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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第4章 世代交代編
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怪事件

 5月、一族の最年長、竜音が亡くなった。

紫竜の平均寿命をこえ、80歳の大往生だった。

 だが、竜音は死期を悟って、一昨日リュウレイ山に籠ったばかりだったのに・・・早すぎる!


~族長執務室~

「龍希。儂はこれから葬儀の準備のために竜湖たちとリュウレイ山に行く。明後日の葬儀まで本家を頼むぞ。龍海と龍光は連れて行くから、何かあれば龍賢、龍灯と対応してくれ。」

族長は龍希の返事を待たずにバタバタと出掛けて行った。

「まじかよ?また泊まりだ・・・」

龍希はため息をついた。

「いっそ本家にお住まいになられては?・・・いて!」

龍緑がニヤニヤしながら馬鹿なことを言ってきたので龍希はゲンコツを食らわせた。

「疾風。枇杷亭に戻って芙蓉たちに泊まりの準備をするよう伝えてこい。葬儀は明後日みたいだから2泊な。日が暮れる前に俺が迎えに行く。」

 妻子だけで移動などさせられない。それに子どもたちは龍希と一緒でなければ巣から出ない。

「畏まりました。」疾風はすぐに部屋を出ていった。

「はー。なんも面倒ごとが起きなきゃいいが・・・」

 族長が本家を不在にする時には族長代行を置くことになっている。龍陽が転変する前は、龍賢か龍海かたまに龍栄が任命されていたが・・・後継候補筆頭になってからは専ら龍希が任されていた。

 


~客間~

 龍希が本家にやってきた妻子といつもよりも遅めの夕食をとって、風呂に入ろうとしていた時だった。

「ん?」客間に龍灯が近づいてくるのが匂いで分かった。

「あなた?」客間の扉を見る龍希を妻は不思議そうに見てきた。

「ちょっと出てくる。」龍希は妻の唇にキスをすると一人で客間を出た。

 廊下で龍灯が待っていたので、客間の前に疾風を残して龍希は族長代行の執務室に移動した。

「なんだ?こんな時間に」

「それが・・・本家の中庭に使用人が意識不明で倒れているのを龍緑の庭師が見つけたそうです。」

「龍緑の庭師が?」

「はい。龍緑を呼びに本家に降り立ったところで倒れている使用人に気づいたそうです。」

「その使用人は?」

「今、シュグ医師が見ていますが・・・熊の奥様の侍女の一人らしく・・・」

「げ!」龍希は顔をゆがめた。

「よりにもよって父上のいない時に・・・」

「龍賢殿が急きょ奥様を連れてきてくださり、熊の奥様の相手をしてくださっていますが、族長代行として何かしらの対応はしておきませんと・・・あとで何を言われるか・・・」

「ああ!くそ!めんどくせえ」

龍希は仕方なく龍灯を連れてシュグ医師のいる医務室に向かった。



~シュグの医務室~

「龍・・・いえ族長代行、龍灯様。お疲れ様でございます。」フクロウの医師がベッドに寝ている熊族の侍女を診察していた。熊は目を瞑って横たわりピクリとも動かないが、呼吸はしているようだ。

「どうだ?」龍希はシュグ医師に尋ねる。

「外傷はございません。呼吸もしておりますが、何度呼びかけても反応がなく・・・なぜ意識を失っているのかなんとも・・・」シュグ医師は困った顔をしている。

「薬が盛られた可能性は?」一度、人族の睡眠薬で意識不明になっていた龍灯は真っ先にそのことが気になるようだ。

「・・・可能性はございます。龍灯様の時と症状は似ておりますし・・・ただ奥様の侍女が中庭で何かを口にするとは考えにくく・・・」

「確かにな。」龍希と龍灯は同時に同意した。

「なんでこの侍女は中庭に・・・ん?」

この匂いは・・・

「旦那様!」真っ青な顔をしたタートが医務室に飛び込んできた。

「どうした?」

「シュン殿が!シュン殿が廊下で倒れておりまして・・・」

「シュン姉ちゃんが!」シュグが悲鳴をあげた。

「は?何があった?」

「奥様が若様たちとお風呂に入られている間、シュン殿が脱衣所前の廊下に控えていたのですが、お風呂を終えられた奥様が廊下で倒れているシュン殿を発見なされて・・・奥様のご指示で客間に運んで寝かせておりますが、いくら呼びかけてもひっぱたいても反応がないのです。呼吸はしているのですが・・・」

「ひっぱたいた?姉ちゃんをすぐに連れてきてください!丁重に!!」

シュグは怒りで全身の毛を逆立てながら叫ぶ。

「俺が行く!龍灯はここで待っていろ。」

侍女が倒れたなんて・・・妻は不安がっているに違いない。



「あなた!」ベッドの横で心配そうにシュンを見ていた妻は龍希を見ると立ち上がった。

「大丈夫だ。疾風、シュンをシュグの医務室に連れていけ!タタ、タート、疾風が戻るまで廊下で見張っていろ。」

龍希が妻を抱き締めながら命じると使用人たちはすぐに動いた。

「あなた。シュンはどこか体調が悪かったのでしょうか?」

「シュンは医者だから、自分の体調管理はしているはずだが・・・それより何があったんだ?」

「それが・・・いつもはお風呂から上がるとシュンは脱衣場に入って子どもたちの世話を手伝ってくれるのですが、今日は来てくれなくて。廊下に出て呼ぼうとしたのですが、子どもたちがなぜか嫌がって・・・気づくのに時間がかかってしまいました。」

「こら!龍陽、竜琴、また芙蓉を困らせたのか?」

龍希は子どもたちを叱る。

「う~だって~」

「シュンからへんなにおいした!」

子どもたちは不満そうな顔で訴える。

「変な臭い?」

妻は首をかしげている。

「なんだ変な臭いって?」龍希は子どもたちに尋ねるが、

「へんなにおい~」

「くさいのー」

「・・・」

ダメだ。子どもたちの語彙力の限界だ。


妻は不安そうにしている。

「大丈夫だ。シュグが治療してくれるから芙蓉は何の心配もいらない。必ず戻ってくるから子どもたちの寝かしつけを頼んだ。まだ臭いを気にするようならシリュウ香を焚いてくれ。いつもの箱に入れてる。」

「はい。あなた、ありがとうございました。お仕事に戻って下さいませ。」

龍希は妻とキスをすると廊下に出て、シュグの医務室に向かった。


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