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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第4章 世代交代編
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カバの縁談

~紫竜本家 応接室~


「竜湖様、お待たせしました。」


龍緑は龍景と一緒に竜湖に呼ばれて本家に来た。


「はーい。2人ともご苦労様。さ、座って。」

なにやらご機嫌な竜湖は白ワインを飲みながら、向いの2つの席をすすめる。


「失礼します。」


龍緑が先に座り、龍景は続いて座ると目の前にある2つのワイングラスに白ワインをついで、1つを龍緑の前に置いた。


「ありがとう。」

龍緑は先に一口白ワインを飲んだ。



『かなりいい酒だな。嫌な予感がする。』



隣でワインに口をつけた龍景は背筋を伸ばしている。


「ふふ、そんなに緊張しないでよ。いいニュースよ。カバ族との取引が復活することになったの。」


「え!?」

龍緑と龍景は驚いて同時に叫んでしまった。


「すごいでしょー。なんと83年ぶり。」


竜湖はご機嫌でワインを飲み干して、おかわりをしている。


「どうしてまた?確かかつて喧嘩して絶縁したと。」


「ええ。なんか離婚したカバの妻がよりを戻したいとか要求してきて、うちが後妻がいるからって拒否したらカバが全取引を打ち切ったらしいわ。意味不明よ。

でもカバは今、子不足が深刻らしくてね。シリュウ香の取引再開を打診してきたの。とりあえず年300個の取引になる見込みよ。それで担当者を龍算と、あんたたちのどちらかにお願いしようと思ってるの。」


「・・・年300なら龍算様お一人で十分では?」


「ふふ。龍緑、なんて顔してるの。お察しのとおり、カバ族長の娘が嫁入りするの。」


「龍景、譲るよ。」


「え?」


ワインを飲んでいた龍景は驚いた顔で龍緑を見てきた。



「まあ、お待ちなさいよ。まだ話は終わってないわ。もうひとつ縁談があってね。龍希の妻と同族の娘。今は妻のそばで花嫁修行してるの。でも妻と血縁はないわ。」


「はあ?人族?」

龍景は驚いている。



『花嫁修業ねぇ。まあ嫁がせるなら、使用人の中でも最下層の毒見役なんて公表できないことは分かるけど、龍景も騙す気だな。』


龍緑は心の中で苦笑いした。


「そ。龍希の奥様のご要望でね。うちとしても人族の妻がもう一人いてもいいかなって。賢くて繁殖能力が高くて、なのに実家がでしゃばってくることがないから。」


「いや、子どもが多いのは龍希様だからでは?」


「試してみないと分かんないでしょ。それに龍希は、最愛の奥様のお願いを叶える気満々なの。」


竜湖は嫌な笑みを浮かべる。



「じゃあ・・・俺が人族ですね。」


龍景は心底嫌そうだ。



「ふふ、龍景は物分かりがよくて助かるわ。人族の娘の方も龍景との結婚を承諾してるから。」


「そりゃあ。龍緑・・・殿に人族なんか押し付けたら俺が一族から袋叩きにあいますよ。」

龍景は肩をすくめる。


「龍景だって龍賢様や兄上が黙ってないだろう?」龍緑は焦っていた。



「大丈夫。龍希が黙らすわ。」


竜湖は腹が立つほどの笑顔で親指をたてやがった。今すぐ折りたい。


「はー。じゃあ決まりですね。人族の妻って何を用意すればいいんですか?」


「私に任せて。結納金がない分楽よ。」


「え?龍希様に払うんじゃないんですか?」


「龍希は要らないって。むしろ引取料払うなんて言ってたわよ。早々に離婚されたら困るからって。」


「え!?まじですか!もらいます!さっすが龍希様!」

龍景は途端に笑顔になった。


「龍緑は・・・もう巣に池があるからカバを迎えるのに時間はかからないわね。」


「あ!カバは池がいるんですね。適材適所っすね。」


龍景は龍緑に笑顔をむけるが、


「龍緑、そんな顔しないの。カバとの取引再開の条件としてうちから提案したんだもの。わかるでしょ?」


「そうだぞ。龍緑・・・殿。これで龍範殿が静かになるし、いいことずくめだ・・・ですよ。」


龍景はガッツポーズしている。



「ふふ、じゃあ2人ともご苦労だったわね。」


「待ってください!俺はまだ了承してませんよ。」


「え!?おいおい!龍緑、拒否権なんてないぞ!」


なぜか龍景が慌てている。 



『もう逃げ場はなさそうだし、仕方ねぇなぁ。』



龍緑は観念した。


「龍景、俺の方が序列は上だよな。」


「え?ああ、それがどうした?あ、言葉遣い?失礼しました。」


龍景は困惑した顔で龍緑を見る。



「最初に言ったろ。カバは譲るよ。」



「はあ?いやいや冗談だろ?」


龍景は驚愕している。


「カバに俺の巣の池を汚されるのは御免だ。」


「いやいや!お前、人族なんか!?」


「人族なんか嫌ならカバにしろよ。適材適所だ。」


「はあ!?勘弁してくれ!俺が袋叩きにあうって~!」


龍景は頭を抱えるが、



「大丈夫だ。俺と龍希様で黙らせる。」



龍緑は作り笑顔で親指を立てた。



「いやいや!ええ!?」

龍景はパニックになっているが、


『そんなに驚くことか?』



「龍緑、本気?やっぱり辞めたなんて龍希が許さないわよ。奥様たってのお願いなんだから。」


あの竜湖も驚いた顔をしている。


「はい。カバよりはましですから。龍希様と喧嘩する気もないです。俺の庭には桜の木を植えるスペースもありますよ。」


龍緑は肩をすくめる。


「う~ん、でもねぇ。」


竜湖が困っている理由は見当がついた。


「以前、本家で人族の彼女をお見かけしたことがありますし、龍希様からお話を聞いたこともあるので、彼女についての詳しいご紹介は結構です。」


「あらそう?なら話は早いわ。じゃあ龍緑が人族で、龍景がカバね。」


「ええ!いや、俺、結納金に加えて池まで用意するんですか?成獣したばかりですよ!」


龍景は頭を抱えているが、龍緑は知っている。



『こいつの稼ぎなら可能なくせに・・・龍希様から引取料の酒をもらいたいだけだろ。こいつの思いどおりにするのは癪だけど・・・引取料目当てで結婚したと思われるのは嫌だしなぁ。』



「龍希様からの引取料は龍景に渡すよ。俺からのカバ引取代だ。」


「まじ!?じゃあカバ引き取る!サンキュー龍緑」


龍景は今日一番の笑顔だ。



「意外ねぇ。あんたは龍希じゃなくて龍栄に憧れてるんじゃなかった?」


竜湖はまだ半信半疑のようだ。


「龍栄様は尊敬してますが、バカな妻は御免です。あと実家がうるさい妻も。」


「ニャアちゃんは余計な口出しをしないいい妻よ。」


「じゃあ人族ではなく白猫族の妻を増やしてはいかがです?」


「・・・あんた、やっぱ龍栄似ねぇ。意地悪なところがそっくり。」


竜湖は不愉快そうな顔になった。

いい気味だ。



「しかし、お前も物好きだな。」

龍景は不思議そうに龍緑を見ている。


「悪かったな。俺は父上の苦労をずっと見てきたんだ。」


「あ~ワニだっけ?そんなにうるせえの?」


龍景には分からないだろうな。

こいつの母親は不干渉主義の狼だ。


カバ族長の娘なんて口うるさいに決まってるのに。

まあどうでもいいや。むしろこいつには苦労してほしい。


 頭脳派の龍賢様や兄と違い、お調子者で脳筋の龍景は好きじゃない。むしろ嫌いだ。

こいつも俺のことが嫌いだからお互い様だな。



「でも楽しみだ。お前もあの龍希様みたいになんのかな?」


龍景は今度はムカつく笑顔を向けてきた。ぶん殴りたい。


「冗談だろ。あんなに執着するかよ。」


 正直、龍希様の執着ぶりにはドン引きしている。

かつてはあんなに結婚を嫌がっていたのに。

カラス妻の愚痴を夜通し聞かされたのだって両手じゃ数えきれない。



「あ~それも気になってるのよね。なんであんなに執着してるのか。それもあの龍希が。

カラスの前妻は半年近く居ても全然だったのに・・・芙蓉ちゃんに執着するのは驚くほど早かったのよねぇ。」



竜湖も不思議そうな顔をしている。


「そーいえば、龍希様はどうやって奥様と知り合ったんです?なんか結婚前に2人で話す機会があったとか言ってましたけど・・・それとも本当は元使用人ですか?」


意外にも龍景はまともな質問をしている。


「さあ。あの子、私にも隠してたから。でも使用人ではないわ。枇杷亭の婆やと執事は優秀だもの。

人族では婚前交渉は珍しくないみたいだし。あ!でも龍緑は止めてね。」


「当然です。手順は守りますよ。龍希様と一緒にしないで下さい。」


「ふふ。あんたは真面目だものねえ。まあ芙蓉ちゃんも三輪ちゃんも、龍景より龍緑の方が安心でしょうし。私たちもタイプが違う方が観察しがいがあるわ。」


「俺は実験台ですか。」


「違うわよー比較対象。あんたが龍希並みに執着してるとこなんて想像つかないし。観察しがいがあるわ。」


龍緑はため息をついた。


『あーめんどくせえ。』


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