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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第4章 世代交代編
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守番の危機 前編

 6月、本家とスミレ亭の守番は順調だ。ただ龍灯の妻の出産までに龍風が転変しなければ龍灯には竜の子を連れて本家に来てもらうことになった。

龍光は本家には呼ばない。あのシマヘビの妻が転変前の息子や妻に何をするか分からないからだ。

「龍灯のとこは早ければ秋か・・・」龍希は悩んでいた。

龍風はもうすぐ生まれて2ヶ月になるが、やはり上の子2人よりも小さく、まだ雷気を食べるどころか興味すら示さない。

妻も乳の飲みが一番少ないと心配している。

先週は熱を出して4日間もぐったりしていた。龍希たちは焦って薬を用意したが、赤子に薬は早いからダメだと妻は飲ませなかった。

回復したから良かったが・・・転変前に亡くなる竜の子は過去に何人もいたらしいから龍希は気が気じゃない。

 


「ん?ああ、守番の交代か。」午前の守番の龍灯と龍賢の匂いが近づいてきた。

「失礼します。族長代行。」2人は一礼して龍希のいる応接室に入ってきた。

「2人とも今日もご苦労だった。」

「いえ、本日午前も無事に撃退しました。今、龍海殿と龍緑に交代したところです。」

「ん?龍海?今日の午後は龍緑と龍兎だろ?」

「それが・・・龍兎は疲れてまだ寝ているらしく、龍海様が代わってくださったそうです。」龍灯は困った顔で答える。

「龍兎はまだ若いのに情けねぇなぁ」

「龍兎は真面目ですからな。全力で守番に取り組んでおる証拠です。」龍賢は感心している。

「ああ、あいつもよくやってくれてる。お前たちもゆっくり休んでくれ。」

「では私は妻のいる巣に戻ります。」龍灯は一礼して応接室を出て行った。

「族長代行、守番中に申し訳ないのですが、少しご相談が。」龍賢はそう言って龍希の前の椅子に座った。

「どうした?」

「息子の龍景(りゅうけい)ですが、独立後の巣として銀杏亭を譲ろうと考えておりまして。」

「銀杏亭?どこだっけ?」

「龍算様の柘榴亭の西にございます。私が亡叔父から相続した巣でもう30年近く誰も住んでおりません。」

「俺が生まれる前か。そりゃ知らねぇや。まあ龍景がいいというなら俺は反対しない。」

「ありがとうございます。それでは守番業務に支障がでない限度で屋敷の改修を進めさせます。屋敷の名前も龍景が変えると思いますので、転居の準備が整いましたらまた息子とご報告に参ります。」龍賢は嬉しそうに退室していった。

「あいつはようやく父親業が終わりか。息子の巣なぁ。まさか2人も息子ができるとは思わなかった。どうするかなぁ・・・」龍希は悩みながらも、息子たちのことを考えて口角が上がった。



~本家中庭~

 翌日、朝のトリを撃退し、龍希は中庭で上の息子と娘とボール遊びをしていた。娘はボールが離れたところに転がっていくと兄からボールを奪った。

「う~ぼくの!りゅうきんのはあっち!」

「やだーわたしの!にいにとってきて」

「なんで!?」

喧嘩を始めた子どもたちを龍希は幸せな気持ちで見ていた。

「ん?」誰だ本家の廊下を走ってるやつは?

灰色の犬の獣人が龍希のところに走ってきた。執事服を着ているが・・・誰の執事だっけ?

「りゅう、族長代行!お休みのところ申し訳ございません。龍兎様の執事の(けん)と申します。」犬の執事は息をきらしている。

「ああ、龍兎の執事か。どうした?」

「主が・・・主が目を覚まさないのでございます!」犬の執事は泣きながら訴えた。



~ススキ亭 龍兎の寝室~

 族長代行の命を受け、龍灯と竜紗がススキ亭に駆けつけると狼狽えている犬の執事が龍兎の寝室に案内した。

「主は昨日の午後の守番を務めるはずだったのですが、昼前に起こしてもお目覚めにならず・・・龍海様が急きょ代わって下さったのです。しかし、主はその後も起きてこられず、一昨日の晩からずっと眠り続けておられるのです。こんなことは初めてで・・・」

ベッドの上で龍兎はすうすうと寝息をたてて寝ている。

「おい!龍兎、起きろ!」龍灯は龍兎の耳もとで大声で呼びながら頬を平手で2~3発叩いた。

しかし龍兎が起きる気配はない。

「おい!龍兎!」龍灯はデコピンをしたり、目を無理やりこじ開けたり、紫の髪の毛を引っ張ったりしたが龍兎は全く反応しない。


「・・・龍灯様。これは・・・あなたがかつて意識不明になられた時にそっくりです。」


竜紗は真っ青な顔で龍兎と龍灯を交互に見る。

「何!?本当か?」

「はい。堅、龍兎が寝る前に口にしたものを教えてちょうだい。それから龍兎を本家に運んで治療しなければ。守番の竜波(りゅうなみ)を至急呼んで!」

「は!竜紗様」堅はすぐに寝室を出て行った。

「な、なんで龍兎が?もしや鴨の妻が?」

「その可能性もありますから、妻から離すためにも本家に連れて行きましょう。私は本家の族長代行に報告してきますので、龍灯様は竜波が来るまで龍兎をお願いします。」

「分かりました。」

竜紗は慌ててススキ亭を出て行った。



~族長代行執務室~

「何がどうなってるんだ?」龍希は頭を抱えていた。

 眠りこけた龍兎が本家に運ばれてきたのが6日前、4日前には守番を終えて本家の客間で休んでいた龍範(りゅうはん)が目を覚まさず、昨日は同じく本家の客間で休んでいた龍雲(りゅううん)が目を覚まさず・・・

その上たった今、半泣きの龍景が執務室に駆け込んできたのだ。

「ち、父が!スミレ亭の客間で寝たまま目を覚ましません!もう丸一日以上寝ています!」

「龍賢もかよ。」龍景の報告に龍希はますます頭を抱えた。

「龍兎、龍範、龍雲に龍賢で4人目ね。龍兎なんてもう一週間よ。参ったわ。龍灯の時は水を変えたら1日で目を覚ましたのに。誰も起きないの。」竜湖も途方にくれている。

「ん?」

また廊下を走ってくる音が聞こえる。

「族長代行!」竜紗が勢いよく扉を開けて入ってきた。

「今度はな・・・」

「り、竜波が!目を覚ましません!」

「はあ!?もう勘弁してくれ!」龍希は涙目になった。



~シュグの医務室~

 シュグの医務室は満床になった。紫竜が5人並んで眠りこけているなど使用人には絶対に見せられない。

「原因はまだ分からないのか?」龍希は竜湖と竜紗をにらむ。

「睡眠薬の線で調査しているのですが、日に日に増えるので追い付きません。」竜紗はまた目の下に濃いくまが出来ている。

「男が4人も・・・これ以上増えたら守番に支障が」龍希は焦っていた。

「まずいわ。さすがに龍兎と龍範の妻が異変に気づいたわ。何日も巣に戻らないんだもの。その上、龍賢をスミレ亭の客間から本家に運ぶ時にシマヘビの妻にも気づかれたわ。」竜湖も焦っているようだ。

「くそ!誰の仕業だ?」


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