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紫竜の花嫁  作者: 秋桜
第3章 後継候補編
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出会い

 年が明けて間もなく三輪は初めて紫竜本家に来ていた。

旦那様はもりばん?に加えて、取引先が新年の挨拶のために本家にひっきりなしにやってくるとのことで、今日から数日間、奥様とお子様たちと本家に泊まりらしい。

これまでも旦那様たちが本家に泊まることはあったが、三輪はいつも留守番だった。だが、今回はタタさんから

「三輪はここに来て1年経つし、もう十分匂いがついてるから一緒に奥様方のお供をしましょうね。」

と言われて、タタさんとタートさんと一緒に使用人用の馬車で本家にきたのだが・・・


匂いがついてるって何?


三輪は自分の腕を嗅いでみたが・・・分からない。

鼻のいい獣人からしたら臭いのかな?



「三輪。ここが奥様達の客間よ。」

タタさんの声で三輪は我に返った。

馬車を降りて、厨房の隅で奥様の昼食の毒見を終えて、そこから随分歩いてきた気がする。

枇杷亭だって三輪の故郷の大商人の屋敷並みに広かったが・・・本家はけた違いだ。

「奥様。失礼いたします。」

タタさん、タートさんに続いて客間に入る。

『すご・・・リュウカの部屋の何倍も広い。なんて豪華な部屋』

三輪は呆然としてしまった。

奥様のリュウカの部屋だって初めて見たときは広さと家具の豪華さにあっけにとられてしまったけど・・・この客間の広さも部屋の装飾もレベルが違う。


「ふふ。三輪、大丈夫?」奥様の優しい笑い声が聞こえた。

「あ、はい。わあ!奥様、素敵です!」

『今日の奥様もなんて美しいのだろう。豪華な着物も大きな宝石のついた宝飾品もとても似合ってる。』

三輪は思わず見とれてしまった。

 奥様は三輪より2つ年上らしいが・・・とても信じられない。優しくて上品で大人の落ち着きがあって、でも時々お茶目で・・・まさに理想的な女性だ。

あのイケメンの旦那様が惚れ込んでいるのも納得だ。


「ふふ。ありがとう。これから夫の取引先との食事会だから、タタさんたちと荷ほどきをお願いね。」

奥様は三輪ににっこりとほほ笑む。三輪のような下働きにも直接声をかけてくださる優しい奥様なのだ。

「は、はい!お任せください。」

三輪は姿勢を正して奥様に頭を下げた。

 タタさん、タートさんは教え方が丁寧で優しいのだが・・・奥様の侍女であるククさんとシュンさんは奥様の前での礼儀にとても厳しい。あの獣人たちに怖い顔で睨まれると震えあがってしまう。

そのくせ、奥様の侍女たちは旦那様には割と無礼というか・・・旦那様の悪口三昧だ。

よく旦那様は奥様の侍女たちを解雇しないなぁ・・・奥様のお気に入りだからだろうか?



「芙蓉、お待たせ。行こうか。」

旦那様が客間に入ってきた。

奥様と同じ色の着物を着て、いつも以上に長髪がきっちり整えられている。性格はさておき、和装のイケメンは目の保養だ。

「今日も綺麗だなあ。あんな奴らに見せるのがもったいない。」

旦那様は今日もうっとりとした顔で奥様を見ている。

奥様は照れた顔で旦那様を促すと、旦那様は左手で奥様の肩を抱いて、右手で姫様を抱っこして客間を出て行った。今月で2歳になった姫様は慣れない着物姿で動きにくそうだ。

袴姿の若様は慣れた様子で奥様の横を歩いてついていった。ククさんとシュンさんが後ろに続く。

同じ侍女でもタタさん達と違って、ククさんとシュンさんはいつも奥様に付き従っている。



「さ。これでおしまい。三輪、あなたの部屋に案内するわ。その後は奥様達のおやつの毒見よ。タート、旦那様たちがお戻りになるまで部屋の番をお願い。本家の使用人は一匹たりとも入れちゃダメよ。」

「はい!」

タタさんに続いて三輪は廊下に出た。

廊下は・・・様々な種類の獣人たちが歩いている。赤い着物を着ているのが本家の使用人で、それ以外の色の着物を着ているのは各屋敷の使用人らしい。

本家の使用人にはできるだけ関わるなとカカさんとタタさんに怖い顔で言われたけど・・・なんで仲が悪いんだろ?


「こっちよ。奥様達の客間と自分の部屋の場所を覚えてね。」

タタさんに続いて長い廊下を歩き、右に曲がって、2つ目の十字路を左に・・・

「あ、三輪!」

急にタタさんに袖をつかまれて廊下の端に引っ張られた。

『何?』

足音が聞こえる。誰かが廊下の向かいから歩いてくる。

タタさんにならって三輪は廊下の端で立ち止まって頭を下げた。

「ん?龍希様のところの・・・」若い男の声がした。

「はい。枇杷亭の侍女、タタでございます。龍緑様。」タタさんが顔をあげて答えている。

「どうして人族が?」驚いているような声だ。

「奥様の毒見役兼枇杷亭の侍女見習いでございます。龍緑様にご挨拶なさい。」

「は、はい。人族の三輪と申します。」三輪は顔をあげて挨拶した。


「・・・」

旦那様よりも少し若い紫髪の男性だった。

旦那様と同じく高級そうな着物を着ている。旦那様よりも明るい紫の短髪に優しそうな顔。

おそらく旦那様の同族だろう。イケメンぞろいだなあ・・・でも人じゃないんだよね。

 そう思っても整った顔面に思わず見とれてしまった。というか旦那様よりもこの男の方が三輪のタイプだ。


まあ人じゃないけど!


「・・・」

男性は驚いたような表情でじっと三輪を見ている。

「龍緑様?」タタさんが首を傾げて話しかける。

「あ、ああ。そういえば龍希様が前に仰っていましたね。藍亀の島で拾ったって・・・」

『拾ったって・・・犬や猫じゃないんだから』

やっぱり旦那様の親族だ。口が悪い。

「はい。よく働く娘ですよ。あ、申し訳ありません。奥様の毒見に向かう途中でございまして・・・」タタさんがそう言って頭を下げたので、三輪も慌てて頭を下げる。

「あ、ああ。引き留めて悪かったね。」

龍緑様はそう言うと廊下を歩いて去っていった。

「三輪。」タタさんがいつもよりも低い声で三輪に耳打ちする。

「龍緑様には近づいちゃダメよ。姿を見かけたらすぐに走って逃げなさい。」

「え?どうして?」

「あの方はまだ妻がいないの。まさか・・・旦那様の使用人に手を出されたりはしないと思うけど、用心するに越したことはないわ。一度手を付けられたが最後、巣に連れて帰られて花嫁にされるわよ。」

「はい?」

『え?なんの冗談ですか?』

とツッコみそうになったがタタさんは見たこともないほど怖い顔をしている。

どうやら真剣な話らしい。


『嘘でしょ!?』

あんなに優しそうなお金持ちのイケメンが三輪のような行き遅れの下働きに手を出すわけがない。

というか女の方からいくらでも寄ってきそうだ。


 三輪は龍緑様が去っていった方向をちらりと見ると、歩きだしたタタさんについて行った。

部屋までの道は・・・覚えられなかった。


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