

「痛い!また暴力!やめて!」


 こんなバカに任せたのが間違いだった!

鶯亭は迷いなく他族に売るだろう。熊族を目の敵にしている種族は多い。そいつらに買われようものなら・・・責任を問われて族長だけでなく子どもたちの首まで飛びかねない。

 ああ、なんでこんなバカが妻なんだ!結婚前のお遊びのつもりだったのに!

族長の妻として何一つ不満はなかった元婚約者は、紫竜からの縁談を聞くと俺を捨ててそちらを選び、あろうことかこんなバカ妹を押し付けてきやがった!

俺は婚約破棄なんて絶対に嫌だったのに!エイナの両親はおろか先代族長夫婦まで俺がバカ妹と結婚したがっているなんてエイナの嘘を信じて・・・俺1人が悪者にされた。

俺が何をしたっていうんだ?

妾にする価値すらなかったバカを娶らされた上、死んでなおこの嫌がらせ!

 鶯亭の言い値で買い取るしかないが、この件もまた俺のせいにされる。額が額だけに今回は辞任に追い込まれるかもしれない。それに・・・このタイミングでのカリナと龍海との縁談だ、カリナの兄を後継者にとの声が大きくなるに決まってる。

「なんでだよ!」熊の族長は頭を抱えた。

 

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