龍峰復活
8月、上の息子の5歳の誕生月を祝うころにようやく龍風が雷気を食べるようになった。
「ふふ、龍風はのんびりやさんね。きっと賢い男になるわ。」妻は焦っていないようだから、龍希も気にしないことにした。
そして9月に入ってすぐ龍風は転変した。
妻が側にいたのに、上の子たちが転変して飛びまわっている姿を龍希の腕の中でじっと見ていたと思ったら、突然、空中の子竜が1匹増えたのだ。
これには龍希も妻も驚いた。
龍陽と同じくらい鱗の色が濃い。この子も力が強そうだ。
それにこれで息子の命が脅かされる心配もほぼなくなったし、龍灯が転変前の竜の子を本家に連れてくる必要もなくなった。
あとは・・・龍光の息子の転変を待って、あいつに族長の座を押し付けるだけだ!
~大広間~
久々の一族会議だ。
龍光と守番の竜色、龍韻、龍雲は欠席だ。
それよりも族長の席にやっと父上が帰ってきた!
まさか正気に戻るまで一年以上かかるなんて・・・族長代行をやってて分かったが、龍希には向いてない。面倒ごとばっかりで、こんな頭脳労働はやっぱり龍栄や龍光がすべきだ。龍希は指示されて動く方が楽だし向いている。
「皆、長らく心配をかけたな。」族長の声には元気がなく、相当老け込んだように見える。
「儂が不在でも、龍希を筆頭に皆でよくやってくれていたと聞いている。龍光の次男が転変して次の族長が決まるまでわずかな間だが、ここに座っていることにする。」
「今夜は龍風の転変祝いだが、会議は長くなりそうだ。随分と・・・トラブルの連続だったそうだな。」族長が竜湖を見ると、竜湖は立ち上がって報告を始めた。
「まず、昨年の事件から。熊の妻を殺害した犯獣人は不明なままです。ただ、龍希の妻の暗殺未遂と状況がそっくりなため、同一犯の可能性が高いかと思います。あの茶猫がココの間者なら、龍栄の母親を殺害しても不思議ではないですし。」
「それだと熊の殺害にもワニが関与してるってこと?」
「それはなんとも。ただスイスイと熊の妻は仲がよかったし、熊族とワニ族のトラブルも聞いてないわ。」
「茶猫がココの間者というのは確定ですか?」
「う~ん。証拠は芙蓉ちゃんの話だけなのよね。ただ、それ以外の話はすべて裏が取れたから信用していいと私は思ってる。芙蓉ちゃんがココについて嘘をつく理由も思いつかないし。」
竜湖の言葉に頷くものは多い。
「それから時系列が前後しちゃったけど、昨夏、アホウドリが龍希の妻を毒殺しようとし、さらに妻の毒見役を殺そうとした件は、ワニ族の毒が使われていたことが分かりました。アホウドリはワニの間者若しくは茶猫の仲間の可能性が高いです。」
「ワニが奥様を襲った動機は・・・人族との戦争ですか?」
「ええ。スイスイは、人族との戦争にうちが介入しないのは龍希の妻のせいだなんてうそぶいてるらしいわ。ただ・・・この翌月に龍希の妻の懐妊が分かったから、それを動機にする別の黒幕の可能性もある。」
「別の・・・シマヘビ族ですか?」
「そう。昨年10月の龍光の妻による堕胎未遂、同月末には枇杷亭のコックが白猫の眠りガスで意識不明、妻の毒見役は毒キノコで死にかけて・・・極めつけが今年1月の茶猫による暗殺未遂。明らかにこの一連の事件は芙蓉ちゃんとお腹にいた龍風が標的となってる。」
「シマヘビを疑うのなら・・・白猫族にも同じ動機があるのでは?」龍景はとんでもないことを言い出したが、
「ないわ!」竜湖と竜夢が同時に断言した。
「え?なんで?」龍景は面食らっている。
「白猫族にはこんな大胆なことする理由もなければ、ワニ族から毒を仕入れる伝手もないわ。大体、白猫族が本気で次期族長妻の地位を狙ってるなら花嫁のすり替えなんてしないわよ!」
「あ・・・まあ、確かに。いや、でも野心もなく龍栄様に嫁がせるはずが・・・」
「白猫との縁談は熊族の差し金よ。白猫に野心がないことを見越して、龍栄が族長になったら熊族が白猫族を操って干渉してくるつもりだったのよ。まあ花嫁のすり替えで全部パーになったけど。」
「熊族がこの件に関与している可能性はいかがです?」今度は龍緑が質問する。
「低いです。熊の奥様死亡後に派手な真似をするほど熊はバカではありません。まして、今の熊族長夫婦は慎重派ですから、毒殺や襲撃なんてしないと思います。」これには竜夢が答えた。
「龍希の妻は・・・大変だったな。無事に出産できたからよかったが・・・こんな」族長はあっけにとられている。
「ええ、いくら何でも多すぎます。過去にも妻の暗殺未遂はありましたが・・・妻の実家や人族の報復を心配する必要がないからでしょうね。」竜夢はそう言って龍希と竜湖を睨んだ。
「私たちがすべきことは失敗から学んで再犯防止策を練ることよ。どの種族の妻だって最初はそうだったんだから。」竜湖は肩をすくめる。
「・・・人族と取引関係になることはないのですから、そんな手間をかける必要なんてないでしょう。」竜夢はまた怒っている。
「ま~たその話。龍希と同じことする奴が今後出てこない保証はないわよ。それに芙蓉ちゃんほど貢献をしてくれる妻は他に居ないのよ。人族の妻を増やす価値はあるわ。」
「竜夢、諦めろ。」族長は苦笑いでなだめている。
龍緑の件を知った時の竜夢の激怒っぷりはすごかった。
だが、竜夢が怒る相手は龍希でも竜湖でもなく、龍緑だろう。
俺たちは龍景に押し付ける予定だったのに・・・
龍緑は何考えてんだ?
当の龍緑はどこ吹く風だ。守番の竜夢の説教を聞く気もないようだ。
龍海や龍範からも文句を言ってくるかと思ったが、何もなかったな。特に龍海は息子の妻が元使用人だって知ってるのに。このまま結婚しないよりはましだってことか?
「あ、あの・・・アナコンダの件のご報告をしても・・・よろしいですか?」竜紗が恐る恐る立ち上がった。
「ああ、頼む。」族長が頷くと竜夢は悔しそうな顔で座った。
「例のワシが見つかったそうです!龍希様の予想したとおりの場所で」
「やっぱりか!」
「ワシの身柄についてはアナコンダと協議のうえ、こちらで引き取り尋問する予定です。次回の会議までには尋問結果をご報告できるかと。」
「頼んだぞ、竜紗。」




