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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第3章 後継候補編
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龍海の嘆き

 2月、龍希は交代で2ヶ所の守番をこなしていた。

竜琴たちの時と同様、竜の子を本家に集める話も何度か出ているのだが、龍光が承諾しないのだ。

まあ、転変前の竜の子を巣の外に出すのは誰だって嫌だが、それよりもシマヘビの妻が断固拒否しているらしい・・・

 守番は今のところ何とかなっている。前回と違うのは、龍大が居なくなった代わりに龍緑と龍兎が加わったことだ。

龍緑はやはりかなり雷の力が強いし、龍兎はまだ不慣れなものの、コントロール力とスタミナがあるから十分な戦力だ。

 龍算はまだ元気がないが、仕事はきちんとこなす奴だ。守番に支障はでてない。

 『卵生の子は胎生より転変が早いと聞くが、龍光の息子はまだかなあ?』

そんなことを考えながら龍希は鶯亭の守番を終えて自分の巣に戻ったのだが、出迎えてくれた妻の匂いを嗅いで歓喜した。



~枇杷亭寝室~

「もう、あなた。」

腕の中の妻は最高に色っぽい。

「ん~いいだろ。もう一回」

龍希は妻の返事を待たずに、右手を妻の太ももの間に滑らせる。

「ん・・・そこはダメです。」

そう言いながらも妻は自分で足を開いていく・・・

月のものが終わって1週間ぶりの逢瀬だからか、いつもより妻も積極的だ。

 ベッドの上の妻はなんとも分かりやすい。龍希の指や舌に逐一反応して、声を出したり身体をくねらせたり、どこが嬉しいのかすっかり覚えてしまった。

「芙蓉、今度は背中むけて。」

龍希は今夜も妻の中の快感に酔いしれた。



~紫竜本家~

 3月に入ってすぐ、龍希は本家の応接室に来ていた。

今回は族長ではなく龍海の呼び出しだ。

 一昨日はスミレ亭、昨日は鶯亭で守番をして今日はゆっくり妻子と過ごすつもりだったのに!

遅めの朝食を妻と食べ終わった時に、緊急だと龍海の執事が枇杷亭に呼びに来たのだ。

断りたかったが・・・龍海が執事を寄越すなんて一大事に違いない。

何だかんだ龍海には成獣前から世話になっている・・・


 だがそうなると遅くなる可能性が高いし、明日は元々本家での仕事が入っていたから、龍希は妻子を連れて今夜は本家に泊まることにした。


「龍希様!急に申し訳ありません!」

龍希が応接室に入ると、真っ青な顔をして涙目の龍海が駆け寄ってきた。族長、竜夢、龍緑もいる。

こんなに狼狽えている龍海は・・・龍緑が竜神の呪いを受けた時以来だ。

「どうした?また龍緑に何かあったのか?」

「いえ、スイスイが!妻が実家に帰ってしまったのです!」

「はあ?」


 龍海の妻は・・・そうだ。ワニ族だ。


「お前、何したんだ?」

「何も。いえ、私が何もしなかったから怒って・・・ああ!」

龍海は頭を抱えて泣き出した。

『いや、全然事情がわからん。』


「私からご説明します。」

竜夢がため息をつきながら説明を始めた。


 ワニ族は昨年1月、黄虎の眷属を外されて、族長の夫も離婚されて実家に戻されたのです。

理由は公表されていませんが、黄虎は同じ番とは一人しか子どもを作りませんので、息子が産まれてワニの夫はもう用済みになったのでしょう。

黄虎の後ろ楯を失ったワニ族は人族との長期化した戦いに疲弊しており、スイスイ様に何度も助力を求める手紙を送ってきておりました。

 なんでもワニ領の5分の1は人族に占拠されたそうです。まあ人族の町もいくつもワニに滅ぼされているそうですが。

スイスイ様の親族も何人も戦死したらしく、スイスイ様は龍海殿に何度もワニ族への支援をお願いされていたのですが、まあそんなことできるはずもなく。

 今回の家出は、動かない龍海殿への不満が原因でしょう。守番が2ヶ所になり、龍海殿が巣を不在にしがちで、なおかつワニの実家にご機嫌伺いにいく余裕もないこの時期を狙ったのでしょう。


「支援って・・・龍海に何をさせようってんだ?」

種族間の戦争だ。龍海1人に何ができるというんだ?

「それが・・・紫竜一族で戦争に介入してほしいと。黄虎に代わってワニのために戦ってほしいというのです。」

竜夢は苦笑いしながら言った。

「はあ?アホか?」

「龍希様!妻になんてことを言うのです!」

龍海は泣きながら怒り出した。

ワニの妻と連れ添って25年以上だ。相当執着している。

「悪かった。落ち着けよ。」

「母だって無茶苦茶なお願いだと分かっていると思っていたのですが・・・まさか家出してしまうとは。実家だって安全とは言い難いでしょうに。」

龍緑も苦笑いしている。

ワニは龍緑の実母だが、もうとっくに親離れしている。龍緑は冷静なようだ。

「一体どうすれば!もし妻が怪我でもするようなことがあれば!ああ・・・」

龍海はまた頭を抱える。


「どうするったってなあ・・・」

龍希は困って竜夢をみる。

「妻の実家が他種族と争いになることはよくありますが、わが一族が介入したことなど過去にありません。黄虎と違って眷属を持ちませんし。」

竜夢はそう言って肩をすくめる。


竜夢の言う通りだ。

朱鳳、黄虎、藍亀はそれぞれ眷属を持ち、時には眷属の戦争に介入することがあるらしいが、紫竜一族に眷属はいない。

過去一度も持ったことはないし、今後も眷属を作る予定はないはずだ。


「だよなあ。あの虎の話だと、ワニは一度は人族と通じてうちに悪さをしようとしてたらしいし。」

龍希は黄虎の谷での女族長の話を思い出していた。

「そんなはずはありません!スイスイは何も!ああ・・・」

龍海の狼狽えぶりはすさまじい。普段とのギャップがありすぎて龍希はドン引きしてしまった。

「龍海殿。ここは私にお任せください。ワニ族とスイスイ様に連絡をとってみます。だから、あなたは守番に専念なさいませ。スイスイ様とお話がついたら実家にお迎えに行ってくださいね。」

竜夢は気持ち悪いほどやさしい声で龍海に話しかけた。

「ほ、本当ですか?竜夢殿。」

龍海は涙でぐしょぐしょになった顔で竜夢を見る。

「ええ。私もスイスイ様とは長い付き合いです。安心して私にお任せくださいませ。」

「そ、そうですな。妻とはいい付き合いをされていましたな。」

龍海はようやく落ち着いたのか涙をぬぐった。

「そうです。さあ顔を洗ってきなさいませ。そんな顔を使用人たちに見られては大変ですよ。龍緑、付き添ってあげて。」

竜夢の言葉に龍海は頷き、龍緑と一緒に応接室を出て行った。

竜夢は気持ち悪いほど優しい微笑みを浮かべている。


「おい。何を企んでる?」

応接室の扉が閉まって龍海たちが離れていくのを待ってから、龍希は竜夢を睨んだ。

「企む?なんのことでございましょう?」

竜夢は眉をひそめるが、

「お前のその感じ、前に龍栄殿が白鳥と離婚した時と同じだ。」

「ああ、懐かしいですね。あの時も龍栄様のお力になりたかったのですが、力及ばず・・・」

竜夢はそう言って目を伏せる。

「龍希。この件は竜夢に任せろ。竜夢もう下っていいぞ。」

族長の言葉に竜夢は一礼してそそくさと応接室を出て行った。


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