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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第1章 枇杷亭編
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離婚報告

「よりにもよってカカの帰ってくる日に」


龍希は舌打ちした。

昨夕、会議の緊急招集があり、朝早くから本家の大広間に来ていた。


『疾風を残してきたから、カカが芙蓉を隠すことはないだろうが・・・早く帰りたい。』


「揃ったな。」

族長が入ってきて上座に座った。皆が族長に注目する。


「朗報だ。龍栄(りゅうえい)の妻が妊娠した。1月に出産予定だ。」


族長の報告に龍希は喜んだ。


龍栄は族長の長男だ。

周囲からも歓喜の声が上がる。


「今度は大丈夫なのですか?」


龍希は食い気味に尋ねる。

「昨日、妊娠がわかったばかりだ。出産までシュシュが泊まり込みでサポートする予定だ。」

族長は無表情で答える。


 龍栄の前妻は2度死産、今の妻は1回流産している。

年明けには28歳になる龍栄にはまだ子がいなかった。

シュシュは本家に仕えるフクロウ族の獣人で、経験豊富な医師だ。娘を3羽産んでおり、娘らもみな医師になってシリュウ一族に仕えている。


「ところで龍希様のところは?」


この声は龍海(りゅうかい)だ。


龍希が大嫌いな中年男。

龍希を族長後継に推している馬鹿どもの筆頭だからだ。


『黙ってろよ。俺は後継者になる気はさらさらないと言ってるだろ!

龍栄が次の族長になるのが一番だろうが。』


龍海を睨もうとして、龍希は思い直した。


『まてよ。ちょうどいい機会じゃないか。』


「俺ですか?離婚しました。」


龍希は笑顔で報告した。



「は?ええ!」


部屋中が大騒ぎになる。

龍希の向かいに座る龍栄は口をぽかんと開けた。


「いやいや待ってください!3月にご結婚されたばかりじゃないですか」


龍海は声を張り上げる。

「ああ、もう別れた。」

龍希はまた笑う。

周囲が一層騒がしくなった。


「静まれ!」


族長が低い声で命じる。

「龍希、初耳だぞ。いつのことだ?」

族長は龍希を睨む。

「8月です。」


「今、何月だと思っとる?」


族長の怒気を含んだ声に龍栄をはじめ周りにいる者たちは顔を青くする。


「12月ですね。遅くなりました。」


龍希は笑いながら族長の顔を見た。

族長と龍希の視線がぶつかる。

「はあ。」

族長がため息をついて視線を外した。

「詳しく説明せい。報告が遅れた理由もな。」

族長が命じる。


めんどくさいが仕方ない。

龍希にも一族での立場がある。ここはおとなしく説教を受けねばならない。

  


「疲れたー」

龍希は帰りの馬車の中で独りごちる。

あの後、一族総出で説教された。


もう一族には10年以上子どもが生まれていない。

妻の死産・流産が続いているのだ。

来年には20代の雄は龍栄と龍希だけになる。あとは成獣前の雄が3匹。


龍栄は成獣になると同時に結婚したが、龍希は成獣後ものらりくらりと結婚を避けていた。

龍希は縛るのも縛られるのも嫌いだ。

それに龍栄よりも先に息子が産まれでもしたら面倒なことこの上ない。

 だが、今年の新年会では龍海をはじめとする一派が土下座して頼み込んできた。当時、龍栄の新しい妻が妊娠中だったこともあり、龍希はついに折れた。

 その後、龍栄の妻は流産したが、それは龍希の離婚とは無関係だ。

龍希の離婚はカラス族の妻が望んだからだ。

なのに・・・信じられないと離婚の理由を詰問されること1時間、さらに復縁を説得されること2時間。そこから龍希の新しい妻をどうするかという話が続いた。


 龍希は芙蓉のことは報告しなかった。

今はまだダメだ。龍栄に対抗して早く子を孕めと、龍海たちは芙蓉にプレッシャーをかけてくるに違いない。族長後継となるには息子がいることが絶対条件だからだ。

龍栄の最初の妻はそのプレッシャーに耐えられず、2度の死産の末離婚したらしい。

 そんなのは御免だ。

可愛い芙蓉と別れるなんて考えたくもない。

今日は仕事が休みだから、昼まで芙蓉と寝室で過ごそうと思っていたのに・・・緊急会議のせいでとんだ1日になってしまった。

帰ったら芙蓉と二人きりになりたいが、カカがなあ・・・


「あ~めんどくせえ!」

それもこれも龍栄が悪いのだ。

あいつに息子が産まれていれば、芙蓉を隠す必要なんてないのに!


前妻との復縁だのどこぞの取引先との再婚だの無駄話に付き合わされるはめになった。

まあでも来月あいつに息子が産まれれば・・・芙蓉のことを父上になんて説明しようかな?


婚前交渉がばれたらマズイし、かといって使用人に手を出したと勘違いされても困る。疾風の誤解を解くのは大変だった。

雛の次は芙蓉を使用人だと勘違いしていたなんて、しかもタタまで・・・もう呆れて何も言えなかった。


「ま、カカに考えさせるか。」

悪さの後始末と言い訳は鶴のばあやに任せよう。


『そういや、珍しく龍栄が睨んでたな。なんでだ?』


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